
連載〈HOME SWEET HOME〉 食のプロのセンスをインテリアから学ぶ。 CASE31 こてらみや
おいしいものを作る人、おいしい場所をプロデュースする人‥‥‥。
食に関わるプロフェッショナルのセンスを、プライベート空間のインテリアから学びます。
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重厚なアンティーク家具の間に“楽しさ”が潜む。
事務所として、義父母の住まいとしてとさまざまな変遷を経て、時を重ねながらアップデートしてきたインテリア。陰影の美しい、名付けて「月の部屋」に、アンティークの家具がよく似合う。

時を経たアンティーク家具の濃い茶色が、落ち着いた室内のトーンを生み出している。
「若い頃、初めて一人暮らしをした頃から茶色い部屋に住んでいましたね。まだ〈IKEA〉もない時代、お金がなくても日本の古い家具やカジュアルなアメリカンアンティークをこつこつと買い揃えていました」
こてらみやさんは、京都で骨董品店を営む家に育った。英才教育ではないが、「時代」という価値を纏ったものが身近にある環境は幼い頃からの当たり前で、それがものを見る目の基本になっているという。
事務所から住まいへ 段階的に変遷を遂げた部屋。

東京・渋谷の高級住宅街にある現在の住まいは、二十余年前、夫婦で営む編集プロダクションの事務所として購入した。
「元の内装はピンクの絨毯に金色のシャンデリアという、おそらくバブル期にリフォームされたであろう感じで、うわぁ……と思ったのですが、夫が“手を入れれば大丈夫だよ”、と」
実はこの部屋を、二度にわたりリノベーションしている。最初は購入時、事務所利用を前提にした改修だ。二つ並んだ部屋を一部屋につなげ、壁一面をラワン材に張り替え、板を渡して棚にした。その壁一面に〈ビスレー〉のキャビネットを並べ、天板を載せてデスクに。ダイニングキッチンとの間も木製のルーバーにして、全体として広がりのある空間に生まれ変わった。
この改修から約2年後、同じフロアの一室が空き貸しに出た。60 m2 のべランダにほれ込み、即契約して目黒区内の一軒家から自宅を移す。文句なしの職住近接生活を満喫すること10年、北海道に住む義父が体調を崩したのをきっかけに、事務所だった部屋は義父母に暮らしてもらうことにした。義父を送り、義母の住まいとしての役目も終えたタイミングで、夫妻の住まいとして、再びリノベーションを敢行。2021年のことだ。
〝ゴージャス〟だけじゃない心地よいヌケとミックス感。

二度目のリノベーションは、キッチンなどの水周りを中心に手を入れた。壁に沿ったI字形のシステムキッチンをL字形にし、アイランドの作業台を設置した。天板は火から下ろしたばかりの鍋を直に置けるセラミックに。新たにコルク材を敷いた床は、夏は素足で肌触りよく、冬は寒さを感じにくく、物を落としても割れにくいのだとか。スペース、導線とも、アシスタントと複数人でも動きやすくなり、現在は撮影も主にこのキッチンで行うことが多いという。
家具選び・使いには、骨董品店育ちのアドバンテージとセンスが存分に発揮されている。
「姉が店を継ぐとき、商品を中国や日本のものから西洋骨董に変えて。不要になった商品や什器の一部を引き取ったんです」
ガラス扉が付いた飾り棚は「確か清朝時代だったかな」と話す。ずらりと並ぶのは、バーテンダーが泣いて欲しがりそうなオールドバカラのグラスだ。
「でも、デキャンタの中身は、サントリーの角なんです(笑)」
部屋中を見渡せば、キユーピー人形(しかもたらこキユーピー限定!)やフライドポテト形クロック、面白ビジュアルのアートピースなどがあちこちに。単なる「ゴージャス」にならないセンスが光る。ちなみにダイニングテーブルは、こてらさんの実家のお下がりのデンマーク製。椅子はアメリカン・ヴィンテージショップで購入したものというミックス感も素敵だ。
事務所、義父母の家、夫妻の家と役割を変えてきた部屋にはたくさんの人生の足跡が残り、家具の多くは、こてらさんの生家や家族の記憶も閉じ込めている。すみずみまでクールなのにスカしたところがなく、温かく楽しげな空気に満ちている理由は、部屋の歴史を聞けば納得だ。

たっぷりの粕汁は長年の食習慣。

京都育ちのこてらみやさんにとって、粕汁は冬の定番。「子供の頃、丼にご飯をよそって、たっぷりの粕汁をかけたものが朝ごはんでした」とのこと。酒粕を溶き入れてから、白味噌で塩気と風味をプラス。炊きたてのご飯と糠漬けがあれば完璧だ。一汁一菜にちょうどいいお盆は韓国の木工作家、ヤン・ビョンヨンさんの作品。
ESSENTIAL OF -MIYA KOTERA-
高級からジャンクまで、あらゆるものが同居する空間。
( CHARMERS )
点在するにぎやかな仲間たち。
人気陶芸家・岡歩さん率いる〈岡モータース〉の作品や、岡林みかんさんの張り子作品「百犬先生」など、愉快な表情のアートピースがあちこちに。

( GREEN )
重厚な家具に映えるグリーン。
大小の観葉植物が、アンティーク家具の茶色が基調の空間のアクセントに。小さな鉢植えは、窓際に置いたアンティークの台にまとめてディスプレー。

( ANTIQUE GLASS )
アンティーク、東西の出会い。
オールドバカラのグラスが並ぶ、清朝時代の飾り棚。内側が鏡面になっていて、繊細なグラスの陰影が美しく映る。竹材の細工など細部まで凝った造り。
