冷やされ忘れたマヨネーズ#04 初心|小原 晩エッセイ
#04 初心
高校を卒業してすぐ青山の骨董通りにある美容室で働きはじめたものだから、いまでも骨董通りを歩くと初心を思い出す。
それと同じような感じで、初心を思い出す食べものがある。ファミリーマートの鮭おにぎり(のりがしっとりしてるほう)と、ファミチキである。
私にとって初心というのは、背筋の伸びるようなシャンとした感じではなく、胸がきゅうとなる、くるしいような感じである。あの頃の新鮮なくるしさを思い出すのである。
近くに系列店があったから、A店で人が不足するとB店まで駆けつけなければならなかった。そうなると移動時間が生まれるわけである。 A店からB店までの間にはファミリーマートがあり、わたしはそこへおもむろに立ち入り、鮭のおにぎりとファミチキを購入する。ほんとうは海苔がパリパリの、立ったままだときれいに剥くのがむずかしいほうが好みなのだけれど、片手で歩きながら食べなければならないものだから、もう海苔の巻いてあるほうの鮭おにぎりにかぶりつく。うまい。この鮭おにぎりは、おにぎりというよりは、茶碗のなか白米としての機能がつよい。そうして、ファミチキの黄色い、心許ない袋をきりとり、大きくひとくち。うまい。油でぎとぎとしている。そしてすぐさま米をたべる。すこしずつ、鮭はやってくる。うまい。塩気うまい。このまま逃げてしまいたい。目の前をおしゃれたちが通る。原宿で働きさえすれば自動的に私もおしゃれになるのだと思っていたが、どうやらそうではないらしい。ものの2分で食べ終わる。さあ仕事だ。できもしない仕事だ。嫌味を言われて笑う仕事だ。オーナーはお前のこと天才って言ってるけど、俺はお前がふつうのやつ以下だって知ってるよ。とわざわざ言ったあのひとはいまでも元気にやっている。と、ここまで思い出して、現実に頭が戻る。

おばら・ばん 1996年、東京都生まれ。作家。2022年に自費出版でエッセイ集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(のちに商業出版)を刊行。その他の著書に『これが生活なのかしらん』。
HP|https://obaraban.studio.site/
IG|@obrban
X|@obrban
text&photo_Ban Obara illustration_CONVENIENCE YOUNG
















