埼玉・川越は蔵の街でもあり、パンの街!〈パンピーポー〉&〈川越ベーカリー 楽楽〉/池田浩明のまだ見ぬパン屋さんへ。

LEARN 2022.11.12

パンラボ・池田浩明さんによる、Hanako本誌連載「まだ見ぬパン屋さんへ。」からお届け。今回は、奇跡的に残された古い街並みで知られる「蔵の街」、埼玉・川越が舞台。地元でパン用の小麦「ハナマンテン」が栽培され、それを使ったおいしいパン屋さんが登場してきた「パンの街」でもあります。地元にも愛されている、とっておきの2軒を紹介。

1. 〈パンピーポー〉地元が生んだ小麦が、とびきりのパンに。

パンを焼き出す若松大輔シェフ。お店は1970年代の木造住宅を自身でリノベ。
パンを焼き出す若松大輔シェフ。お店は1970年代の木造住宅を自身でリノベ。

東京からそんなに遠くない川越に、まるで北海道にでもきたような、広々とした小麦畑があるのはちょっとした驚きだ。
若松大輔シェフにとってもそうだったにちがいない。長年使ってきた埼玉県産小麦「ハナマンテン」。どこで栽培されているのか意識することはなかったが、店(かつて営んでいた〈リュネット〉)から車で1時間の場所にハナマンテンを栽培する〈原農場〉があることを知り、出かけていった。収穫直前の6月。たまたま私も同行したのだが、一面に実った小麦を眺めたり、小麦の穂に触ったり、若松さんは時を忘れてたたずんでいた。

黒ゴマのベーグルチェリークリームチーズ各420円。北海道産小麦「春よ恋」使用。チェリーの酸味と黒ゴマの相性が新鮮。
黒ゴマのベーグルチェリークリームチーズ各420円。北海道産小麦「春よ恋」使用。チェリーの酸味と黒ゴマの相性が新鮮。

実はこのハナマンテン、プロの間でも、パンを作るのがむずかしいといわれている。若松さんは、試行錯誤の末、画期的な製法にたどりついた。小麦に水だけを加え一晩置く。すると、まるで隠されていた扉が開かれたように、バゲットでも、食パンでも、いろんなパンが作れる。食感はもっちり、しかも、ほかの小麦ではあまりないほど旨味に満ちた、素朴な風味が香るのだ。
「製法を変えることで、ハナマンテンの別の顔に気づきました。成分表示をあてにせず、自分でがんがん試作したほうがいい。本当のポテンシャルが見えてくる」

ハナマンテンで作る「ミッシュ」(カンパーニュ)や食パン。〈パンピーポー〉に並ぶのは、一つずつ表情があっておしゃれな形の、噛み締めると小麦の香りがあふれだすシンプルなパンばかり。小麦生産者とパン職人が一体となって生み出す、川越ならではの味だ。

〈パンピーポー〉について

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〈パンピーポー〉
住所:埼玉県川越市砂新田1-19-8 │地図
営業時間:10:00〜17:00
定休日:日〜火曜
Instagram:@panpeople__
地元の名店だった〈リュネット〉の若松大輔シェフがオープン。地元産小麦も使用したハード系が中心。

2. 〈川越ベーカリー 楽楽〉川越名物の芋や醤油を生かした名物パン。

木のカウンターには、味噌パンやあんぱんなど、川越らしく和を意識したパンがたくさん。
木のカウンターには、味噌パンやあんぱんなど、川越らしく和を意識したパンがたくさん。

「蔵造りの町並み」から路地を曲がれば、風情ある石畳の菓子屋横丁。木造土壁の店舗に次々と観光客が吸い込まれていく。中へ入ると、おいしそうなパンに目が釘付けになるけれど…上を向いてみよう。個人のお店でここまで、と感動的に高い吹き抜けは、川越の宮大工に依頼、近くのときがわ町で採れた木材を使用と、伝統的で、自然で、地元産であることにこだわった。

お味噌のパン、1番人気のカリじゅわ塩バターパン各250円。表面はかりかり、中からじゅわっとバターがあふれだす。
お味噌のパン、1番人気のカリじゅわ塩バターパン各250円。表面はかりかり、中からじゅわっとバターがあふれだす。

パンも然り。川越名物“川越芋”をイメージした「もっちりおさつロング」、秩父の味噌を使った「お味噌のパン」をはじめ、川越の醤油や黒豚ベーコンなど、川越と周辺の素材を積極的に使用する。

ガチ盛りチーズバーガーセット1,080円。向かいの〈サンドイッチパーラー 楽楽〉の2階でイートイン。
ガチ盛りチーズバーガーセット1,080円。向かいの〈サンドイッチパーラー 楽楽〉の2階でイートイン。

「僕は酒屋の代目。酒屋は継がず、好きなパン屋になったけど、生まれ育ったこの街に恩返ししたい」
〈川越ベーカリー 楽楽〉のオーナーの上野岳也さんも、川越〈原農場〉のハナマンテンを使用。3年前に襲った台風で農場が被害を負ったときは、川越のパン屋さんたちと募金を募った。そしていま、〈原農場〉が遊水地(川が増水したとき畑に水を流す)になる計画が持ち上がるピンチ。テレビなどでハナマンテンのよさを訴え、小麦畑を残そうと一役買った。川越愛が、パンで街を盛り上げる。

〈川越ベーカリー 楽楽〉について

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〈川越ベーカリー 楽楽〉
住所:埼玉県川越市元町2-10-13│地図
TEL:049-257-7200
営業時間:8:00〜17:00(土日祝は7:30〜。売り切れ終了)
定休日:不定休
〈サンドイッチパーラー 楽楽〉は16:30まで営業(売り切れ終了)。

Navigator…池田浩明(いけだ・ひろあき)

「パンラボ」を主宰しながら、ブレッドギークとして、日本全国のパン屋さんを巡り情報を発信する。いち早く国産小麦にも注目し、日本のパンの未来をみつめる。

■パンラボblog:panlabo.jugem.jp

(Hanako1214号掲載/photo:Kenya Abe text:Hiroaki Ikeda)

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