仙台『巨大な駅前ロータリーのある』/高野ユリカ 第6回 だれかの住む街と菓子
写真家の高野ユリカさんが写真と文で綴る新連載。街や建築についてのお仕事をフィールドワークとする高野さんが、街を歩いて見つけたスイーツを切り口に‶街と菓子”を語ります。
新幹線を降りて仙台に到着すると、いつも駅前の西口巨大ロータリーが気になる。朝昼晩忙しそうに、下を見ればバスやタクシーの停留所、その上に作られた高架歩道(正式名称ペデストリアンデッキというらしい…)は駅前の南北や大通りを結んで人が行き交っていて、ここにいるだけで仙台に住んでいる人の縮図が見えるような気がする。好きな映画の『偶然と想像』にもこのロータリーのエスカレーターがロケ地で登場してたっけ。
晩翠通り沿いのビルの2階にある〈Northfields〉は、イギリス人と日本人のご夫婦が始められたカフェ。開店と同時にお店を訪れると、平日なのにすでに満席になりそうなほどのお客さんが階段に並んでいる。入り口から見えそうで見えないショーケースの中のイギリス菓子にそわそわ。扉が開いて順番に会計を済ませつつ、中に入ると窓から光の射す居心地のいい空間が広がっていて、窓際の席からは晩翠通りを歩いている人の様子が見えて楽しいね。キャロットケーキと迷ったけれど、ルバーブクランブルスクエアを頂く。ローズマリーの葉と砂糖がまぶされたアーモンドスライスが載っかって、ぽろぽろと崩れる湿度高めな生地感に、ジンジャーパウダーのビリビリ! が効いていておいしい。ルバーブって赤紫色の茎科の植物なのか...なんとなく繊維があってセロリに近い食感!
仙台に行くとメディアテークに寄りがちで、図書館で過ごす人たちを眺めるのが定番になっている。大きな柱のある建築のなかで、大きな樹に寄っかかるみたいに自分の居心地のいい場所を探して座って本を読んでいる感じがすごくいい。一人の時間は聖域だ。一人に寄り添ってくれる場所は嬉しい。単館系の映画館フォーラムの隣にある〈喫茶ビジュゥ〉は、もし仙台に住んでいたなら一人で映画を観て出たあとの余韻やざわざわした気持ちを、珈琲とケーキで落ち着かせてから日常に帰るために、寄りたくなるお店かも。フロマージュ・クリュ・オルタンシアは季節限定の紫陽花のケーキ。雨粒みたいなキラキラしたリキュールゼリーの水色、レアチーズの三角の白、中に入ったブルーベリーの紫が見たことないビジュアルで綺麗(子供の頃にゲームセンターでこれに似たキラキラした透明な石のようなものを欲しがっていた気がする)。固めのババロア感があってすっきりと爽やかな風味でした。
帰りの新幹線に乗る前に買う、最近のお土産は決まって、〈ankoya〉の季節のどら焼き。駅前アーケードから細くて薄暗い路地に入ると、周りのお店はまだシャッターが下りていて静かなのに、そこだけ電気が光っていて次々と人の出入りがあるのが不思議。店内に見えるのはずらっと並ぶ専用のシートに包まれた四角いどら焼き! こんなにたくさん綺麗に並んでいると動物みたいに見えて可愛いな。手に持った瞬間のずっしりとした重さに反して、甘さ控えめな絶妙な餡子と生地、そして季節のクリーム(時期によって変わる全10種類)が入っているどら焼きは絶品すぎて、ハイカロリーと理解しつつも「おいしい…おいしい…」と言いながら同居人と頬張る。仙台の出張帰りの家での定番になっています。
写真と文 高野ユリカ
こうの・ゆりか/写真家。新潟生まれ。ホンマタカシ氏のアシスタントを経て、2019年に独立。建築、環境、街などの分野を中心に活動。 https://www.yurikakono.com/