小石原はるかの“食事放談” EATING OUT 焼きそばは店で食べるにかぎる。小石原はるかの選ぶ名軒4
どこで何を食べるか、毎食本気で考え抜くライターの小石原はるかさんがホストとなって食の対談を行う本企画。今回は〝焼きそば仲間〟のブロガー、塩崎省吾さんと共に、お店で食べる焼きそばの魅力を考える。
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“お店の焼きそばのおいしさを知ってほしい”(小石原はるか)
小石原はるか(以下、小石原) 大好物の焼きそばを取り上げる日がようやく来ました。私や塩崎さんはお店にあれば必ず頼むほどですが、一般的にはそうではないですかね。もっと広めていきたいのですが。
塩崎省吾(以下、塩崎) 僕もそうだったのですが、〈東洋水産〉の「マルちゃん焼そば」の完成度が高すぎて、外で食べるという考えに至らないのかもしれません。「お店でソース焼きそばを頼んでも、自分で作っても、同じくらいの味なのでは?」と思わせてしまう名品で。
小石原 焼きそば自体の基準値が高くなってしまったんですね。
それにしても、塩崎さんのご本を読むと、ソース焼きそばにこんな歴史があったとは。改めてブームのおさらいをしたいです!
塩崎 これまでに四度のブームがありました。最初は戦後の闇市の時代。第二次は1970年代、家庭向け商品の普及ですね。そして第三次は「B—1グランプリ」が始まった2006年頃からで、ご当地ものが人気になりました。それまで焼きそばはどこでも同じだと思われていたのですが、地域差があるのが分かったんですね。
小石原 そして今が第四次の名残ですかね。
塩崎 そうですね。2017年頃に焼きそば専門店が増えたのが第四次で、今もじわじわと広がっています。
小石原 〈神保町 やきそば みかさ〉〈焼きそばのまるしょう〉など、影響力のあるお店ができた頃ですね。焼きそばはなじみがある割に、まだまだ深掘りの余地を残している印象です。
塩崎 まさにフロンティア。今、注目しているのは深蒸し麺なのですが……。
小石原 ああ、タフな食感が素晴らしいですね。
塩崎 やはり分かっていただけますか。普通の蒸し麺は麺に入っているかん水と蒸気が化学反応を起こして黄色くなるのですが、二度蒸しした深蒸し麺は茶色くなります。まるでソースで味付けしたように。表面の水分が飛んで歯応えが良くなったり、炒めやすくなったり。時間が経ってもおいしいのも特徴です。
小石原 最近は深蒸し麺を作る製麺所が減少傾向なんですよね。
塩崎 手間賃を価格に乗せづらいようで。だからこそ深蒸し麺のおいしさを伝え続けたいんです。食べに行くなら、〈福ちゃん〉ですね。
小石原 浅草の地下街にあるお店ですね。オープンスペースなのも風情があって。こちらの麺はソース味の中にも粉の風味が強く感じられます。
塩崎 麺自体がおいしくて。
小石原 なんなら、具なしでもいいんじゃないか、という。〈梅林〉はいかがです?
