ゆっくりしたいし、お腹も空いた! フレンチトーストやクロックムッシュも!パンメニューがおいしいレトロ喫茶4軒
タイムスリップしたようなこだわり空間が魅力の純喫茶では、思わず顔がほころんでしまうパンメニューも楽しみの一つ。今回はフレンチトーストからクロックムッシュまで、トーストやパンメニューが楽しめる純喫茶を4軒ご紹介します。
1.子供の頃の原体験が作り出した唯一無二の店〈COFFEE LODGE DANTE〉/西荻窪
東京オリンピックの翌年、1965年に西荻窪で産声をあげた〈DANTE〉。父親の影響で子供の頃からコーヒーとクラシック音楽に慣れ親しんだ店主が、20代で一念発起して開いた。店名の由来は家に版画のレプリカが飾ってあったから。開店時には穴ぐらのように細長い建物をどう生かすか悩み、今はなき伝説の名曲喫茶、中野〈クラシック〉の美作七朗氏に相談。カウンター部分を掘り下げて高低差をつければ広く見える、と現在のスタイルに行きついた。
コーヒーは「より香りが立つ」とサイフォン式「HARIO」のアルコールランプ式の抽出器で時間をかけて。苦みが少なくクセがない今の味に落ち着いたのは20年前のこと。「長くやっているといろんな経験をするし、順次忘れていくから(笑)。それもいいかなって」。
バウムクーヘン200円は温めて。大阪の「セラ・ルージュ」のもの。ダンテブレンド550円。+50円でダブル(増量)に。
古き良き中央線文化の名残りを探しに、ぜひ。
2.澄んだ空気がうれしい!都会のロッジ〈喫茶 穂高〉/御茶ノ水
御茶ノ水の駅前に突如現れる山小屋風の店が〈穂高〉。近隣は大学街で、昭和30 年当時は日本山岳会もご近所。そのなごりで昔も今もスポーツマン、とりわけ山ボーイが集う。建物は日大出身で山好きの建築家・森史夫氏が設計。意外にもマスターは「スターバックスみたいな店」を思い描いていたそうだが、神田川沿いという地の利を生かし今のスタイルに。
神田川を見下ろす窓際が特等席。壁の絵は畦地梅太郎氏の作品で、数枚所蔵している。
天井が高く見えた方が落ち着く、とテーブルや椅子は低め。車椅子のお客さんも座れるよう、入り口付近は運びやすい軽い椅子を。季節感に気を配り、卓上の生花はもちろん壁の絵画もこまめに入れ替える。
コーヒーはたくさん作ると味に深みが出る、とマスター。「骨董品」の琺瑯ポットで一気に40杯分。
昨年体を壊し禁煙に。「そうしたらコーヒーっていい香りだなって」。東京のロッジでいただく一杯は、格別。
3.下町の“粋”の文化が西洋スタイルで昇華した〈カド〉/向島
西洋絵画がズラリと並び、天井にはシャンデリア。日本にいることすら忘れてしまう異空間、実は下町向島。料亭を営んでいた先代は文化人とも親交があり、ヴィクトリアンスタイルを取り入れた店の設計は文豪、志賀直哉の弟、志賀直三が手がけた。
絵画×バラの重厚さ!年に数回入れ替えも。
「当時は昔ながらの職人文化がまだ残っていて、お客さんは今でいうハードボイルド。ボルサリーノ帽にダンヒルのライターで決め込んだおじさん方と、お座敷上がりの芸者さん。看板の活性生ジュースは昔のユンケルですから」と2代目の宮地隆治さん。
大学生の頃に先代が他界し店を継いでからは「父の残した雰囲気を尊重しつつもグレードアップしたい」と改革も。自家製のくるみパンのサンドウィッチをメニューに加え、5年前には完全禁煙化。今では純喫茶好き、洋館好き、そして絵画好きと、幅広い客層から愛されている。
4.都会でみんなが集う場所。古民家建築好きも必見の〈珈琲と紅茶とバロック音楽 平均律〉/学芸大学
「うちは、初めてでもすぐ店になじんでもらえる。結婚した人達もいるんですよ」と店主の有賀えりささん。昨年、最愛のご主人が他界してからは、1人で店を切り盛りしている。
ご主人は70年代に喫茶専門学校の講師を務めた喫茶店のプロ。ある日、友人と吉祥寺を歩いていて耳にした平均律の美しさに感動し、自らの店を持ちたいと考えるように。そして80年に原宿の裏路地で開いたのが、コーヒーとバロック音楽の店だった。ブランクをへて17年前に学芸大学に場所を移してからは、自家製のケーキや中国茶のメニューも増やした。
「ウェッジウッド」から益子焼まで。BGMはバッハやハイドンなどが多い。
梁や柱、華奢な背もたれの椅子まで、古材を取り入れた内装は、古民家再生の第一人者である石川純夫氏によるもの。
仕切り壁に幾何学的なのぞき窓をあしらったテーブル席のつくりは、氏の建築物の中でも珍しいのだとか。ぜひご注目を。
思い出があちこちに。
(Hanako1150号掲載/photo : Kenya Abe text : Hiroko Yabuki)