モダンとノスタルジックなものが集う、“アナログ”をテーマにした蚤の市を訪ねて。
手で触れる温かさや、人の感性を刺激する“アナログ”の魅力・再発見。

「Analog Market」の主催は、カートリッジ(レコードプレーヤーの針部分)の開発から始まった日本屈指の老舗オーディオメーカー、《オーディオテクニカ》。
“アナログ”には、手で触れる温かさや、人の感性を刺激する力があります。近年では、レコードやカセットテープなど、アナログ機材で音楽を楽しむ人が増え、その魅力があらためて見直されてきました。
オーディオテクニカは、そんな“アナログ”の原点に立ち返り、「アナログって何だろう?」という問いを掲げてこのマーケットを開催。会場には、五感を刺激する衣・食・住にまつわる“アナログ”をテーマにした店が集まり、人やものがつながる温かな時間が流れていました。

レコードとの出会いは、ジャケットから。

最初に小竹さんが向かったのは、レコードショップ「VDS (Vinyl Delivery Service)」のブース。東京に拠点を置く「VDS」は、“人生に寄り添ってくれる音楽”をテーマに、国内外のレコードを独自の感性でセレクトし、世界の音楽ファンから支持を集める人気店です。

「これ、手書きの模様が可愛い……。なんて書いてあるんだろう?」
手に取ったのは、フランスのフリージャズグループのレコード盤と、北海道でアイヌの人々の音楽を収録したという70年代のフィールド・レコーディング盤。ジャケットを眺めながら「聴いたことのない音の世界をジャケットから想像するのって、楽しいですね」と、小竹さん。

普段はSpotifyやYouTubeで音楽を楽しむという、小竹さん。「レコードはまだ初心者なんですけど、ジャケットを飾るだけでも素敵ですよね。見てるだけで音が流れてくる感じがします」。
この日、初めて“ジャケ買い”の喜びを知ったようです。
日本の魅力を象ったものたちに触れる。

続いて訪れたのは、「CRA(Creative Residency Arita)」のブース。「CRA」は、佐賀県有田町を拠点に、国内外のクリエイターが滞在制作を行うプログラムで、伝統工芸と現代のクリエイティビティのあいだをつなぐ国際的な取り組みとして注目を集めている取り組みです。

この日は、今年有田に滞在したマルー・ブリューさんとミレナ・アンナ・バウマさんの作品が店頭に並んでいました。

他にも、現地の窯元〈李荘窯業所〉とアーティスティック・ディレクターStudio the Future Japanとのコラボレーションで生まれた「Rock Cup」が限定販売。陶芸が好きで、旅先でも陶芸教室に行ったりすることが多いという小竹さんの目が輝きます。
柔らかな曲線と、ざらっとした質感。手にした「Rock Cup」の手触りに「ろくろで成形したようにも見えないし、どうやって作ったんだろう……。初めての感覚です」と、ものづくりへの純粋な好奇心をにじませる小竹さん。「この作品は枯山水庭園の考え方をコンセプトにしているんですよ」と、お店の人がそばに来て教えてくれました。
オランダ人のミレナ・アンナ・バウマさんが、オランダには生息していないセミをテーマに作品にした陶磁器。セミを「時間」「変容」「朽ちと再生のサイクル」の象徴として捉えたそうです。
童心に返って輪投げに挑戦!

「わあっ!」。
賑やかな歓声が聞こえたのでその場所へ行ってみると、子どもたちが輪投げをしていました。昭和のキャラクターグッズやクラフトビールが並ぶ景品棚から彼女が見つけたのは、昔のモスキャラクター“モッさん”のフィギュア。
「これ、懐かしい〜!」。クシャッと目を細める小竹さん。学生時代にモスバーガーで7年間アルバイトしていた彼女にとっては、思い出が蘇るなつかしいおもちゃ。
「惜しい!あと、ちょっと!」
店主のかけ声を受けながら、カラフルな輪投げボードに向かって真剣な表情で輪を投げる小竹さん。

