おひとり様推奨!もし全国の女性が一斉に仕事や家事を休んだら…?未来が動き出した運命の一日に迫る『女性の休日』の見どころ

おひとり様推奨!もし全国の女性が一斉に仕事や家事を休んだら…?未来が動き出した運命の一日に迫る『女性の休日』の見どころ
おひとり様映画#14
おひとり様推奨!もし全国の女性が一斉に仕事や家事を休んだら…?未来が動き出した運命の一日に迫る『女性の休日』の見どころ
CULTURE 2025.10.24
デートや友達、家族ともいいけれど、一人でも楽しみたい映画館での映画鑑賞。気兼ねなくゆっくりできる「一人映画」は至福の時間です。ここでは、いま上映中の注目作から一人で観てほしい「おひとり様映画」を案内していきます。今回は映画『女性の休日』について。鑑賞後はひとりで作品を噛み締めつつゆっくりできる飲食店もご紹介。

今作がおひとり様映画におすすめな理由

『女性の休日』

この社会を生きる私たちを鼓舞してくれる力強い名篇。語り合いたくなること確実だが、刺さりすぎてすぐには言語化できない可能性も。まずは一人で観てじっくり味わうのはいかがだろうか。

毎年発表される世界経済フォーラムのランキングで、16年連続「世界一のジェンダー平等国」の座を守り続けている北欧の島国・アイスランド(ちなみに日本は148カ国のうち118位)。2024年には同国で史上2人目の女性大統領が誕生したことも話題となったが、1980年に世界で初めて民主的に女性大統領を選出したのもこの国である。それほど前から男女平等が進んでいたのかと思いきや、実はそのほんの数年前までアイスランドでは女性の幸福とは「良き妻、良き母として家族に尽くすこと」だと考えられていた。女性には自由な教育や雇用の機会が与えられず、職にありつけたとしても賃金格差があるのが“常識”だったのだ。ではそんな愚かな“常識”を、誰が如何にして打ち破り、ジェンダー平等への地平が切り拓かれたのか。

歴史の転換点となったのが、今からたった半世紀前の1975年10月24日に実施された前代未聞のストライキ、通称〈女性の休日〉。その日、アイスランド全女性の9割が一斉に仕事や家事を休み、路上へと繰り出した。本作はそのムーブメントがどのように邁進されていったのかを、当事者たちの愉しげな証言とアーカイブ映像、ユーモラスなアニメーションを交えながら探求。「私たちにも社会は変えられる」と奮い立たせてくれる、感動的なドキュメンタリーである。

女性は船乗りにも、弁護士にも、農場主にもなれない。家族の誰より早起きして家事をすべてこなすべきで、稼ぐのは男性の役目だから格差もあって当然だ——。

そんな考えが広く浸透していた1970年代アイスランドにも、不平等に抗おうとする女性たちがいた。世界各地で行われた女性解放運動に刺激を受けた人々は団体<レッドストッキング>を結成。「目覚めよ、女性たち」という言葉をスローガンに、男性と平等の権利を求めてさまざまな活動を展開していった。国営ラジオで番組を持った際には、タブー視されていた男女格差や女性の性生活、生理や中絶についてあっけらかんと語り、家畜の品評会が如き女性コンテストが開催されると聞けば会場に美しい雌牛を連れて参上。当時の思い出をレッドストッキングのメンバーたちは笑いながら振り返る。

エスプリの効いた彼女たちの活動は注目を集めたが、その分批判や中傷も多く寄せられた。「醜く子どもを産めないから妬んでいる」「女性を外に出さないのは敬っているからだ」「男性憎悪だ」など、平等な権利を訴える女性への反応はどの国も似たようなものだと呆れてしまう。ある女性はこう語る。「男性を憎んでいるわけじゃない。ほんの少し変わってほしかっただけ」。

映画『女性の休日』

転機となったのが、国連が国際女性年と定めた1975年の6月に開催された女性会議。レッドストッキングのメンバーをはじめ、全国各地からあらゆる階層、年齢、党派の女性300人が集まった。彼女たちは、女性たちがどれほど社会に貢献しているかを示すため、同年の10月24日、一斉に仕事や家事を休むストライキを行おうと決起する。もちろん女性たちは一枚岩ではなく左派もいれば右派もいて、政治に興味がない層もいる。おまけに当時は携帯電話はもちろんインターネットもない時代。団結することも情報を発信することも困難であったはずなのに、どのように女性の90%がストライキに参加することとなったのか。その驚くべき道筋が少しずつ明らかにされていく。

