ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガーの親子共演。主演のクララとエマ監督にインタビュー | 映画『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』

CULTURE 2024.07.04

名優ユアン・マクレガーと実の娘で俳優・プロデューサーのクララ・マクレガーがW主演で親子役を演じた話題作『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』(2024年7月5日より公開)は、疎遠だった父と娘が再会、2人きりで旅に出るロードムービー。実際に問題を抱えた時期があったというマクレガー親子がその経験を乗り越え、描いた父と娘の“愛と回復への旅の物語”。主演のクララ・マクレガーと、監督を務めたエマ・ウェステンバーグにオンラインでインタビューをしてみました。

映画『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』

何年も疎遠だった娘のある出来事をきっかけに、父は彼女をニューメキシコ州に向かう旅に連れ出す。関係を修復したくても、どうすれば2人の溝を埋められるかわからない。娘は父との美しい過去を思い出しながらも、自分を捨てた父を許すことができず反発を繰り返す。旅の目的地が近づいてきたとき、2人はお互いが抱える問題と向き合うことになる。(7月5日より新宿ピカデリー他全国公開)

監督:エマ・ウェステンバーグ
脚本:ルビー・キャスター、クララ・マクレガー、ヴェラ・バルダー
出演:ユアン・マクレガー、クララ・マクレガー

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「当て書きしました。お父さんにラブレターを書くつもりで」

――離れて暮らしていた父と娘が久々に会い、旅をする物語です。アルコールとドラッグの依存症に陥っている娘と、かつての自分もそうだった父。どこか危なっかしい親子の話ですが、クララさんが脚本のベースを書いて始まったと聞いています。この話を書こうと思ったきっかけは?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
家族の物語を作りたかったんです。映画はフィクションですが、わたしと父の関係は過去いろいろありましたし、映画のようにお互いに苦難のときを過ごしたこともありました。いまはその反対側に辿り着くことができた、つまり、それを「乗り越えた」という経験があるんです。

――ご自身の体験がベースにはある?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
「もの書きは自分の知ってることを書くべし」ってことわざがあるけれど、そういうことかな(笑)。もともと家族ドラマに興味を持っていたんです。それは誰でも共感できるものだし、それぞれが自分だけのバージョンの、ユニークな家族ドラマを経験していますから、そういうものを描きたいなって。それで、脚本家のルビー・キャスターと、製作パートナーでもあるヴェラ・バルダー(本作にトミー役としても登場。クララと一緒に映画の制作会社を設立)と一緒に脚本を書き始め、わたしだけの経験だけでなく、みんなの経験を反映していきました。ですから、最初のアイデアよりもずっと大きなものに成長していったんです。さらに、監督のエマが参加したことでそれがより肉付けされ、しっかりとした物語になっていって。結果的に、わたしたち全員それぞれの経験や視点をミックスした作品となりました。
ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガー。
ユアン・マクレガーと実娘クララ・マクレガー。

――エマさんはどういう経緯で監督をすることに?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
ヴェラとクララとはもともと知り合いでした。ヴェラとはお互いがアメリカに移住する前(エマとヴェラはオランダ人)、12年ぐらい前にミュージックビデオを一緒に撮ったことがありましたし。今回の脚本をもらったときは、すでにユアンの出演が決まっていたので興奮しました。みなさんそうだと思いますが、わたしもユアンの大ファン。ティム・バートン監督の 『ビッグ・フィッシュ』やバズ・ラーマン監督の『ムーラン・ルージュ』などを観て育ってきましたし、史上最も好きな俳優の1人。製作にキラー・フィルムズ(トッド・ヘインズ監督らを発掘した映画スタジオ)が参加しているということも魅力的でした。なにより、脚本を読み終えたとき、自分と通じるものがあるなって。

――この物語は自分自身の話でもあると?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
わたしは本当に仲のいい家庭で育ちましたが、一時期、家族の1人が依存症の問題を抱えていたことがあったんです。そういうときって、本人が「自分で自分を変えなくちゃいけない」と気づくことが大切だし、それでしか解決はできない。他人はおろか、親でさえどうすることもできないんです。そういうこともあったので、クララたちが書いた脚本を読んだときに通じるものを感じたし、確信したんです。わたしもこの物語を語ることができるなって。

