東日本大震災から10年。 東北の「現在地」。 【岩手】陸前高田市に誕生した発酵テーマパーク〈CAMOCY〉へ。人々の復興への想いを形に、“みんなで一緒に守っていく”へ。
2011年3月11日、午後2時46 分。その時から日本は大きく変わった。そこから10年。東北を盛り上げる人が集い、場が創られ、新たな文化が誕生。“復興”という言葉ではくくれない、面白い動きが日々生まれています。今回は、街全体を立て直すという河野さんや街の人たちの思いと、フードユニット「and recipe」をはじめとするたくさんの外の力とが“醸されて”実現した、発酵テーマパーク〈CAMOCY〉をご紹介します。
津波でさらわれた土地に誕生した、人、もの、場所を“醸す”拠点。〈CAMOCY〉
陸前高田市に、昔から続く「蔵」のつくりを思わせる木造の「発酵テーマパーク」が誕生した。発酵をキーワードに、ワクワクを創造する新たな場だ。
街の99%を津波がさらい、全てを失ったはずだった。
岩手県陸前高田市今泉。2011年3月11日まで、ここは約500世帯、1600人が暮らす集落だった。目の前に海が広がる、のどかな街。「うちは江戸時代から200年続く味噌・醤油の蔵で、隣も、数軒隣も味噌・醤油を造る商店。いつも大豆を煮たり…コトコト、トントンなんて音が聞こえて、そこに小麦を炒る香りや、お醤油に火入れする香りが漂う街でした」とは、〈八木澤商店〉9代目社長の河野通洋(こうのみちひろ)さん。そんな街の風景が変わったのは、10年前の3月11日のこと。陸前高田市の中でも特に海抜の低い今泉は、津波に根こそぎさらわれた。街の99%が流され、ほぼ全てを失った。〈八木澤商店〉の蔵も全壊し、秘伝のもろみも流失した(健康効果の研究用に北里大学にシャーレひとつ分のもろみを預けていたことにより、秘伝の醤油が「奇跡の醤」として復活するのは、数年後のことだ)。
「再び人が住んでいい街に戻るには、地盤を10メートルかさ上げしなければならない。山3つ分の土が必要で、陸前高田の中でも復興に特に時間がかかったんです」(河野さん)こうして2020年、今泉は再び「人の住める街」に戻る。震災から9年後のことだった。そして、その年の12月、〈八木澤商店本店〉の跡地に、発酵テーマパーク〈CAMOCY〉がソフトオープンした。この3月にはグランドオープンを迎える。〈CAMOCY〉の由来は、日本語の「醸す」。8つ集まるテナントすべてをつなぐキーワードは「発酵」だ。麹や味噌など発酵食品を使うデリが食べられる〈DELI and BENTOgentil(ジャンティー)〉や、〈八木澤商店〉の味噌や麹などを使った定食が自慢の〈発酵食堂 やぎさわ〉はもちろん、関東の大人気ベーカリーで修業した職人の手がける〈BAKERY MAaLo(ベーカリーマーロ)〉は発酵が命のパンを扱うし、薬剤師が作るオーガニックチョコレート専門店の〈CACAO broma〉の滋味深い味わいの品は、チョコが発酵食なのだと思い出させてくれる。陸前高田初のクラフトビール醸造所〈陸前高田マイクロブルワリー〉では、現在ビール酵母がおいしく発酵中。3月には記念すべき一杯目がお目見えの予定だ。
こうした試みは、街全体を立て直すという河野さんや街の人たちの思いと、フードユニット「and recipe」をはじめとするたくさんの外の力とが“醸されて”実現した。「僕も含め、以前の陸前高田の人たちは、街に誇りも持っていたし、“自分たちだけで守っていく”と思っていました。でも、街が流されたとき、世界中から助けの手を差し伸べてもらって、“みんなで一緒に守っていく”に変わった。陸前高田が何かの役に立っていくために、障がいのある人をはじめユニバーサルな雇用の場を作る、国内・海外との縁を作る。そんなことも見据えています」目の前の土地には、〈ワタミ〉が手掛ける農業テーマパークも誕生予定。街の風景がまた大きく変わる。
〈CAMOCY〉
JR大船渡線BRT陸前高田駅(バス停)から車で15分、陸前今泉駅(バス停)すぐ。新幹線の一ノ関駅からバスで約1時間40分。
■岩手県陸前高田市気仙町74-1
■11:00~19:00(店舗により異なる)全館火休(祝の場合、翌休)
■禁煙