紡ぎ出されるのは、繊細な味わい 目指すのは「自分らしく丁寧に」料理を作ること。出張料理人、後藤しおりのこだわりと秘密に迫る。
宅配弁当やケータリング、出張料理人として活動する後藤しおりさん。華やかな印象のある出張料理人ですが、後藤さんが目指していたのは、季節に寄り添う日常の料理作りでした。彼女の「アトリエ」から、その秘密をお届けします。
自分らしい、丁寧な料理を求めて
大きなガラス窓から中を覗くと、鉄の素材と灰褐色のブルーのペイントがひと際シックな空間が広がっている。まるで料理店のようなこの空間は、後藤さんがひとつひとつ考え抜いて完成させたキッチン(アトリエ)。
そもそも後藤さんが出張料理人になったきっかけは、ブータン料理店、野菜料理店などで働いた経験から。
「お客さまの要望から、見た目の華やかさを意識して料理してしまうところがあり、自分の料理は何なのかと悩んでいました」。
そんな彼女が見つめ直したのは、季節の食材や昔ながらの家庭料理、気候風土に根ざした郷土食。「自分の記憶の中にある、体にすーっとなじむ料理、それを自分らしく盛り込むことが私の料理だと思えるようになって」
独立後の広告やデザイン関連の会社の夕食作りの仕事も、後藤さんの「自分の料理探し」に大切なものを投げかけてくれた。
「昼夜ハードに働く人たちほどコンビニやファストフードで食事を済ますことが多い現実を知りました」。その彼らが、土鍋で炊いたご飯の塩むすびを食べて、顔色が良くなり、集中力が向上するさまを目の当たりにした。
彼女のごはんをもっと知りたくて、お弁当を頼みました。
そのたたずまいからもおいしさが伝わる、箱のサイズにもこだわったお弁当。むかごご飯、さんまの竜田揚げ、ベルピーマン、豚団子の黒酢だれ、おから、白瓜のゆず漬け、しろ菜のお浸しなど。
お弁当やケータリングで使う食材は、おいしさ優先で選んでいたが、結果的に信頼できる生産者さんとのつながりができたそう。
裏庭から摘むこともある、季節感のある野の花や枝ものも欠かせない。
「忙しい日々の中で、ひと口食べて食欲の湧く、懐かしくて、安心感のあるごはんを届ける人に」。
そんな後藤さんの気持ちが、隅々にまでに行き渡った料理の数々は、心と体を満たしてくれる、優しさに溢れていました。
(Hanako1123号掲載photo:Nao Shimizu text:Yukari Akiyama edit:Chiyo Sagae)