ビブグルマンの味を世界遺産でいただけるところも。2026年、心と体を整える京都の精進料理3選

ビブグルマンの味を世界遺産でいただけるところも。2026年、心と体を整える京都の精進料理3選
ビブグルマンの味を世界遺産でいただけるところも。2026年、心と体を整える京都の精進料理3選
FOOD 2026.01.22
もともとは修行僧のための食事だった精進料理。心と体に良い印象はあるけれど、そもそもどんなもの? 野菜料理とは何が違う? 掘り下げてみたら、食に向き合い、心身を整える、おいしい食の世界がありました。
photo_Yoshiki Okamoto text_Nami Hotehama, Midori Nagase
教えていただきました
柳原尚之
江戸懐石近茶流宗家

やなぎはら・なおゆき/柳原料理教室主宰。2009~2013年、東大寺の修二会で精進料理を作る院士を務める。2022年、柳原家家伝の料理道「江戸懐石近茶流」継承。NHK『きょうの料理』などメディアにも多数出演。

Q. 精進料理の定義とは?

「大前提は、動物性の食材を使わないこと。肉や魚、乳製品のほか、ネギなど“五辛”も使用しません。使用する食材は野菜が中心です。たんぱく質は大豆製品など、植物性のものから摂取します」(柳原尚之さん、以下同じ)

Q. 精進料理に種類はあるの?

「宗派で大別されますが、精進料理の基礎を築いたのは、永平寺が大本山の曹洞宗。仏教はもとより茶道とも繋がりを持つのが、臨済宗大徳寺の精進料理。ほかにも中国の流れを汲んだ黄檗宗萬福寺の普茶料理などがあります」

1. 500年以上にわたって、家族で守り続ける味。〈大徳寺一久〉

500年以上にわたって、家族で守り続ける味。〈大徳寺一久〉 精進料理
大広間や茶室もあり、個室でゆっくり味わえる。大徳寺の行事に合わせて休業するため事前予約制。写真は大徳寺精進料理本膳9,680円。ほかにもお手頃な縁高盛6,050円もある。

遡ること約500年、大徳寺の典座(てんぞ)(寺の台所)のご奉公に始まったと言い伝えられる〈大徳寺一久〉。昭和に入ると、寺での仕出しだけでなく一般にも提供するようになった。一子相伝で大徳寺より伝わる精進料理の本膳料理を受け継いできた。現在でも、大徳寺や三千家・薮内家による法要の際には料理を担当する。

「文化を残したい思いで、一部の料理には今も薪や炭で火をおこし、おくどさん(竈(かまど))を使っている。精進料理とは仏教の経典の教えに基づくもの。だしのみならず野菜根で、偽りのものを作らず、相手を思いやる、精進した料理を作る。大徳寺の名前を使わせていただく以上、その信念を崩すことはできません」と、当代・津田義明さん。

こちらでは、大徳寺で供される伝承料理をお店でも提供している。料理をただ作るだけではなく、仏教の心構え、その精神性を踏まえたうえで精進料理を提供するのが代々の慣わしとなっている。

全国に知れわたる名物、登録商標を持つ大徳寺納豆も一休禅師より伝わる製法を継承。家族一丸となって精進料理を今に伝えている。

information
大徳寺一久

住所:京都府京都市北区紫野大徳寺下門前町20
TEL:075-493-0019
時間:12:00~14:00、17:00~18:00最終入店
定休日:不定休
席数:60席

大豆と大麦、塩だけを使い、時間をかけて作る大徳寺納豆も店先の売店で購入できる。50g 500円より。

2. 中国大陸からの影響を受けた普茶料理が堪能できる。〈黄檗宗 大本山萬福寺〉

中国大陸からの影響を受けた普茶料理が堪能できる。〈黄檗宗 大本山萬福寺〉 精進料理
写真は4人前。特別普茶御膳9,900円は2名からの予約。食事の利用の場合も拝観料500円が別途必要。

普茶料理とは、江戸初期に黄檗宗の開祖・隠元禅師(いんげんぜんし)が中国から伝えた精進料理。〝普く(あまねく)大衆と茶を供する〞の意味から名付けられた。

大きな法要などの後に、労(ねぎら)いの気持ちを込めた〝もてなし料理〞が始まりとされ、多彩な食材と華やかな点が大きな特徴である。〝食が誰にとっても平等である〞といった教えのもと、一卓を四人で囲み和気あいあいと食事を残さずいただくことが作法とされる。