――父と娘のロードムービーになっていますが、エマ監督のアイデアですか?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
クララ。脚本を渡されたときにはもうロードムービーの形式になってました。
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
ロードムービーが好きなんです。中でも、アルフォンソ・キュアロン監督の『天国の口、終りの楽園』が大好き。ああいう映画を作りたいなというのはありました。あと、ロードムービーで展開すると、泡の中に閉じ込められたような感じになるじゃないですか。クルマという閉鎖的な空間の中でキャラクターたちが話をしたり、やりとりをするのが興味深いし、行く先々でサイドキャラクターが関わってくるのも面白いですし。あと、単純に、お父さんとずっと一緒にいたかった(笑)。

――じゃあ、最初からお父さんが出ることを想定して?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
当て書きです。お父さんにラブレターを書くつもりで。ただ、もしこの役を受けてくれなかった場合はニコラス・ケイジがいいなって。冗談ですけど(笑)。
クララとユアンのマクレガー親子は実生活でも親子関係が疎遠だった時期があった。
クララとユアンのマクレガー親子は実生活でも親子関係が疎遠だった時期があった。

――サンディエゴからニューメキシコまで、2人のクルマはアメリカの砂漠地帯をずっと移動していきます。エマさんが監督して話題になったジャネール・モネイのミュージックビデオ『PYNK』も砂漠が舞台でした。岩山とか寂れたモーテルとか、そういうロケーションは好きですか?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
確かに、言われてみれば(笑)。偶然の一致です。ジャネール・モネイはロサンゼルス近郊で撮ったし、今回の映画はニューメキシコがメイン。でもたぶん、わたしは砂漠が好きなんだと思う。どこまでも果てしなく続く荒涼とした景色の中だからこそ、その人の個性を鮮やかに浮かび上がらせることができると思うのです。

――クララさんとお父さんの2人劇のようでもありましたが、気恥ずかしさ、難しさはなかったですか?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
撮影前の方が緊張感はあったかもしれません。でも、撮影に入るとそういうこともなく。そして、今回わたしはプロデューサーだったし、自分で作り上げていった作品でもあったので、父が役者として現場に来てくれたことは、わたし自身や、わたしたちのチームを信頼してくれていたということだったと思います。演技についてのアドバイスはなかったけれど、話し合いは重ねました。お互いの感情を爆発させるシーンでは、「それまでの気持ちをすべて出しちゃおう」という話をして。エマが笑顔で「カット!」って入ってきたときには、ああ、そうだ、わたしたちは映画を作ってるんだって。苛烈なシーンは多かったんですが、むしろ楽しかったですね。
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――エマ監督から見て、撮影中のクララとユアンはどんな親子でしたか?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
テイクの間、2人はクルマの中で待つことが多く、ご存知の通りユーモアあふれる2人なので、よくふざけあっていて。すごく素敵な親子だなって。そして、撮影中には、2人の間の愛情と信頼関係をものすごく感じることができたのと同時に、1人のプロデューサーとして作品を作り上げ、さらに役者として主演も務めているクララを支援しているユアンの姿から、誇らしさを感じ取ることもできて、それも素敵だと思いました。
「いつまでもお父さんと旅を一緒にしていたかった」とクララ。
「いつまでもお父さんと旅を一緒にしていたかった」とクララ。

――ドライブ中に娘が父に「おしっこしたい」というセリフが映画の中で何度も繰り返され、途中とんでもない展開になるのが面白かったんですが(笑)。このアイデアはどこから?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
エマじゃない?
エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
え、そう? クララでしょ?
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
どっちが出したアイデアなのか覚えてないんだけど、タネ明かしをすると、わたし自身が頻尿なんです(笑)。どこへいくにも、トイレはどこにあるのか確かめないと不安になるタイプ。いまもこのインタビュー中にトイレに立ってないのが信じられないくらい(笑)。ロケハンに行ったときも砂漠の中でトイレがなかったので、映画みたいにするしかなかった。それをエマが面白がって繰り返し入れたんじゃないかなって。
エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
物語の中でクルマを停める理由にもなりますからね(笑)。