もちろんすべての物事が完璧に進んでいったわけではない。そこには幾つもの妥協や逆境もあった。たとえば<女性の休日>という名前は、ストライキという言葉に忌避感を持つ右派の女性たちに配慮したもの。あれは紛れもなくストライキであり、休日なんて言葉にしたくなかったと一部の女性たちは悔しさを滲ませる。だが重要なのは、そういう妥協や逆境を乗り越えた結果、より大勢の女性と連帯することができたこと。心は一つにならなくとも手を取ることができれば、社会をより良くする大きなうねりを起こすことができると示した。分断社会の現代につくられた本作の肝はそこにある。

映画『女性の休日』

かくして迎えた10月24日。「男性こそが社会を動かしている」という幻想が打ち砕かれるように、アイスランドの社会や経済は機能しなくなり、銀行や工場、空港などあらゆる施設はがらんどうに。女性たちは自分たちの力と結束を示すように、広場で行われた集会へと集結していく。路上へと繰り出した女性たち、そしてその過去を振り返る女性たち。どちらも顔には笑みが溢れ、その瞳に希望を宿しているのが印象的だ。詳しくは語らないが、女性たちが自ら手繰り寄せた革命はどのように花開いたか、その身震いするほどに感動的な映像と音はぜひ劇場で確認してほしい。

レッドストッキングの特徴は「力関係がなく、全員がリーダーであること」だったが、それは本作も同じ。特定の英雄に焦点を当てるのではなく、登場する女性全員が主人公なのだ。驚くべきはインタビュー対象の豪華さ!子どもの頃に船乗りになりたかったが無理だと言われた女性は、<女性の休日>の5年後に初の女性大統領となったヴィグディス・フィンボガドッティルであるし、初の女性最高裁判所長官や初の女性農業組合幹部も登場する。

映画『女性の休日』

印象的だったのは<女性の休日>当時、子どもだった人々の証言だ。彼女/彼らは幼少期に見た男性社会で疲弊した母の背中、社会を変えようと動き出した女性たち、10月24日に多くの「初めて」を経験しパニックになった父やその職場の男性たちを見たことを振り返る(そのうちの一人が前大統領グズニ・ヨハンネソン)。社会の過ちを正すために力を合わせ、声を上げ、そして変革を成し遂げた女性たちの姿を見たことが、幼い彼女/彼らの未来に与えた影響は計り知れないだろう。

もちろん<女性の休日>のあと、即座に社会が変わったわけではない。簡単に偏見や差別はなくならないし、男女の賃金格差がないことの証明を雇用主に義務付けた法律が施行されたのも2018年のこと。だがヴィグディス元大統領も「アイスランドにおける女性解放の第一歩」と語った通り、その日、社会が自分らしく生きる女性を受け入れるための土壌がつくられはじめたのは間違いない。<女性の休日>は到達点ではなく、出発点だったのだ。そしてその闘いは今なお続いている。

映画『女性の休日』

私たちが生きる社会にもまだまだ多くの男女格差や不平等が横たわる。ガラスの天井を破るためには男性社会に阿ることが条件であることもままある話。だがジェンダー平等で世界の先をいくアイスランドにもかつて同じ時代があり、人々の熱量と連帯によって変えられていったのだ。<女性の休日>で広場に集った女性たちの歌声は、時代も国境もを超えて変化を望む私たちにこう訴えかける。「本当にやるの?できるの?必ずやる」と。

70分という短めのランタイムながら、観客に大きな勇気と希望を与えてくれる力強い名篇。観終えた者同士で語り合いたくなること確実だが、刺さりすぎてすぐには言語化できない可能性も。じっくり味わうためにも、まずは一人で鑑賞してみてはいかがだろうか。

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ライター

1988年、奈良県生まれのライター。主に映画の批評記事やインタビューを執筆しており、劇場プログラムやCINRA、月刊MOEなど様々な媒体に寄稿。旅行や音楽コラムも執筆するほか、トークイベントやJ-WAVE「PEOPLE’S ROASTERY」に出演するなど活動は多岐にわたる。


公開情報
『女性の休日』
『女性の休日』


2025年10月25日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

kinologue.com/wdayoff

© 2024 Other Noises and Krumma Films.

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