1661年に隠元禅師より開かれた萬福寺で供される普茶料理も、一膳ずつ供される日本の精進料理とは異なり、大皿を囲む中国式の食文化が色濃く反映されている。菜単(ツァイタン)と呼ばれる献立には、中国から普茶料理によって広まったとされる揚げ料理〝油茲(ユジ)〞や、野菜くずなど残った食材を余すことなく使って作る〝雲片(ウンペン)〞、さらに湯葉や麩、こんにゃくを使い肉や魚を思わせる〝もどき〞など、普茶料理を象徴する品々が並ぶ。

2024年には、国宝に指定された見どころ満載の境内の参拝や、座禅・写経などの禅体験とともに、1日かけてじっくりと楽しみたい。

information
黄檗宗 大本山萬福寺

住所:京都府宇治市五ヶ庄三番割34
TEL:0774-32-3900
時間:11:30~14:30(寺の拝観は9:00~17:00)
定休日:不定休
席数:160席

2024年には法堂・大雄宝殿・天王殿の三棟が国宝に認定された、日本三禅宗の一つである黄檗宗の本山。

3. 世界遺産でいただく、世界から評価される味。〈天龍寺 篩月〉

世界遺産でいただく、世界から評価される味。〈天龍寺 篩月〉 精進料理 ビブグルマン
〈篩月〉ならではの汁椀は、大豆をすり潰して作る呉汁。月(一汁六菜)6,500円。ほかにも雪3,800円、花9,000円がある。予約は2名以上3日前まで。庭園参拝料500円が別途必要。

足利尊氏が後醍醐天皇の菩提を弔うために建立した室町幕府ゆかりの名刹(めいさつ)。世界遺産としても知られる臨済宗天龍寺派の大本山・天龍寺では、世界の人々に禅文化を知ってほしいと、大阪万博が開催された1970年より一般参拝客への精進料理提供を始めた。その後、1993年に精進料理店〈篩月〉と名付けられ、ニューヨークタイムズに紹介されたことをきっかけに世界的な知名度を得る。2000年には、精進料理専用の龍門亭が、世界文化遺産・認定登録の曹源池庭園(そうげんちていえん)の南側に建立された。

食材を無駄にせず、食べ残さない精進料理の精神がSDGsにも繋がると評価され、2014年から11年連続でミシュラン・ビブグルマンに選ばれている。大広間には、曹洞宗の開祖・道元禅師が説いた「典座教訓三徳」の「軽軟(けいなん)・如作法(にょさほう)・浄潔(じょうけつ)」と書が掲げられ、料理に向き合う心構えを訪れる人に伝える。その教えのひとつでもある〝音を立てず、身も心も清らかにして食べる〞は、精進料理をいただく際に心に留めたい所作だ。世界遺産の庭園を望む静謐(せいひつ)なお食事処で〝丁寧を味わう時間〞を過ごしたい。

information
天龍寺 篩月

住所:京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68
TEL:075-882-9725
時間:11:00~14:00
定休日:木休
席数:200席

持続可能な取り組みが評価され、2025年にはビブグルマンにあわせてグリーンスターもW受賞した。

心身を整える精進料理。

仏教の教えに基づき、古より寺院で食されてきた精進料理。その発展は、飛鳥時代まで遡る。

「仏教では殺生を禁じていますが、その仏教伝来以後、675年に天武天皇が発布した肉食禁止令により、人々の間で表立って肉類を食べることが避けられるようになりました。こうした背景が、肉や魚など動物性の食材を使わない精進料理の発展に寄与したと考えられます。滋養が修行の妨げになるとの理由で、五辛(ニンニク、ノビル、ラッキョウ、ネギ、ニラ)を使用しないのも精進料理の特徴です」と話すのは、奈良・東大寺で精進料理の調理を担当した経験を持つ料理研究家の柳原尚之さん。

精進料理は、修行僧のための食事であったが、今では参拝者にもふるまう寺院や店がある。

「動物性の食材と五辛を用いないことを基本に、品目や味つけは宗派や寺院によって異なります。いただく際は、いつもより目の前の食事に感謝し、意識を集中させましょう。普段より繊細な味つけなので今何を食べているのか、どんな味を感じているのかと食べ物と向き合ううちに、自身の感覚も研ぎ澄まされていくはずです」

食をとおして心身ともに整う一軒へ。

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