……結果は、惨敗。落ち込む小竹さんを見て、店主が笑いながら「輪投げは人生と一緒です。あとはちょっとした調整だけですよ」と、深みのあるアドバイスをくれました。
五感をひらくワインの香り。

気をとり直して飲食ブースエリアに立ち寄ってみると、可愛い小瓶を見つけました。山梨のワイナリー「domaine hide」が栽培する無農薬・有機栽培ブドウから作る3種類のナチュラルワインです。この商品は、3種類の異なるワインを調合しながら、自分好みのブレンドを探すワインの五感調合セット「マインドフルネスワイン」とのこと。ブレンドすればするほど、複雑な味わいになるのだとか。

ブドウの木の年齢、ラベルを描くアーティストの話など、一つひとつの説明に耳を傾ける小竹さん。「ワインの背景を聞きながら飲むと、味わいがいっそう深まりますね。自然の力でできるものって、やっぱり惹かれます。偶然の美しさというか。ワインもレコードみたいに、ジャケ買いとかしても楽しそう!」
チキチキ音でDJ気分。

気になる機材が並ぶ「大江戸テクニカ」のブースでは、カセットテープでDJプレイをする覆面アーティストに遭遇。
「これは何ですか?」と不思議そうに尋ねる小竹さんに、「持ち運べるカセットテープのDJプレイヤーです。カセットテープって知っていますか?」と覆面店主。実は小竹さんにとって、カセットテープは初めて見るオーディオ機器。昭和レトロなアイテムに興味津々の様子。
「カセットって巻き戻さないと聴けないんですよ。でもその原理を利用して音を伸ばしたり戻したり、音遊びが楽しめるんです」と彼が笑うと、「不便なのに、すごく新鮮!」と声を上げる小竹さん。

小刻みに指でテープを回しながらチキチキ音を楽しむ小竹さん。「楽しい!レコードやカセットテープって、手間がある分、音を聴いたり楽しんだりする時間が豊かになる気がします」。
身近な材料で世界に一つだけのヘッドホンをつくる。

アナログ音を体感したあとは、“音を聴く”という行為の原点を学べるオーディオテクニカ主催のワークショップへ。プラカップと磁石、コイルを組み合わせて自作ヘッドホンをつくります。

耳にそっとプラカップを当てる小竹さん。「フェルトを底につけると、音がよりクリアになる♪ 普段、スマートフォンなどから音楽を聴いているので、音が出る仕組みを学べたのは発見でした。音が“聴こえる”だけでなく、“生まれる”瞬間を感じた気がしました」。この原理を応用すると、マイクにもレコード針にもなるのだとか。
おばあちゃんに教わった手の温もり。

午後。境内の一角にある「omusubi teshima」のキッチンカーには、長い行列ができていました。エプロン姿でお店に立つ小竹さんの手元では、炊きたてのご飯が湯気を上げています。
小竹さんがSNSでおむすびを投稿してきたことが縁となり、このイベントに出店している「omusubi teshima」と一日限定でコラボすることに。お店の看板キャラクターは、昭和43年創業当時の店主・弘子さんがモデル。

「教わったコツは、強くにぎり過ぎないこと。これが本当にむずかしくて」。お米を包み込む海苔は、コラボおむすび限定で、お隣のキッチンカー「魚屋の森さん(寿商店)」から仕入れた有明海苔を使用。爽やかな香りで口の中でとろける柔らかさ。クリームチーズや柚子に負けない風味が特徴です。おかげさまで、コラボおむすびは完売でした。

アナログが教えてくれたこと。

手で触り、つくり、聴いて、にぎる。SNSで“おむすび”を発信してきた小竹さんにとって、今日の一日はその延長線にあるようで、まったく新しい体験でもありました。「自分の手で何かをつくったり、人と話したり。そういう時間って、デジタルにはない豊かさがありますよね」。

アナログには、たしかな人のぬくもりと時間の重なりがあります。食、ワークショップ、クラフトを通じて、アナログの魅力を再発見できた2日間。来年も「Analog Market」が開催されるなら、あなたの五感で新しく懐かしい音を探しに来てください。
text_Chikako Tonoi photo_Ide Yuuki model_Nonoka Kotake













