大銀座100年を味わう。愛され続ける老舗5店の絶品料理
1. 明治から愛されるドミグラスの味。〈煉瓦亭〉のハンバーグステーキ

明治28(1895)年創業、2025年で130年の歴史を刻む〈煉瓦亭〉。開港まもない横浜のホテルでフランス料理を学んだ初代が開いた、洋食店の元祖だ。外国人が住む築地居留地が近かったことから西洋料理店として始まったが、「次第に日本人の味覚に合うよう進化を重ね、大正期からは洋食屋として親しまれてきました」(4代目・木田浩一朗さん)
ポークカツレツやカキフライ、オムライス、ハヤシライスと、この店発祥のメニューは多いが、実は西洋料理店時代から続く希少な一品がハンバーグ。
合挽き肉に生の刻みタマネギを加えてよく練り上げたタネや、セルクルで丸型に焼いた愛らしい目玉焼きも変わらぬ手法だ。
「当初はミンチボールという名だったようです。現存する西洋料理店の中で言えば、ハンバーグを出したおそらく最古の店かもしれませんね」と、木田さん。
そしてふわりときめ細かな口どけのハンバーグによく絡むのが、艶やかなドミグラスソース。使われる肉の部位や香味野菜の詳細は〝企業秘密〞だが、既製品は使わず、イチから仕込む手順は変わらない。代々受け継がれ、洋食屋の精神とも言える深く濁りのないドミグラスの味わいを、丁寧に賞味したい。

店は当初〈松屋銀座〉の辺りにあり、界隈を煉瓦街と呼んだことから、初代が〈煉瓦亭〉と命名したそう。写真は昭和初期、店の前に立つ白服の従業員の皆さん。
住所:東京都中央区銀座3-5-16
TEL:03-3561-3882
営業時間:11:15~14:00LO、17:30~20:00LO
定休日:日休
席数:60席
銀座ガス灯通りに立つ現在の店は、昭和39(1964)年築。白のクロスや使い込まれたウィンザーチェアが老舗の景色を作る。
2. 秘伝の特製ダレが香る銀座生まれの骨付き唐揚げ。〈三笠会館〉の鶏の唐揚げ

2025年、記念すべき創業100年を迎えた〈三笠会館〉。大正14(1925)年、創業者・谷善之丞(たにぜんのじょう)氏が東銀座の「歌舞伎座」前で氷水屋を開いたのが始まりだ。やがて三原橋で食堂を開業し、そこで昭和7(1932)年にシェフたちと開発したのが「鶏の唐揚げ」。以来〝日本で初めて外食メニューで提供された唐揚げ〞として看板商品となっている。
「発売直後から大変な人気で、当時は鶏をさばく専用の職人を雇っていたほどだったそうです。味付けは考案されたレシピからほぼ変わっていないんですよ」と語る広報の竹島訓(さとし)さん。
薄口醤油と焼酎を軸に、ごま油で香り付けした特製ダレが味の決め手。鶏肉は岩手県の「みちのく清流どり」を使用し、毎朝、丸鶏からさばいている。
衣はサクッとクリスピー、噛めば醤油のほのかな香りとともに鶏肉の旨味がじゅわりと広がる。これぞ日本の、銀座のフライドチキン。フォークは使わず〝手で持って〞頬張るのが、100年変わらぬ正しいお作法だ。

創業者が奈良県出身だったことから、屋号は三笠山から命名し、ロゴマークは鹿に。写真は昭和40年代のロゴ。当時の唐揚げには骨入れ専用の器も付いていた。
住所:東京都中央区銀座5-5-17 三笠会館本店1F
TEL:050-3155-3289
営業時間:11:00~16:00、16:00~21:00LO
定休日:元日休
席数:40席
唐揚げは1階のイタリアンバール〈LA VIOLA(ラ ヴィオラ)〉で提供。半身5個セット2,500円なども。
3. 箸で食べるカツレツ銀座初のとんかつ店。〈銀座 梅林〉のロースカツ定食

交詢社通りで海外観光客が作る大行列が今やなじみの風景となっている〈銀座 梅林〉。昭和2(1927)年創業、銀座で最初のとんかつ店だ。創業者の澁谷(しぶや)信勝氏は、箸でも食べやすい一口カツや独自の中濃ソース、カツ丼のタレ、さらにヒレカツサンドを考案した発想力あふれる人物。「初代はもともと薬剤師で薬局を営んでおり、〝薬と同様に体に良い料理で人々を元気にしたい〞と開業したそうです」(4代目・澁谷真奈さん)
主役の豚肉は、ロースは鹿児島県産黒豚を、ヒレは関東近県産をブロックで仕入れて毎朝切り分ける。綿めん実油(めんじつゆ)や菜種油を合わせたオリジナルの油でカラリと揚げるから、軽やかな食べ心地で決してもたれないのだ。
驚くのは、インバウンド客が8割を占める行列店となっても、気持ちのいい接客と真っ直ぐな仕事ぶりは変わらない点。
「銀座で働く覚悟や重みをよく知っているからかもしれませんね」と澁谷さん。こんな店が銀座の味を支えているのだろう。

