伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第5回

LEARN 2021.10.01

アイドルとしてはもちろん、ラジオパーソナリティとしても大活躍。乃木坂46の山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを、自由に綴ります。

(photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Kiwa Inaba)

「大人版・夏休みの自由研究【前編】」

「何もしなくてもいい日」が突如発生した。番組の準備やアンケートの期限もまだ先、つまり最低限の家事さえしていれば、生活は回る。家事といっても、自分一人分だけの食事を作るとなると途端に手を抜くし、衣類は洗濯機が、床はロボット掃除機が綺麗にしてくれる。むしろ、私が部屋でぐうたらしていようものならロボット掃除機の行く手を阻んでしまう。彼がのびのびと働くためには家主が出ていくべきである。仕方なく外に出ると、いかにも雨が降りそうな、嫌な色をした分厚い雲が空を覆っていた。もうすでに帰りたい……。でも帰ったら掃除の邪魔をしてしまうので、諦めて近所のカフェに向かい、休みの日に何も生産しない罪悪感から逃れるために、持ってきたパソコンを開いた。急な休みを共に過ごしてくれる友人は君だけだよ、とすがるような思いでエッセイを書いてみるけど、こともあろうに全然進まない。

つまり私は、急に休みを与えられてもやることがない、やることを見繕ってもやる気が起きない、という地獄に陥るのだ。趣味と言えるものはあるのだが、それと仕事との隔たりがほとんどないので、結局働き始めてしまう。趣味のつもりでラジオを聴き始めても「今の曲紹介きれいだな〜」「この人のエピソードトーク面白いな〜」などと感動しているうちに、「私はこんなに中身のある放送をできているだろうか……」と自分の番組への反省会にすり替わってしまう。好きなクイズ番組の録画を観ていても、自分が出演するときにまた同じ問題が出されるかもしれない、と気づいたらノートに書き留めている。浴室にスマホを持ち込み、ベッドに仰向けになっても気づけば本を開いて、それが顔に落ちてくるまで起きている。

最近は横たわって体を休めても、頭が休まっている感覚があまりない。脳内物質が捌かなくちゃいけない日中の情報量が、あまりにも多すぎるのだろう。それに、夜更かしを止めてくれる同居人も、自分を欲してくれるペットもいないので、良くも悪くも常にアクセルをベタ踏みできてしまうのだ。すっかり情報中毒に侵されている。
では、なぜ同時に色々考えてしまうのだろうか? 中断させるにはどうしたらよいのだろうか? どうしたら寝落ち寸前まで情報を得ようとしなくなるのだろうか? 果たして、私は本当の意味で休めるのだろうか?

休みたいけど、夕方まで寝ると腰が痛くなってしまうし、言いようのない倦怠感で一日を消費したって罪悪感しか残らない。何かしていないと、忙しい日よりもずっと気がおかしくなりそうだ。ならば、仕事を思い出さなくていい作業を見つけて、集中するしかない。私を無限思考ループから救ってくれるのは何だろう。
パッと思い浮かんだのは勉強だったが、せっかくなら外へ出たかったし、ペンを持ったりキーボードを打ったりといういつもの行動を少しでも取ると、また「原稿書かなきゃ!」「番組の準備しなきゃ!」となりそうなので避けたかった。

その時ふと、家では作れない何かを作りたくなった。昔から物を作るのが好きで、小学校の夏休みの自由課題は決まって研究ではなく工作を選んでいたし、開閉式のミニチュアログハウスを作って提出したこともある。大学の夏休みにはシルバーアクセサリーが欲しくなって、指輪型に成形した銀粘土を自宅のコンロで焼成し、バイクいじりで使う本格的な工具を父に借りてひたすら磨いていた。だが、今回は具体的なイメージは特になく、とにかくぼんやりとした物への創作意欲なのだ。
さて、24歳の急な夏休み、一体何を作れば気がおさまるだろうか?

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