この春、オペラを体験してみない?”ラ・ボエーム”を楽しむ5つのこと。
この春はオペラデビューしてみませんか?
今年も小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトのシーズンが到来。今年の演目はG.プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」。上演時間もそれほど長くないうえ、今年は39歳以下で利用できるリーズナブルなU39席もあるので、オペラ鑑賞デビューにもピッタリ。興味はあるけど、オペラはちょっとハードルが高いのでは……と、モジモジしている初心者でも安心して楽しめる、オペラ鑑賞のポイントを音楽ライターの小田島久恵さんの解説付きでご紹介!
まるで青春群像劇。ラ・ボエームとは?
『ラ・ボエーム』はイタリア人作曲家ジャコモ・プッチーニ作曲による全4幕のオペラ作品。プッチーニといえば、めくるめくオーケストレーションで不朽の人気作を書き残しオペラの魔術師と呼ばれた作曲家。舞台は1830年代、パリのクリスマスイブ。詩人ロドルフォ、画家マルチェッロ、哲学者コッリーネ、音楽家ショナール、4人の若いボヘミアン(ラ・ボエーム)たちが寄り添うように集まる、凍えるほど寒い屋根裏部屋から物語は始まる。
「今作は、プッチーニ自身がミラノ音楽院に通う貧乏学生だった頃を思い出して書いた『青春物語』のような悲恋もののオペラです。登場人物は、主役のお針子ミミのほか、英雄や神話上の人物ではなく、芸術家をめざす若者たち。くだけた例えで言うと、昔の「月9ドラマ」のような親しみが持てると思います。長さもちょうどよく(本編は約1時間45分、休憩時間を合わせると3時間)、メロディも美しいので、楽しい時間はあっという間に終わってしまいます」(音楽ライター・小田島久恵さん)
今回の公演は、舞台装置と衣裳が新制作! 1890年代ベルエポックと言われる華やかな時代のパリに設定を移し、ストーリーの儚さをより際立たせた演出による理想を追い求める若い芸術家たちの恋愛と友情。感情を揺さぶるメロディ。このためだけに創られる豪華な時間を、ぜひ劇場で。
若い音楽家たちを応援! 小澤征爾音楽塾とは?
小澤征爾音楽塾オペラとは、日本を代表する指揮者の小澤征爾がオペラを通じて若い音楽家を育成することを⽬的に、2000年に始まった教育プロジェクト。国内外でのオーディションで選ばれたアジア諸国(日本、中国、台湾、韓国等)の若い音楽家たちでオーケストラを結成し、世界の歌劇場で活躍するプロのオペラ歌手や演出家と共に高水準のオペラ公演を創り上げ、今回が19回目の公演となる。
若者を支援するという姿勢は、音楽家たちに対してだけに留まらない。今回の「ラ・ボエーム」公演では、39歳以下を対象とした「U39チケット」を設定。通常価格25,000円(S席)、A席(21,000円)のどちらかを、枚数限定で10,000円で買えるというお得なシステムだ。(席種指定不可など条件あり。下記データ参照)
小澤征爾さんからのコメントも到着。
「いよいよ今シーズンから、ディエゴ・マテウスが初めての小澤征爾音楽塾首席指揮者として活躍してくれます。ディエゴは、前回『こうもり』を指揮したときに、音楽塾の特長をとても深く理解してくれました。若いオーケストラが必死になって、毎日リハーサルに食らいついていく光景は、プロのソリストたちにも刺激を与えるようです。オペラのリハーサルは試行錯誤の連続で、公演も含めて、 その過程すべてがとても貴重な教育の機会でもあります。舞台の上には世界一流の歌手と演出を揃え、オーケストラピットには(僕も毎回びっくりするような)エネルギッシュで、ぐんぐん新しい経験を吸収して いく優秀な若手音楽家たち。その音楽家を指導するのは、僕がこころから信頼をおくサイトウ・キネン・オーケストラのメンバーです。このような組み 合わせで出来上がってゆくオペラ公演は、小澤征爾音楽塾だけです。 これから世界へ羽ばたいてゆく若い音楽家たちを応援しながら、とくべつなオペラ公演を楽しんでもらえたら、僕はほんとうに嬉しいです」
小澤征爾音楽塾塾長・音楽監督
ラ・ボエームを楽しむための5つのこと。
オペラの中に潜む男女論を自筆のイラストとともに分析した『オペラティック~女子的オペラ鑑賞のすすめ』を著書に持つ音楽ライターの小田島久恵さんは、「オペラは演劇だ」をポリシーに掲げる無類のオペラ・ファン。ドキドキわくわくのオペラ鑑賞の前に、「ラ・ボエーム」の世界をより楽しむためのポイントを解説いただきました。
1.ここぞという時は、惜しみない拍手を!