〈梅林〉の前身、〈澁谷藥館〉。初代が〈煉瓦亭〉のポークカツレツに感動し、“箸で食べられるカツを出そう”と閃ひらめいたとか。銀座の洋食黎明期らしいエピソードだ。
住所:東京都中央区銀座7-8-1 B1
TEL:03-3571-0350
営業時間:11:30~20:00LO
定休日:元日休
席数:30席
2021年夏の改装で、路面店から地下1階へ移転したのは、お客様に空調の効いた階段で待っていただくためだそう。ヒレカツ定食3,400円。
4. 百七十余年の味を伝える清らかなだしの江戸料理。〈割烹 嶋村〉の真鯛かぶと煮とうずら椀

創業は江戸後期の嘉永3(1850)年。かつて日本橋檜物町と呼ばれた八重洲の一角に初代が仕出し屋を開いたのが〈割烹 嶋村〉の始まりだ。腕のいい初代は江戸城西ノ丸の御用仕出しを務め、その後も政界の大物や文人ら食道楽の粋人が通う料亭として名を馳せた。現在は8代目の加藤一男さんと9代目の仁さんが幕末の味を今に伝えている。
その代表的一皿が「真鯛のかぶと煮」。大ぶりな真鯛のお頭をなし割りにし、醤油、酒、砂糖、味醂で煮付ける。感嘆するのは煮汁のうまさ。醤油が香りと色を添えながらも、塩辛さは出しゃばらず、花かつおと利尻昆布でとる一番だしが鯛の繊細な風味を際立たせる。この味付けの〝塩梅〞が絶妙なのだ。
「薄味の関西人も濃い味が好きな東北人も来店される東京は、どなたも満足できるものを出さないといけません。その加減が江戸の、〈嶋村〉らしい味になっているのかも」と8代目。気さくな接客と澄んだだしの味わいが、無二の魅力となっている。
店に飾られる安政6(1859)年の「大江戸料理番付」。中央下、最高位を意味する勧進元の位置に「嶋村」の文字が。当時の料理界での存在感が伝わってくる。
住所:東京都中央区八重洲1-4-10 東京建物八重洲仲通りビル1・2F
TEL:03-3271-9963
営業時間:11:30~14:00(土~13:30)、16:30~21:00LO(土~20:00LO)
定休日:日祝休
席数:44席
旧店舗から移設した尾州檜(びしゅうひのき)の一枚板のカウンターも、店の風情に。
5. バイキング発祥の地でとろけるローストビーフを。〈帝国ホテル 東京〉のローストビーフ

日比谷の地に明治23(1890)年に誕した〈帝国ホテル 東京〉は、まさに〝日本初〞の宝庫。ランドリーサービスやショッピングアーケード、そして昭和33(1958)年に登場した「バイキング」も、当ホテルのブフェレストラン(現〈インペリアルバイキング サール〉)が発祥。その代表的料理が、ローストビーフ。歴史は開業当時まで遡り、百三十余年受け継がれる一品だ。
リブロースを使い、5〜6㎏のブロックが基本。180℃のオーブンで約1時間焼き、同時間寝かせて味を落ち着かせる。
「週末は1日で10本ほど出ることも。牛スジとミルポワ(香味野菜)を2日間煮込んで作るグレービーソースもホテル伝統の味です」(鈴木隆行シェフ)
熟練の所作でシェフが5㎜ほどの厚さにスライスすると、表面は肉汁が満ち、ロゼ色に輝く。ソースの香味と薬味に添えたホースラディッシュの辛味とのみごとな調和! 食べれば分かる、いつの世もバイキングの主役はローストビーフなのだ。

大きな肉の塊を専用ワゴンにのせ、お客の目の前でカットする。今やおなじみのこのサービスも、大正12(1923)年に日本で初めて帝国ホテルが導入した。
住所:東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル 東京 本館17F
TEL:03-3539-8187
営業時間:7:00(土日祝6:30)~10:00、11:00~15:00、17:30~22:00※ローストビーフの提供は昼、夜のみ
定休日:無休
席数:160席




















