何かをしたい、と思った時に。 東日本大震災から10年「あの人がいま思うこと。」/レーシングドライバー・佐藤琢磨さん、プロゴルファー・有村智恵さん

LEARN 2021.03.09PR

故郷の危機をきっかけに行動を起こした人、チャリティ活動をする人。全員に共通するのは、“ずっと続けていく”という気持ちでした。今回は、レーシングドライバー・佐藤琢磨さんとプロゴルファー・有村智恵さんにお話を聞きました。

1.世界で戦う現役レーサーとして子供たちに夢を。/レーシングドライバー・佐藤琢磨

自身のプロジェクト「With you Japan」プロジェクトで子供たちを支援し続けている佐藤琢磨さん。アスリートによる社会貢献活動を進める日本財団「HEROs」のアンバサダーでもある。

「夢を持つ大切さ、挑戦する楽しさを伝えたい」
「夢を持つ大切さ、挑戦する楽しさを伝えたい」

東日本大震災が発生したのは、インディカー・シリーズ開幕戦の2週間前。僕はアメリカを中心に世界を飛び回ってレースに参戦する毎日。自分の国が大変な状況の中、ひとり無力感を抱きました。でも、世界11カ国から集まったレーシングドライバーたち全員が、ライバルにもかかわらず「気持ちを一つにして、走る」と言ってくれた。そんな想いに触れ、自分は何をすべきなのか。考えた結果生まれたのが、子供たちを長期的に支援するプロジェクト「With you Japan」です。アメリカはチャリティ活動が盛んな国。まずはレース開催地の小学校を回り、東北の子供たちの現状を伝えることから始めました。応援メッセージや絵など、僕が架け橋となって届ける。最初の一歩はそこからでしたね。帰国後、次は何ができるだろうと考えた時、子供たちに伝えたいと思ったのは

「夢の持つ力」でした。僕自身、10歳の時に鈴鹿サーキットで見たレースから夢をもらい、そこから10年間追い続け、20歳の時にチャンスを掴んだ。英才教育は受けてこなかったし、無謀な挑戦だと周りには思われていたと思う。でもきっかけと動機と環境がそろって、この世界に入ることができた。子供たちがもし震災をきっかけに夢を諦めてしまう状況にあるなら、それは悲しいと思ったんです。そんな想いが結実したのが、「キッズカートチャレンジ」。小学生を対象にしたゴーカートによるミニレースで、今では全国に広がり、1000人以上が挑戦。タイムトライアルの上位入賞者による決勝大会を行うまでになりました。タイムトライアル時に参加者が支払う、各サーキットへの利用料の一部が復興活動に充てられ、子供たちの挑戦が支援につながる仕組みになっています。参加した子供たちのとびきりの笑顔と、挑戦する真剣な眼差し。それが僕の原動力。自分たちだけではできない取り組みや、自治体との連携など、競技の枠を超えてアスリートが協力し合う。日本財団「HEROs」アンバサダーとして、この先もやれることはあると信じています。

【佐藤琢磨さんの活動】

1.年々参加者が増え、盛り上がりを見せる「TAKUMA KIDS KART CHALLENGE」。ここでレースに触れた経験から、ドライバーを目指す子も出てきたとか。

2. 1年に1度開催される表彰式「HEROs AWARD」。2019年は56競技から総勢105名の現役・元アスリートが出席。競技の枠を超えた取り組みを誓い合った。

3.コロナ禍で開催できなかった2020年は、オンラインでイベントを開催。100名を超える子供たちと未来をテーマにセッション。大成功に終わった。

佐藤琢磨(さとう・たくま)

レーシングドライバー。1977年生まれ。東京都出身。F1ドライバーを経て、2010年からインディカー・シリーズに参戦。2020年、2度目の優勝。所属チームを16年ぶりの優勝へ導く。北米を拠点に世界各地で行われるレースに参戦。
■Twitter:@TakumaSatoRacer

2.熊本地震では自身も被災。経験を糧に伝え続ける。/プロゴルファー・有村智恵

社会課題に取り組むアスリートや団体を讃え、支えていく「HEROs AWARD」。2020年の受賞者のひとりであるプロゴルファーの有村智恵さんが、人生初の寄付を行ったのは20歳の時だ。

「備えておくことも、すぐにできる立派な支援」
「備えておくことも、すぐにできる立派な支援」

2008年に起きた「岩手・宮城内陸地震」。高校時代を過ごした宮城県が被災したことで、何かしなくては…そんな衝動につき動かされました。とはいえ、当時は「寄付」以外の選択肢がわからなくて。ただ、人生で初めて「誰かの、何かの、助けになりたい」、そう思った出来事でした。その3年後、「東日本大震災」が起こります。この時は実際に現地を訪れ、微力ながらボランティア活動に参加し、被害に遭った方々と直接お話しする機会もありました。その際、「物は十分なくらいいただいています。今、私たちが欲しいのは仕事、生きがいなんです」と聞き、大きな衝撃を受けました。それまで思い描いていた〝支援〞というものの概念が覆されたというか。お金を送ることも大事だけれど、違った支援の形もある。支援というのは、正解がないものなんだ、と。

そして、2016年に発生した「熊本地震」で、今度は私が被災する側に。停電で真っ暗になった家で、物が飛び交う音だけが聞こえる中、何が必要だったんだっけ?どう行動するんだっけ?とパニックに陥りました。あれだけ東日本大震災と向き合い、たくさんのことを学んだはずだったのに…。やっぱりどこか遠いところで起こった話で、他人事として捉えていたんでしょうね。恥ずかしながら、日頃から蓄えておく、ということをほとんどしていなかったんです。もう、私は何を学んだの!?っていう自分に対する憤りと、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになりました。

そこでもうひとつ気付かされたのは、〝備えておくこと自体が支援だ〞ということ。「あの時の災害から学んだから、私たちは助かりました」って言えることだけでも、十分なんだって。日本は災害大国で、常にどこかで誰かがサポートを必要としています。でも直接行動を起こせなくても、そのたびに学べることは必ずある。その第一歩こそ、「備えること」だと思います。簡単、いつでもできる、なんて思って後回しにしないこと。できることから始めませんか。

【有村智恵さんの活動】

1.授賞式では、「これまでの活動が実現できたのは、周りの皆さんのおかげです」とスピーチ。女子ゴルフ界の社会貢献活動を牽引してきたことが評価された。

2.熊本出身の女子選手と共に、チャリティオークションや募金活動を積極的に行う。コロナ禍では、トーナメント従事者へのクラウドファンディングにも賛同。

3.「夢は叶う、という成功体験を子供たちに知ってほしい」とスタートした「智恵サンタ」。子供たちから届く夢を、有村さんの手で叶えるサプライズ企画だ。

有村智恵(ありむら・ちえ)

プロゴルファー。1987年生まれ。熊本県出身。憧れの宮里藍プロを追って、ゴルフの強豪校、宮城県・東北高校へ進学。卒業後、プロへ転向。ツアー通算14勝を誇り、抜群の知名度と人気で知られる。自身の活動はインスタグラム(@chiearimura)でも積極的に発信中。

(Hanako1194号掲載/photo : MEGUMI styling : Kyu Hokari hair & make : Takashi Izuwaki(Lomalia)text : Yoshie Chokki)

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