映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』 映画は「配役」で決まる! キャスティング・ディレクターの草分け、マリオン・ドハティの物語。
映画のエンドロールで目にするキャスティング・ディレクターとは、どんな職業なのか。
ドキュメンタリー映画『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』は、この業界の伝説的存在、マリオン・ドハティを中心に、その歴史と内幕を見せていく作品だ。
同業者である奈良橋陽子さんに、ドハティの功績やご自身の経験談を語ってもらった。
日本の作品で出演者を選ぶのは、監督やプロデューサー。日本は国内でマーケットが完結していて、役者の全体数も少ないし、わざわざ無名の人を発掘して育てていこうとするより、知名度で決めることが多い。売れっ子を主役に立てて、その人ありきで脚本を書くことも。逆にアメリカでは企画が先で、それに合わせて役者が選ばれます。
アメリカの場合は国内だけでなく、オーストラリアやニュージーランドなど、英語を話す多くの国からも出演者を探します。でも、監督がその膨大な候補全員を知ることはできない。だからキャスティング・ディレクターという人たちがいるんですよ。キャスティング・ディレクターが候補を絞って、「この人が良いのでは」と監督に紹介するんです。
この映画でフィーチャーされているマリオン・ドハティは、アル・パチーノやダスティン・ホフマンなど、アメリカの演技の歴史に残るような俳優をたくさん発掘してきました。
「 最後に選ばれるのは演技力のある役者。これは不変です 」
私の場合は、主に日本の役者をアメリカやヨーロッパに紹介するのが仕事なんですが、良いなと思うのは、監督やプロデューサーはそもそも日本人について知らないし、私が推薦する候補者を見て、単純に「良いか悪いか」で決めること。
売れているかどうかは聞きもしません。だから、海外の作品を手がけていると、そうやって新しい才能を発掘できるチャンスがあるんです。
彼らに役者さんを紹介する上で、私は、なるべく、そうっと紹介するようにしているんですよ。「この人じゃないとだめです」じゃなくて、「この人が良いと思うんですけど、どうでしょう」みたいに。そうやっていく中で、監督の好みや求めているものが、もっとわかってくる。
そうして、迷っているなと思ったら、「この人は実力がありますよ」とか、「経歴はこうですよ」などと付け足していくんです。あまり最初からあれこれプッシュはしない。
私の仕事の中でうれしかったことのひとつに、『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999)に鈴木杏ちゃんを配役したことがあります。当時はまだ小さくて、英語もできなかったんですが、一生懸命練習してくれて。今では舞台でも活躍する実力派の素敵な女優さんになりましたよね。
最近だと、BBCとNetflixのオリジナルドラマ『Giri / Haji』(2019)の奥山葵さんは私が主宰しているニューヨークの演劇学校でお会いして、ピンと来てキャスティングしました。
マリオンさん同様、私も演技を学んでいます。私はニューヨークで演技を学び、それを日本に持ち帰って教えるようになり、演出もやるようになりました。
それが自分の道だと思っていたら、こうやって国際的なキャスティングに展開していったんです。演技を知っているから、その人が上手くなるかならないかが見えるし、ひとことアドバイスをしてあげたりもできる。そこはとても大きいと思います。
特に駆け出しの役者さんのことは注意して見ていますよ。それらの経験から思うのは、結局、演技の訓練をちゃんとやっている人がこの世界で最後に残るということ。
有名人から無名俳優まで、すごく広く網を広げてキャスティングする場合でも、必ずそうなる。監督はどの人が演技の特訓をしっかりやっているのか知らないのに、選ばれるのはその人たちなんです。
だから、良い俳優さんならば、日本からも、もっと海外に出ていけると思いますよ。でも、日本のマネジメントは、日本でうまくいっているんだからわざわざ外国で一から始めなくても、という姿勢なんですよね。所有願望というか、守りの姿勢というか。
もっと本人の生涯のキャリアのことを考えてあげてほしい。投げ出して、挑戦させてあげればいいじゃないですか。そうやって強くなれば。ちょっとくらい怖くても飛び込んでみようよ、って私は思いますね。