【開店前から大行列のお寺カフェ】〈築地本願寺カフェ Tsumugi〉と、僧侶が教える築地本願寺の秘密
この連載では、名喫茶、話題の人気カフェにインタビューし、お店の歴史と、そこで働く人がつむぐ思いを発掘していきます。今回は開運特別編。築地本願寺と、隣接する〈築地本願寺カフェ Tsumugi〉を訪れました。
🔍築地本願寺って?
築地本願寺は京都の西本願寺を本山とする浄土真宗本願寺派のお寺。1617年、浅草近くに建てられ、1657年の明暦の大火で焼失。その後、築地に移転。
1923年、関東大震災で火災により本堂焼失。建築史家の伊東忠太博士の設計により、現在の形に。2014年には国の重要文化財に指定された。
インド等アジアの古代仏教建築を模し、オリエンタルな雰囲気漂う建築物である。
日比谷線築地駅おりてすぐに築地本願寺はある。
取材のため、お寺の広場で待っていると、築地本願寺副宗務長の東森尚人さんが、朗らかな笑顔で「こんにちは〜」とはんなりした関西弁で出迎えてくれた。
東森さんは奈良県出身。お茶を飲んで小話をした後、早速、築地本願寺の本堂を案内してくれた。

築地本願寺のご利益って?
寺社仏閣に訪れる際に最も気になるのはやっぱりご利益!
「実は私どものお寺で願いが叶うという保証はなく…。」
えっ!?!?
「それよりも、欲望を叶えたいと思う自分自身に気付く、つまり手を合わせることによって、自らの心の奥底にある、煩悩や欲望に気づくということが目的なんですよ。」
浄土真宗の開祖、親鸞聖人は、比叡山での修行ののち、自力では煩悩から離れられないと気付き、下山。のちに、亡くなった後に仏様に救ってもらおう、そして、そんな煩悩がある自分を救ってくれる仏様に感謝をしようという考えが浄土真宗の教えとなった。

そのような教えのため、築地本願寺には御朱印帳を置いていない。
「御朱印帳は、御朱印をもらうことに満足をしてしまいがち。それは自分の欲望を満たすためだけの行為ですよね。けれども、浄土真宗は自分の欲望や煩悩があることに気づくことを目的としているので、御朱印を置いてないんです。でも、御朱印帳がない代わりに、スタンプと参拝記念カードは置いていますよ。」
参拝記念カードの内容は仏様の教えを書いたもの。その中でも人気のものは本堂入って右側のカプセルトイになっている。
ガイドブックにも載ってない楽しみ方 本堂前で見える◯◯マーク
初めて築地本願寺を見たとき、建築が個性的で強く印象に残る人も少なくない。
「築地本願寺は、関東大震災後の再建の際、目立たなくちゃいけない!という思いがまずあったんですよ。」
浄土真宗本願寺派のお寺は西日本に多く、東日本のお寺の数は他の宗派と比べて非常に少なかった。そういった浄土真宗の課題があり、まずは浄土真宗を多くの人に知ってもらうために、“目立つ建物を建てよう!”となったそうだ。
そして、実際に築地本願寺の内外には、当時では珍しい、最先端の技術や未来の生活様式を見据えた、建築史家の伊東忠太ならではの工夫があちこちに散らばっている。
「あと、他のお寺と違うところ、わかりますか?」
何だろう…。
「建設当時から土足で本堂に上がり、席は椅子席なんです。未来の生活様式を見据えて作られました。そしてその作りには、どなたでもお参りできるようにという思いが込められています。」
“館内に上がる際に靴を脱ぐ文化や背景を持たない人が来ても、仏様は受け入れますよ”、“いかなる人も受け入れますよ”、という意味が込められている。築地本願寺は誰にとっても開かれた造りになっているのだ。
「ちなみに私たち僧侶がお経をあげるときに座る内陣でも椅子を使うんです。多くのお寺では畳の上で正座でしょ?私たちも足が痺れますんで。非常にありがたいんです(笑)」
開かれた場所であることを大切にしたお寺は、僧侶の足にも優しいようだ。
なぜそこまで、誰にでも開かれた場所である必要があるんだろうか?
「仏様にはいかなる誰でも全て、救いたいっていう願いがあるんです。それが“本願”と言います。その願いを、お伝えするお寺という場所、それが”本願寺“という名前の由来なんです。“誰一人取り残さず救いたい”という仏様の願いを大切にしていて、それを建物でも体現しているんです。」
「あと、これはあまり知られてないと思うんですけど」と、東森さんが外を案内してくれた。
「実はハート型の模様がたくさんあるんです。本当はイノシシをモチーフにしているんですけど。」
厳かな建物だが、よく見るとキュートなモチーフも隠れている。
「喫茶」は実は仏教用語
“いかなる誰でも、全ての人”に開かれた場にするために作られた施設のうちの一つが、2022年開業の〈築地本願寺カフェTsumugi〉だ。
「『喫茶』っていう言葉も、仏教用語から来てるんですよ。だからカフェとお寺っていうのは親和性があるんです。」
「喫茶」の元の言葉は「喫茶去」と言い、「お茶を飲みに行け、お茶を飲んで目を覚まして来い」の意味で、相手の怠惰を叱責する言葉。その後「お茶を召し上がれ」と解釈されるようになったそうだ。
〈築地本願寺カフェ Tsumugi〉は朝8時オープン。その“8時”という時間にもこだわりが。
「7時にお寺のお経が始まり、8時に終了します。その後訪れることができるように、8時オープンにしました。」
今では朝8時にはすでに列をなし、予約も殺到している。朝食を食べに訪れる際は、事前予約をおすすめする。
朝食の人気メニューは「18品の朝ごはん」という御膳。なぜ18品なんだろうか?
「浄土真宗には48の願いと言うものがあって、その中でも18番目の願いが最も大切なんです。その18番目の願いは先ほどお話しした仏様の一番大切な思い、”生きとし生けるものを必ず救い取りたい”という意味なんです。『本願寺』は18番目の願いを伝えるお寺という意味だから、『18品の朝ごはん』をカフェでお出ししようとなりました。」

”築地”という地名の由来となる、築地本願寺。「18品の朝ごはん」は、築地場外の名店の食材も使っている。地域の人々と連携しながら、地元の美味しいものが御膳を彩る。
他にもパフェなどの甘味もあり、広々とした店内からは築地本願寺を眺めながら食事ができる。〈築地本願寺カフェ Tsumugi〉は、“いかなる誰でも、全ての人”にゆっくり楽しめる空間になっている。
築地本願寺は“いかなる誰でも”気軽に来たっていい。カフェで好きなものを食べて帰るだけでなく、本堂に入り、仏様に手を合わせ、自分の心の奥底を覗きこめば、知らなかった自分自身に気付くきっかけになるかもしれない。
“自分と向き合う”という言葉はよく聞くが、自分の心の奥底を覗くのは、醜い自分が見えて、誰だってやりたくない。
けれども、東森さんは「自分自身の本当の心の底を知って生きていくのか、知らずに生きていくのかによって、生き方も変わってくると思うんですよね。」という。
このお寺で願ったそのままのご利益は得られないかもしれないが、自分自身の心の奥底に気付き、生き方が変わることこそ、大きな「ご利益」なのではないか。

東京都中央区築地 3-15-1
0120-792-048
6:00~16:00(夕方のお勤め終了後閉門)
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03-5565-5581
8:00〜18:00
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