『大豆田とわ子と三人の元夫』、『火口のふたり』など話題作に出演! 瀧内公美さんインタビュー「伝えることに臆病にならないように」
海外の映画祭で高い評価を得る春本雄一郎監督の映画『由宇子の天秤』(9月17 日全国順次公開)で主演を務めた瀧内公美さん。映画の主題である「正しさとは何か」を入り口にして、役へのアプローチ、俳優としてのキャリアを重ね方、”恐怖の餃子パーティ”について、話を聞きました。
膨大な情報にあふれる現代社会において、私たちは常に「何が正しいか」、「正しくないか」を無意識にジャッジしている。では、その「正しさ」はどこからやってくるのだろう? そして、自分が信じる「正しさ」が、時に正義となって人を傷つける刃になってはいないだろうか? 情報化社会において「正しさ」が持つ危うさを問う映画『由宇子の天秤』が9月17日に公開される。主人公は、ドキュメンタリーディレクターとしてある事件を追い、真実に近づくうちに究極の選択を迫られる木下由宇子(瀧内公美)。果たして、由宇子は自分の”正しさ”の元でどんな判断を下すのか──。今回は、由宇子を演じた瀧内さんに正しさとは何か、俳優としてのあり方、今一番気になる”あの人たち”のことについて話を聞いた。
とにかく変化をもたらしたかった
Q.瀧内さんから見た由宇子はどういう女性ですか?
「仕事に関していえばプロフェッショナルなんだけど、愚かさもあり、矛盾を抱えた人」
Q.たしかに前半では、仕事人間ならでの一種の冷徹さも感じられました。
「彼女にとって、マスメディアの本分は国民に真実を伝えることであり、それゆえに真実を追及したいという想いが強く、自分が目にしたありのままの真実を伝えることがだんだん自分の正しさ、正義になっていく。ただ、彼女が捉える“真実”は自分の主観が入っているし、その正義を押し通そうとしてしまうんですよね。そこが怖いというか」
Q. 由宇子は時に怒りを向ける相手に対して、ドキッとするような行動もします。あれはアドリブでしょうか?
「いえいえ!事細かに脚本に書かれていました。この作品は本番前に1週間くらいリハーサルをして、ほぼほぼ全てのシーンを固めてから撮影したんです。監督の中に明確な答えがあり、“ドキュメンタリーディレクターの由宇子は僕が持っているところもあるから”と言われたので、春本監督を知ることがキャラクターを造っていくことにおいて一番近道でした。私は監督の前作『かぞくへ』を見た時に、監督の露悪的というか正直な面を見たいと思っていたんですね。だからこの作品で、人間が持つそういうところや葛藤が出せるといいなと思っていました」
Q. 瀧内さんは春本監督に自らコンタクトを取って「作品に参加したい」と申し出たと伺いました。それはなぜでしょうか?
「当時、役者として幅を広げたい、自分に変化をもたらしたいと思って、新しい監督を探していたんですね。というのも、私の過去作には過激なシーンがあって、一度そういった役を演じると似たような役でお声がけ頂く機会が多くなる。とってもありがたいけど、もっと違う役も演じてみたいと思って。“この人と組めたら何か起こりそう”と思う監督にお声がけさせてもらっていました。そういった中で今回、春本監督と実を結びました」
Q.春本監督のどんなところに惹かれましたか?
「前作『かぞくへ』という作品は、とにかく役者さんの芝居がよくて、イキイキしていましたし、劇場で号泣しちゃって(笑)。主人公の葛藤が丁寧に描かれていて、脚本がよかったんです。人間を描くということは人の危うさ、汚さ、純粋さ、そういう多面的なところをあぶりだすということ。春本監督とご一緒すると、自分の人間くささがいやでも出てくるだろうなと思いました。監督は作家性の強い方なので、寄り添ってやっていかないと大変だろうとも思いましたが、そういった作品にチャレンジしたいという気持ちがありました」
Q.ドキュメンタリーディレクターとして真実を追い求める由宇子という役柄をどう造りましたか?
