心と体を整える。2026年、わざわざ食べに行きたい精進料理2選
やなぎはら・なおゆき/柳原料理教室主宰。2009~2013年、東大寺の修二会で精進料理を作る院士を務める。2022年、柳原家家伝の料理道「江戸懐石近茶流」継承。NHK『きょうの料理』などメディアにも多数出演。
Q. 精進料理の定義とは?
「大前提は、動物性の食材を使わないこと。肉や魚、乳製品のほか、ネギなど“五辛”も使用しません。使用する食材は野菜が中心です。たんぱく質は大豆製品など、植物性のものから摂取します」(柳原尚之さん、以下同じ)
Q. 精進料理に種類はあるの?
「宗派で大別されますが、精進料理の基礎を築いたのは、永平寺が大本山の曹洞宗。仏教はもとより茶道とも繋がりを持つのが、臨済宗大徳寺の精進料理。ほかにも中国の流れを汲んだ黄檗宗萬福寺の普茶料理などがあります」
1. 精進料理の基礎となる味と現代的な感覚の融合。〈曹洞宗 大本山總持寺〉

禅の教えを中国より日本に伝え、精進料理の基礎を作った、永平寺の開祖・道元禅師。その教えを全国に広めたのが、總持寺の開祖・瑩山(けいざん)禅師。両祖によりその礎が築かれた曹洞宗は、精進料理との繋がりが深く、開創から700年以上という歴史ある總持寺では、今も修行僧が自ら食する精進料理の調理を行っている。献立の考案と調理の指導に当たるのは、日本料理店で研鑽(けんさん)を積んだ副典の長尾靖樹さん。
「寺に代々伝わる味を守りつつ、今の時代にも受け入れられる工夫を加える。本来であれば、修行僧にとって食事は命を繋ぐだけのものですが、厳しい修行の日々の中でも、食事くらいは楽しんでもらいたい。おいしく食べられるように、手間を惜しまず調理に励んでいます」
例えば、伝統のごま豆腐は、修行僧が1時間近く練り続けるという。一方で、植物性のクリームを使ったマカロンを作るなど、斬新な試みも積極的に取り入れている。そんな修行僧に供される精進料理と同様の膳を、参拝者もいただける。境内を巡るガイド付きで、食事の前には〝偈文(げもん)〞の唱和もあり。仏教と食の奥深さにじっくり浸れる。


住所:神奈川県横浜市鶴見区鶴見2-1-1
TEL:045-581-6021
時間:10:00~16:30
HP:https://www.sojiji.jp/
福井県の永平寺と並ぶ曹洞宗の大本山。約15万坪の敷地を有し、仏殿など多くの建造物が国登録文化財に指定されている。
2. 蓮池、鎌倉の海、富士山…。食事と共に絶景も楽しめる。〈浄土宗 大本山光明寺〉

鎌倉四大寺の一つに数えられる光明寺。浄土宗の大本山であるこの寺院には、極楽浄土に咲く花とされる蓮を一面に湛えた池があり、開花ピークの盛夏には、多くの観光客が訪れる。精進料理がいただけるのは、蓮池のある記主庭園を望む書院にて。食前に「南無阿弥陀仏」と10回唱えるなど浄土宗らしい作法はあるが、それを強いることなく、参拝客を懐深く迎え入れる。
調理を担当するのは、地元の日本料理の名店〈鎌倉御代川〉。仏教の教えに従って、動物性の食材や五辛を使わず、伝統的な精進料理を提供している。献立は季節によって変わるが、通年いただけるのが、名物「精進しぐれ」。お麩を甘辛く煮たもので、山椒が食欲を刺激する。気に入ればお土産として購入可能だ。


食事は、基本的には書院で取るが、特別感を味わいたいなら大聖閣の予約を。書院の北側に位置するここは、1日1組限定の個室利用で、記主庭園が眼前に広がるロケーション。2階に上がると鎌倉の海や、天気がよければ富士山まで見渡せる。2階に祀られた阿弥陀様にご挨拶できるのも、大聖閣の予約者のみ。縁起のよさはこの上なし。

住所:神奈川県鎌倉市材木座6-17-19
TEL:0467-22-0603
時間:7:00~16:00(4月1日~10月14日は6:00~17:00)
HP:https://komyoji-kamakura.or.jp/
本堂は鎌倉最大級の木造建築。令和13年まで大改修中。
心身を整える精進料理。
仏教の教えに基づき、古より寺院で食されてきた精進料理。その発展は、飛鳥時代まで遡る。
「仏教では殺生を禁じていますが、その仏教伝来以後、675年に天武天皇が発布した肉食禁止令により、人々の間で表立って肉類を食べることが避けられるようになりました。こうした背景が、肉や魚など動物性の食材を使わない精進料理の発展に寄与したと考えられます。滋養が修行の妨げになるとの理由で、五辛(ニンニク、ノビル、ラッキョウ、ネギ、ニラ)を使用しないのも精進料理の特徴です」と話すのは、奈良・東大寺で精進料理の調理を担当した経験を持つ料理研究家の柳原尚之さん。
精進料理は、修行僧のための食事であったが、今では参拝者にもふるまう寺院や店がある。
「動物性の食材と五辛を用いないことを基本に、品目や味つけは宗派や寺院によって異なります。いただく際は、いつもより目の前の食事に感謝し、意識を集中させましょう。普段より繊細な味つけなので今何を食べているのか、どんな味を感じているのかと食べ物と向き合ううちに、自身の感覚も研ぎ澄まされていくはずです」

