塩崎 ああ、外せない名店ですね。こちらは深蒸し麺ではないけれど、お店で蒸した麺を使っています。
小石原 焼きそばの種類が尋常じゃない。中でも「肉ソース焼きそば」が……
塩崎&小石原 スペシャリテ!(笑)
塩崎 麺がカリッと焼かれていて、ドライな感じがいいです。
小石原 それは中国料理店ならではの強い火力だからでしょうか。
浅草〈福ちゃん〉
浅草で愛されたのはソースに負けない麺の味。
太さ、硬さ、食感を追求して探し出したという長時間蒸した麺(深蒸し麺)は、小麦の風味がしっかりと濃い。それを豚骨や鶏ガラでとったラーメンスープでほぐすのがミソだ。ラードで焼いて香りを出した桜エビと相乗効果をなし、うまみが多重に広がる。
Pick up
さっぱりとしたソース味をうまみ食材が膨らませる。
ウスターソースと濃いめの焼きそばソースをブレンド。お酒のアテにもなるのは食材の組み合わせでうまみが増しているから。
シンプルだが充分に考え抜かれた具材。
野菜はキャベツのみ。そこに、桜エビや揚げ玉など、歯応えと香ばしさを加える具材が混ざる。「鉄板焼きそば」400円。
お湯ではなく、自家製スープでほぐす。
〈福ちゃん〉はラーメンも人気。そのスープは毎日仕込む自家製で、焼きそばを鉄板にのせたときにほぐすためにも使われる。
炒めてもちぎれない、弾力のある深蒸し麺。
店主が探し求めたのは、鉄板で勢いよく炒めてもちぎれない強さを持った深蒸し麺。歯切れの良さがありつつ、もちっとした食感も。
五反田〈梅林〉
中華鍋でバリッと焼いた麺にソースや餡がよく絡む。
肉ソース、五目から始まって現在は16種もの焼きそばを作る。お客の要望に応えるうちに増えたというサービス精神は、その盛りの良さにも。塩崎さん曰く「サイドメニューには手が伸びない」というほどの量だが、焼きそばだけを何種も食べたいというのが本音かも。
Pick up
香ばしい肉は別に揚げてトッピング。
「肉ソース焼きそば」980円は、麺と野菜をそれぞれ炒め、最後に下味をつけて揚げた豚肉をのせたもの。食感と香りがいい。
ストレート麺にソースは薄く絡める。
新潟から取り寄せるストレート麺は蒸して香りと味を良く仕上げる。麺の良さを伝えるため、「肉ソース焼きそば」のソースは控えめ。
毎日使う分だけ蒸すしっとりとした麺。
その日に届いた麺を厨房で蒸し、少し休ませてしっとりとさせる。季節によって水にさらす時間や蒸し時間を細やかに調整している。
「青菜からし焼きそば」1,050円も人気。
“深蒸し麺のカルチャーが途絶えないように発信中!”(塩崎省吾)
小石原 あとは〈あぺたいと〉もおすすめしたい。独特のストレート麺を茹でて洗わず、鉄板でパリッパリッと焼く〝両面焼き〟で。
塩崎 初めて食べたときはびっくりしましたね。僕のおすすめはのりシソトッピングです。
小石原 大阪風の焼きそばを食べるなら、どこでしょう?
塩崎 〈大阪お好み焼き ともくん家〉がおいしいですよ。
小石原 こちらは太麺ですね。
塩崎 女性が入りやすい店構えなのもポイントです。
小石原 一見するとワインバルのような。探してみると本当にいろんなお店と麺がありますね。
塩崎 ブームに終わらず、食文化として残ってほしいです。
月島〈あぺたいと酒場〉
ちびちびとつまんで飲めるパリパリ食感の焼きそば
赤坂 〈大阪お好み焼き ともくん家〉
大阪の友人宅に招かれたような居心地。
OTHER CHOICES
神保町 やきそば みかさ
行列ができる焼きそば専門店。北海道産小麦を使った自家製のちぢれ麺は、茹でてから炒めることでもちもちとした食感に。そこにスパイシーなソースが絡むのだが、麺用、具材用、仕上げ用と3種のソースを使い分けている。
住所:東京都千代田区神田神保町2-24-3 1F
焼きそばのまるしょう 本郷三丁目店
特製ソース焼きそばのほか、スパイシーカレーソース、ほくほくポテトバター雪塩、チーズタッカルビなどさまざまな味付けがあり、常に10種以上がラインナップしている。「このバリエーションの多さは体験してほしい」と塩崎さん。
住所:東京都文京区本郷3-42-7
次号のゲストは倉本康子さんで、「大衆酒場の嗜み方」がテーマです。