「いつもはそこを深く考えるんですけど、今回の場合はとにかく監督の中に明確な答えがあったので、そこに寄り添っていくのみでした。細かいことをいえば、私が口に出す音まで決まっていたんです。自分がどう考えてどう表現するかというよりも、監督に寄り添って答えを出すがこの作品においての”正しさ”でした。ただ、監督の中には、余白を持たせたいという裏腹な部分もあって、何か質問をしても『そこは答えたくないですね』と言われたことも。ふだん、表現の正解は一つではないけど、この作品は一つしかないので、とにかくそれを探ることが大変でした」
Q.この作品に出て、自身の中でどんな変化がありましたか?
「今までは自分が『これ』というものを表現する、表現したいという想いが強かったのですが、自分の考えとは違うけどでもやってみて、新たな表現方法を発見する、開拓するということをこの現場で学びました。今はそっちもおもしろいなとも思います。こだわり続けるのやめようって。自分がこだわってること自体が、もしかしたらこの作品が問いかける”正しさ”へ固執すること同様に怖いことなのかもと」
ぼんやりと仕事をしないように。
Q.この作品では情報の扱い方、受け取り方の難しさも考えさせられました。瀧内さん自身は情報社会の中で気をつけていることはありますか?
「表層的なものだけを見ないようにしています」
Q.気になることがあれば、自分で深く調べてみたり?
「問題の根本は何なのかを突き詰める、ということですね。たとえば、何かいけないことをした人だけを責めるのではなく、周りには誰がいるのか、どんな環境だったのかなど、根っこになっている部分を見つめるようにしています。問題を起こした人だけを攻撃することは私は違うと思うので。本当のことなんて誰にも分からないからこそ想像することが大切かな。ネットニュースや週刊誌のスキャンダラスな見出しにも踊らされないように(笑)」
Q.そういった意識は昔からですか?
「はい、小さい時からだと思います。疑い深いのかもしれませんが、自分が見たものしか信じないというか。そこで感じたこと、考えたことを大切にしているというか。芸能の世界は誤解もされやすいですが、大事なことって本人にしかわからないと思うんですね」
Q.作品の中で、由宇子はすごく難しい選択を迫られて、ある一つの決断をします。この選択について、ご自身はどうお考えになりましたか?
「あの決断に関しては、見た人それぞれの感想があると思いますが、つまづく度にチャンスはあったのになぁとは思っていました。でも“そういうこともあるんじゃないかな”とも思いました。私自身が由宇子を一番理解しないと、演じる時に違和感をもったままではやれないんですよね。人は曖昧なものだし、揺らぐし、とてももろい。彼女は最後にある行動に出ますけど、それが希望になってほしいという監督の願いもそこにはあったし、私も彼女にとっての希望になってほしいと思いました」
Q.由宇子は親が経営する学習塾も手伝う講師の顔も持っています。役作りはどうされましたか?
「木下塾は大手ではなく、個人でやっている地域に根付いた塾です。私も小さいときに近所のそろばん教室に通っていて、当時のことを思い出しました。そこには、片親で家に帰れない子も預かりながらそろばんを教えていて、木下塾にもそういった生徒も来るんじゃないかと想像しました。ただ勉強を教えるだけじゃなくて、人と関わることの喜びや悲しみも味わえるような場所なんじゃないかって。一度、私がそろばんの試験に落ちた時、親に『真剣にやらないから落ちたんでしょう? もう月謝払わないからやめますと言ってきなさい』って怒られて。大泣きして『続けたい』とお願いしたんですけど聞いてもらえなくて。その時、先生に『お金が払えないのでやめます』と泣きながら伝えたら、『月謝が払えなくてもあなたが来たいんだったら来なさい』とおっしゃってくださって。なんかそういったことを思い出しながら、人間くささや温かさが出せたらいいなぁと思っていましたね」
Q.インタビュー冒頭で、一緒に仕事をしたい監督には自分から声をかけるという話がありましたが、仕事をする中でほかに大事にしていることありますか?
