SDGsやジェンダーフリー、どう向き合う? ”自分らしく生きる”女性たちを描いた本10選。生きた時代も、境遇も超えて。

LEARN 2021.06.11

自分だけが頑張っても「私らしく生きる」のは難しいということ、隣のあの子は敵じゃないということ、そろそろみんな気が付いている。みんなが生きやすい未来を作るために何ができるんだろう。SDGsやジェンダーフリーが謳われるずっと前から描かれてきた女性たちの姿。物語を通して自分が何を思うか見つめたい。

1.自由に歩くことの重要性を知る『ウォークス 歩くことの精神史』レベッカ・ソルニット

歴史上の出来事や私たち自身の自己認識に、歩くことがどのように作用しているのか。著者ソルニットはその問いを女性たちの闘いにまで迫り綴っている。「歩行の歴史を考察した一冊。孤独であっても、自らの意思で歩くことが人間の思想と精神を自由にしてきた一方、女性が都市を散策することが当たり前でなかった時代状況も学ぶことができる」(野村)(左右社/4,950円)

2.人と人との“関係性”を考える『The Address Book』ソフィ・カル

周りを取り巻く交際関係に迫ることで、見ず知らずの他人の人物像を暴いていく。その様子を著者が毎日記録した新聞の連載を本にした。「拾ったアドレス帳に記載された人々に持ち主の話を聞き、発表後論争を引き起こした作品。自身の人生をさらけ出し、他人にもその姿勢で向き合うことで起きる摩擦や、自己と他者の境界について考えさせられる一冊」(野村)(本人私物)

3.母たちの姿から、“ケア”を紐解く『マザリング 現代の母なる場所』中村佑子

著者が自身の実体験をもとに、「ケア」に携わる人々に話を聞きながら「母」の定義を細断。今を生きる人々の声から、ケアを巡る普遍的思考を紡ぐ。「“母”という言葉を知的に柔らかく解体する一冊。ボーヴォワール、デュラス、石牟礼道子など、先行研究や作品への言及も豊か。彼女たちの語りと読み手が結ばれ響き合う感覚に魂が洗われる」(野村)(集英社/2,420円)

4.小さな幸福にいつでも救われる『婦人の新聞投稿欄「紅皿」集 戦争とおはぎとグリンピース』西日本新聞社編

息子の無事の生還を祈り母が作り続けたおはぎや羊羹。新聞の小さな投稿欄に登場する食べ物から見えるのは家族のため必死で生き抜いた女性の姿だ。「敗戦から9年。西日本新聞の女性投稿欄『紅皿』に寄せられた、日々の会話や食卓、この世を去った人との思い出。時代に翻弄されながらも、それらの手触りを手放さない個人が幸福をつくっていく」(野村)(西日本新聞社/1,540円)

5.自ら言葉を紡ぎ道を拓く女性の姿『地球にちりばめられて』多和田葉子

主人公が“言語”を手がかりにして人と出会い、旅をしながら言葉のきらめきを発見していく物語。著者の並々ならぬ言語への関心が伝わる。「留学中に故郷が消滅した女性Hirukoは、移民として生き抜くため独自の言語を作り出す。母語を失った彼女の手作りの言葉が圧倒されるほど魅力的で、でこぼこな表現は乱反射し、言葉への認識が改まる」(野村)(講談社/1,870円)

6.私たちが“普通”に創作するために『天才たちの日課 女性編 自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常』メイソン・カリー

女性が創作を仕事にするためにどれだけ格闘したのか、そしてその仕事を続けることの難しさに焦点を当てた大人気シリーズの第二作。「“必ずしも自由でない日常”の中で創作の時間を捻出してきた彼女たちのリアルな生活を知ると、一気に身近に感じられた。小さな日課が積み重なり人生が作られていく、そのヒントが詰まった一冊」(竹中)(フィルムアート社/1,980円)

7.無意識に従属する“構造”を見直す『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』レベッカ・ソルニット

男と女を巡るいびつな権力構造を暴き、辛辣に、ときにユーモラスに、すべてのひとに力を与える傑作エッセイ。「世の中をどう見つめるか考えるときに信頼しているソルニットの新刊。強者が弱者を沈黙させる構造は、男性から女性に対してはもちろん、さまざまな場所で存在している。その事実と向き合い進むための手掛かりを知ることができる本」(竹中)(左右社/2,420円)

8.女性“2人組”の肖像を描く『女ともだち ガール・ミーツ・ガールから始まる物語』はらだ有彩

小説、コミック、映画、アニメといった物語の中の「女性ふたり」を、心強い唯一無二の関係として語った人気Web連載エッセイを書籍化。「私とあなたの関係はそれぞれで、とても一言では言い表せない。物語で描かれてきた二人のその多様さから、これまで自分が出会い、別れ、助けられてきた女友達一人一人との関係を愛おしく思い出した」(竹中)(大和書房/1,650円)

9.連綿と続いてきた女性の連帯『ヒロインズ』ケイト・ザンブレノ

モダニズム文学の男性作家たちの妻や愛人たちの奪われた声や言葉を巡るケイト・ザンブレノの長編小説。自身を取り巻く抑圧と戦う女性が描かれている。「時代を超えて女性たちの連帯は続いているのだと実感する物語。過去に存在していた彼女たち、これからの彼女たちの声を消し去らせないためにも自分のことを書き続けようと勇気が湧く」(竹中)(C.I.P.Books/2,530円)

10.さようなら、“女性○○”家『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』長島有里枝

「女の子写真」と揶揄的に呼ばれ、女性写真家たちを若さのうちに葬り去ろうとするさまざまな言説を、ジェンダーの視点から検証する。「“女性”のイメージを押し付けられたり、仕事で“男性化”を前提にされた経験がある人は多いと思う。当事者の立場から当時の言説につぶさに向き合った誠実さに、違和感をそのままにしない力をもらえる」(竹中)(大福書林/3,630円)

ささやかでも誰かがどこかで発した声を、聞き取る尊さ。

“女性の活躍”という言葉をトレンドとして消費しないために、一括りにせず一人一人の顔を想像するのが大切だと思います」と口をそろえるのは、ライフ&カルチャーコミュニティ「She is」を卒業し、共に会社を立ち上げた野村由芽さんと竹中万季さん。「戦い続けてきた女性たちの物語を読むと、勇気が出ると同時に時代が変わっても構造自体は大きく変わっていないのだと痛感します」(竹中)、「つたなくても自分の言葉を発すれば、その言葉が誰かを救うこともあると思うんです」(野村)。そう語る2人が紹介してくれたのは、生きた時代も境遇も、またそれを伝える表現方法も様々な女性たちの息遣いを感じる10冊だった。

Selector…野村由芽・竹中万季(me and you, inc.)

のむら・ゆめ、たけなか・まき/2017年に「She is」を立ち上げ、今年独立。対話を出発点に人と人を繋ぐ会社〈me andyou, inc.〉として活動を開始した。

(Hanako1197号掲載/illustration : naohiga photo : MEGUMI, Yoshiki Okamoto, Keiko Nakajima text : Yuko Tanaka, Koharu Ishizuka, Momoka Oba, Rio Hirai, Mariko Uramoto, Makoto Tozuka, Ayako Nozawa edit : Rio Hirai(FIUME Inc.))

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