20230723h0231山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第51回 | Hanako Web

伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第51回

LEARN 2023.11.17

乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。

photo : Chihiro Tagata styling : Satomi Urata hair&make : Hitomi Akiyama

「続・祖父のカメラ」

架空のレコードショップが舞台のラジオ番組、『THE TRAD』のパーソナリティは、4人全員がカメラに詳しい。2年前からこつこつ集めた8台のカメラを使い分ける中川絵美里さん。カメラ歴はその半分くらいなのに所有台数は倍以上ある、凝り性のハマ・オカモトさん。RICOH GR IIIという人気機種を家族旅行のたびに落として壊してしまうが、ガムテープで補強して使い続ける吉田明世さん。そして自宅に暗室を作り、自分で現像までできちゃう職人気質の稲垣吾郎さん。これだけの人が集まっているのだから、もうラジオの中のカメラ屋さんと名乗ってもいいだろう。

私はレコードショップ兼カメラ屋さんの隣(厳密にいうと前のワイド番組)で番組をやっている。いつでもカメラの質問をできる人が近くにいるのに、今始めないなんてもったいない。ということで、一番年が近い中川さんに案内していただきながら、私もマイフィルムカメラを買った。旅行に持っていったり、フラッシュをたいて室内撮りをしてみたりと、やっと1台目に慣れてきた頃、前回のエッセイで書いた祖父のカメラが納戸から発掘され、私のもとにやってきたという次第である。

ハマさんからのアドバイスを受け、吾郎さんのもとにカメラを持っていく。「祖父の遺品を整理したら出てきて、でも誰もどういうものなのかよく分からないんですよね……」などと説明しながらケースを開封すると、即座に「ええ! これめっちゃいいカメラだよ!!」ととても良いリアクションをしてくださる吾郎さん。「すごく綺麗に残ってたね、きっとお祖父様が大事に保管してたんだろうね」。そう言って、とある写真機店の店員のMさんを紹介してくださった。

Mさんによると、祖父のカメラは1952年(昭和27年)に発売されたCanon IV S型という機種であると判明した。ベースとなったのは、開発者の名前を冠した「バルナックライカ」。当時映画用に使われていた35mmフィルムを写真機に搭載して、コンパクトに持ち運べる現在のカメラの元祖といわれている。キヤノン、レオタックス、ニッカ、千代田商会、田中光学など数々の日本メーカーは、追いつけ追い越せの精神でコピーモデルの開発に取りかかった。祖父のカメラはそのうちの一台だと、Mさんは言う。やっと正体が分かり、少し安心。価値や希少性を全く知らずにあちこち持ち歩くのは気が引ける。

カメラの歴史だけを書いても当時を想像しづらいので、1952年に生まれた芸能人を調べてみる。このカメラと同い年に当たるのは、中島みゆきさんや吉幾三さん、三浦友和さんや松坂慶子さん。今なお活躍し続ける大スターばかり。世の中の出来事としては、人類初の水爆実験、サンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約の発効、血のメーデー事件。26歳の私からすると、全て教科書の中の出来事。カメラの知識をほとんど持ち合わせていなくても、この激動の時代に日本人が作り上げたカメラだと思うと重みが増す。

それから、全国で民放ラジオ局の開局ラッシュが起こり、東京では2番目となる民放ラジオ局として日本文化放送協会が本放送を始めたのもこの年。そう、コールサイン「JOQR」でおなじみ、文化放送である。現在は声優やアイドルの番組が多く放送されているが、当時は娯楽番組が少なく、『大学受験ラジオ講座』など教育・教養番組に重きを置く編成だったそうだ。最初に放送された番組は『皆さんお早う』。そして何より文化放送は成り立ちがかなり特殊。ざっくりいうと、イタリア・トリノ生まれのカトリック聖職者たちが設立したのだ。社屋が四谷にあった時代は教会のような見た目をしていて、不思議に思う人も多かったそうだが、ルーツをたどって正確にいえば、あれは本当に教会だったということ。

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話をカメラに戻しましょう。ラジオ好きとしては、やはりこの手の話になるとどうしても話が長くなってしまいます。これ以上の説明はかなり複雑なので、気になる方は調べてみてください。

修理を終えて戻ってくるのは3〜4カ月後の予定。特にシャッター幕の交換に時間がかかるらしい。布幕でできているシャッター幕のゴムは、経年変化でヒビが入ったり、保存環境が悪いと溶け出したりする。その結果光漏れを起こしたり、正常に動かなくなったりするので交換する必要があるのだが、シャッター幕は素材の入手が難しい。最近は布幕シャッターのカメラがほとんどないので、作っているメーカーも限られているのだとか。

ということで、次にお目にかかるのは来年。「半世紀前のお祖父様のカメラ、ぴかぴかに甦らせましょう」という吾郎さんの言葉を実現させなければ。何より、これだけ人様のもとを渡り歩き、お騒がせしてしまったので、使わないわけにはいかないなと孫は思っています。

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