――父と娘、あるいは、親子の話で好きな映画はありますか? オススメの映画とか。

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
いっぱいあります。まず、マーレン・アデ監督『ありがとう、トニ・エルドマン』が大好き。オールタイムフェイバリット。
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
『トニ・エルドマン』は製作に入る前、エマが観せてくれた。わたしも大好き。
エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
グザヴィエ・ドラン監督『Mommy/マミー』と、ソフィア・コッポラ監督『SOMEWHERE』と……。
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
そうそう! 『ペーパー・ムーン』はこの映画を始めるいちばん最初に話した映画だった。テイタム・オニールとライアン・オニールが親子共演した名画だからって。
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
あと、キャロル・バラード監督の 『グース』も大好き。ジェフ・ダニエルズがお父さんで、まだ小さかったころのアンナ・パキンが娘。すっごくいい映画。お父さんと一緒に観たのを覚えてる。
クララとともにプロデューサーを務めているヴェラ・バルダー。本作にも出演。
クララとともにプロデューサーを務めているヴェラ・バルダー。本作にも出演。

――ところで、本作は、クララとヴェラがプロデューサーで、エマが監督、女性たちがメインで映画を作っています。日本は、一般社会においてもクリエイティブの場においても、まだまだ男女格差が大きく、先進国ではかなり立ち後れています。エマさん、クララさんたちはどうですか? 映画業界で監督として、プロデューサーとして難しさを感じることはありますか?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
やっぱり努力は必要ですよね。女性ディレクターはどうしても批判されやすいので、男性ディレクターと同じようなチャンスを得るためには、もっともっと努力しなければならないんです。ほかの分野のことはよくわかりませんが、クリエイティブな分野で働くことに関しては、残念ながらまだ多くのダブルスタンダードがあるように思いますね。
クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
本当にそう。撮影前、撮影中、撮影後、映画に対する人々の反応とか、そういうあらゆる段階において、男性と同じように認められるためには、2倍努力をしなければならないんです。あと、映画制作のためのスタッフを探すとき、リストや選択肢に女性がほとんどいない。撮影監督、編集者、そういった部門はビックリするほど少ないんです。だからこそ、わたしは数少ない女性たちと一緒に仕事をして、女性たちのクリエイションを推し進めたいなっといつも思っていて。
エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
今回の作品に関していうと、トータルのスタッフは50/50の男女比で、各部署のヘッドは全員女性。これは素晴らしい体験だったと思います。ただわたしは、年齢的にもジェンダー的にもいろんな人に参加してほしい。同じような環境・時代に育ったり、同じような立場だったりすると、どうしても偏りが出てきてしまうので、多様なものをもたらしてもらえるよう、いろんな人をスタッフィングするようにしているんです。違いがある人たちと制作するとなると、自ずとコミュニケーションをしっかり取らなければいけなくなるし、ものの見方も違うので、物語の中での共通項も見えてくる。その過程がすごく面白いので意識していますね。

――今回の映画はどんなふうに観てもらいたいですか?

クララ・マクレガー_interview
クララ・マクレガー
何かポジティブな形でみなさんの心に刺さるといいなって。わたしは、映画を観終わった後1週間くらいは頭に残っていて考え続けるような作品がとても好きなんです。どんな感情であっても自分の中で残っているということは、すごくいい証拠。だから、この映画を観てくださった方々にも同じように感じてもらえたらと。

――次に挑戦してみたいのはどんな映画ですか?

エマ・ウェステンバーグ監督_interview
エマ・ウェステンバーグ
いま、実際に温めている企画がホラー、スリラー、ミュージカルがあって。わたしはどんな映画も大好きなので、夢は全てのジャンルで映画を作ることですね。
illustration_MA1LL edit_Izumi Karashima

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