「ワーグナーの長いオペラなどは「楽劇」として神聖な態度で鑑賞しなければならないのでやや緊張したりしますが、プッチーニは名アリアが多く、拍手のタイミングがたくさんあります。拍手は自然な形で起こることが多いのですが、なんとなく拍手したくなるタイミングというのがあると思うので、“拍手したい”と思ったタイミングでしてみると良いと思います」
2.プッチーニは“泣いてなんぼ!”
躊躇せずに、泣くべし。
「4幕でロドルフォとマルチェッロがお互いの別れた恋人を思って歌う二重唱『ああミミ、君は戻ってこない』は名曲。テノールとバリトンのデュオリサイタルでもよく歌われ、ノスタルジックで胸に沁みる曲です。ラストにじわっときたら泣いてしまいましょう。歌手たちも泣きたいのをがまんして歌っているそうですが、客席では自由に号泣できます」
3.折角のスペシャルな機会。
ムードを盛り上げるためにも、おしゃれをしていこう。
「ヨーロッパの劇場では若者のための席は廉価で、実はみんなカジュアルな普段着で鑑賞しています。服装は無理にドレスアップをする必要はありませんが、せっかくのオペラ鑑賞、おしゃれして出かけるのもおすすめです」。京都公演なら、はんなりお着物で出かけるのもおすすめ!
4.オペラは、音楽と舞台が融合した総合芸術!
そのさまざまな重なりを想像して。
「オペラと一言で言っても、時代や作曲家によって描かれる世界観はバラバラなのですが、共通しているのは舞台と音楽が融合した総合芸術であり、上演の準備に膨大な時間とエネルギーが費やされているということ。リサイタルやコンサートとは比べ物にならないほどリハーサルが行われています。ソロ歌手たちだけでなく、合唱、オーケストラ、演出や舞台スタッフ、裏方の皆さんのエネルギーが爆発するのがオペラの本番。生で舞台を観るという、貴重な時間に立ち会うことを堪能してみてください」
また、今回特筆すべきは、舞台装置や衣装が新作だということ。2019年に企画が始まり、パンデミックを挟み2023年に実現…と、4年越しの上演となった今作。舞台装置と衣装デザインは世界のオペラハウスで活躍するデザイナーが担当し、さらに衣装はオペラの本場・イタリアの工房に発注して制作するなど、一流の職人たちの仕事が施されている。時間も技術も惜しみなく注がれている贅沢を味わおう。
5.名曲揃いで、すべてが聴きどころ。
特に第2幕クライマックスは必見!
「名曲ぞろいのラ・ボエーム。中でも『私の名はミミ』が有名ですが、他にも聴きどころがたくさん。特に2幕のクリスマスのカルチェ・ラタンの街の描写はとても華やかで、児童合唱もあり、音楽も賑やかです。ヒロインのミミとは対照的な性格のムゼッタが歌う『わたしが街を歩くと』は賑やかなクリスマスの街のシーンで歌われますが、道行く男たちみんながムゼッタに夢中なのが面白いです。また、オーケストラはすべて聴きどころで、若いエネルギーが炸裂しているような始まり方も勢いがあります。美術やコスチュームなどもオペラの見どころなので、楽しんでみてください」
Comment
小田島久恵
おだしま・ひさえ/音楽ライター。音楽雑誌の編集を経てフリーに。ロック、ポップス、ミュージカルなどの記事を手掛けつつ、クラシックについての執筆も開始。特にオペラに造詣が深く、著書に「オペラティック~女子的オペラ鑑賞のすすめ」(フィルムアート社)がある。
Twitter @hisae_classical
ブログ「小田島久恵のクラシック鑑賞日記」
https://blog.goo.ne.jp/hisaeodashima216