「自分がキャリアアップしていくためには、何が必要なのかを常に考えるようにしています。自分はどうなりたいか、今の自分には何が足りないのか。ぼんやりと仕事をしないように。常にやってみたい役やご一緒してみたい俳優さんや監督イメージすることは大切にしていますね」
恐怖の餃子パーティ
Q.最近はテレビドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』で、”器の小さい2番目の元夫を夢中にさせる麗しい女優・古木美怜”を演じたことでも話題に(まだ観てない人はぜひNetflixで!)なり、コメディエンヌという新たな一面を見せてもらいました。特に餃子パーティのシーンが最高で。
「ありがとうございます。あの餃子パーティのシーンって、ふつうに考えたら恐怖ですよね(笑)。好きになったのか、遊んでいたのか、そんな曖昧なところを楽しんでいた相手の元嫁の家に押しかけて、元嫁のお父さんに餃子を作らせて、さらに、3人の元夫たちを追い詰めていくっていう。実際にあったら怖いでしょう? それで、『大豆田とわ子さんに会ってみたいな〜』なんて言ってしまう。美怜は図々しいんだけど、それだけだとイヤな人になるから、どこかチャーミングさはあってほしいなと思っていました」
Q.美怜さん、最高でした。
「もともと、監督のオーダーでは“大女優に憧れてる昭和的な女優”と言われてたんです。お相手も(東京03の)角田さんだったので、同年代の40代近い年齢をイメージしていて、髪型もちょっと昭和な気取った感じで作ってもらっていたんですけど、台本見た時に32歳と書いてあって驚いちゃって。『え!10歳もサバ読んでたの!?』って(笑)。それで、とても32歳には見えない女優になっちゃいました。でも、私自身そこに面白みを感じてました。すごくユニークで自由な現場だったので」
Q.その現場の楽しさが画面を通して伝わってきました。時に仕事現場では、タフなメンタルを求められることもあると思いますが、息抜きはどういうことしてますか?
「体の声を聞くようにしています(笑)。最近はオフではない時にどう自分を保つかということを大事にしていて。例えば仕事が9時集合だったら、朝6時半ぐらいに起きてウォーキングするとか。時間を最大限に使って自分の自由な時間を作る。来年ミュージカルに挑戦するので、体を鍛えています」
Q.もともと運動は好きで?
「得意ではないですけど好きです。今、体の可動域を広げるためにヨガをやったり、トレーニングをしています。どうしても体が固まっちゃうので。テレビドラマに出て気づいたのは、自分は上半身の動きが鈍いということでした(笑)。体を動かしてないからだなって反省したんです。実はその先生もYouTubeで見つけて、自分から連絡を取ったんですよね(笑)」
Q.さすがの行動力!瀧内さんが自分らしくいるために心がけてることはありますか?
「嘘をつかないこと」
Q.少しでも違うと思ったら“違う”と言う?
「どうしても“この人はどう答えて欲しいのかな”って意図を探っちゃうんです。たとえば初めて台本を読んだとき、最初に自分の感じたことや考えが浮かびますよね。でも、現場でいろんな人たちと話すうちに、違う意見も聞こえてくる。そうやっていろんな人の意見を聞き続けると『この人はどういう意図でこう言ってるのかな?私にこういうふうにしてもらいたいのかな?』ってことを考えてしまう。だけど、自分の意見を伝えることも大事なんですよね。そのことに臆病になって、誤魔化そうとするときがあるんです。だから、自分の気持ちに正直でいることや、調和を考えすぎて誤魔化さないことは大切にしたいです」
Q.では最後に、瀧内さんがドキュメンタリーディレクターとして作品を作るとしたら、どういうテーマにしますか。
「うわぁ、なんだろうなぁ。YouTuberの実態かな?(笑)。だって、気になるから。YouTuberやSNSの存在って個が強いイメージがあるんです。アメリカ人は個が強いイメージだけど、日本人って本来そうなのかなって。人を思いやることだったり、和の心だったり。今、個がどんどん強くなっているのを感じていて、その一つにYouTuberの存在であるような気がしています。個人を映し出していくと、自ずと社会全体が見えてくると思っていて、現代を切り取るという意味では。YouTuber、一番気になるかな」
映画『由宇子の天秤』
9月17日(金)渋谷ユーロスペース他全国順次ロードショー
出演・瀧内公美 河合優実 梅田誠弘 松浦祐也 和田光沙 池田良 木村知貴 川瀬陽太 丘みつ子 光石研
監督・脚本・編集:春本雄二郎
プロデューサー:春本雄二郎 松島哲也 片渕須直
配給:ビターズ・エンド
製作:映画「由宇子の天秤」製作委員会
(2020/日本/カラー/5.1ch/1:2.35/DCP/153分) 映倫区分G
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