
連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE36 中里真理子
おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人。食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。
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箱選びが第一。家具は価値より「好き」優先で。
日本の集合住宅では稀なオリジナリティとスケール感のあるヴィンテージマンション。テイストは別、でも価値観は同じ夫婦のカラーと、「暮らすこと」に目を向けた営みが、空間をにぎやかに。

フレームの存在を感じさせない、コーナーを超えて連なる一面の窓と、高低差のある室内構造。一般的な集合住宅にはないデザイン発想やスケール感は圧巻だ。中里真理子さん夫妻も、この家にほれ込んで転居を決めたという。建築やヴィンテージマンション好きには知られた建築家・井出共治の代表作ともいえる集合住宅は東京都内と近郊に複数あるが、パブリックスペースの気持ちよさが決め手になったという。
「緑が豊かで建物や環境と調和している。公園に行かなくて済むようになりました」
建物オリジナルの内装を受け継いで、暮らす。
リノベーションを前提に考えられることが多いヴィンテージマンションの購入だが、中里さん夫妻は違った。
「前オーナーがまだ住んでいらっしゃるときに見に来たのですが、オリジナルの内装が残っていて、それがとても気に入ったんです。好きなものに共通項もあって、すぐに自分たちの暮らしに置き換えて想像できました」
そのオリジナルを、大事に引き継いでいる。クラシックなシステムキッチンも、リビングのブラインドさえもそのままだ。
「ガスコンロは、〈ターダ〉という古い国産メーカーのもの。無骨さと使いやすさが気に入っていて、火力だとかの機能性で選べばもっといいものがあるのはわかっていても、手放せない」
キッチンにも、大きな窓があり、木々の緑が目の前に。木の面材のシステムキッチンとタイルの組み合わせも相まって、現代の東京とは思えない佇まいだ。
「インテリアには、あまりこだわりがないんです。どんなものを置いても“いい感じ”になるのは、箱そのものがいいから。あと、いい意味で夫と趣味が違うので、混じり合うことで面白い空間になっているのかなと」
大活躍中のスタイリストに、こだわりがないはずがない! と、思うが、話を聞くうちにその意味に納得する。家具やアート選びは、ブランドやデザイナーの名前よりも「いいじゃない」と、思う感覚が先。だから名作もジャンクも混在していて、ポジティブな脈絡のなさがオリジナリティに。グラフィックデザイナーの夫・高橋英二郎さんは、大のストリートカルチャー好きで、例えばスケボーの板で作ったスツールなど、そのエッセンスもよきグルーヴになっている。
インテリアを超えて住む家が、暮らしを変える。

長い年月をかけて縁がつながり、大きな決断を経て住むことが叶った憧れの物件は、「ほかの入居者の方も皆、家に愛着を持って暮らしている、その雰囲気が心地よい」と、話す。
「根は大雑把で適当な性格なのですが(笑)、少しだけちゃんと生活してみようと、よい影響を受けています。小さなことだけれど、庭作りを自分たちでやってみるとか。業者さんに頼めば簡単に理想の形になるんだけれど、失敗しながらも楽しくて」
都心からはやや距離があり、利便性には欠けるけれど、地域の市民活動が充実していて、生活のデザインとアートを絡めたプログラムにも参加しているという。理想の物件への転居をきっかけに、「暮らし」に対する考えが住居の中から周辺環境へ、コミュニティへと広がっていくなんて素敵なことだ。
それでもなお、「一生住むかはわからないけど」と、驚きのクールな発言が飛び出した。
「海外に暮らしてみたくて夫婦でロサンゼルスに渡ったり、出産を機に子育てしやすい町に越したり。住まいを変えることに抵抗がないんです」
モノを使って憧れの世界を作るプロながら、ブランドや物理的なものへの過剰な執着がないのが中里さんという人のよう。その軽やかさ、モノの奥にあるものを見つめる眼差しが、独自の表現の源なのかもしれない。

【TODAY'S SPECIAL】各国料理のエッセンスがつまみ。

子供中心に考えないでいい日の「自分ごはん」の一例。なすのヨーグルトソースや、フリホーレス(メキシコの豆のペースト料理)、ワカモレなどを、カジュアルなナチュラルワインと楽しむのが好きで、近所の友人を招くことも。器は民芸など、分厚くタフなものが好きなのはプライベートでも仕事でも同じ。
ESSENTIAL OF -MARIKO NAKAZATO-
細部まで、ビビッドなものたちがしっくり調和する。
( BOOKCOVER )
「紙好き」お手製のオリジナル。
映画館や美術館のチラシ、展示会のフライヤーなどをブックカバーに。「どこを表に見せるか、考えるのが楽しい」とのこと。今すぐ真似したい。

( TASTE )
色もテイストも入り混じる混沌。
サブカルの聖地といわれた新宿〈ザ・ゲトー〉閉業時に譲り受けた金の什器をバックに、カラフルなペイント、大型の観葉植物も。真似できない。

( TABLEWARE )
表情を楽しむガラスの器。
食器棚の一角を占拠するガラスの器。作家・黒川登紀子さんや〈スタジオプレパ〉の作品からLAで買ったユーズドまで幅広く揃っている。




















