中村倫也 舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』と交錯する日常
なかむら・ともや/1986年12月24日生まれ。東京都出身。2005年、俳優デビュー。近年の出演作に、映画『ミッシング』『ラストマイル』『あの人が消えた』、ドラマ『Shrink-精神科医ヨワイ-』『DOPE 麻薬取締部特捜課』、劇団☆新感線44周年興行・夏秋公演 いのうえ歌舞伎『バサラオ』などがある。今後、声優を務めるアニメ映画『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』が12月5日公開予定。
二つ返事で決めた、二人芝居への挑戦

「オファーをいただいた時、迷うことはなくて、二つ返事でした」。
9月5日より上演される舞台『ライフ・イン・ザ・シアター』は1970年代に書かれたアメリカ演劇。堤真一さん演じるベテラン俳優と中村倫也さん演じる若手俳優――、舞台に生きる二人の俳優を描いた会話劇が再び日本の舞台で蘇る。
「30年近く前に石橋蓮司さんと堤さんで上演した作品でもあって、当時30代だった堤さんが若手俳優ジョンを演じられていました。年月を重ねて、堤さんがベテラン俳優のロバートとして、またこの作品に挑戦するときに、かつて演じた役を僕に委ねてくれたのはすごく光栄なこと。
今回、僕が演じるジョンという若手俳優は、年上のロバートにぐいぐいと近づいていく人物です。幕開きのシーンでジョンが人懐っこくアプローチする姿を読んだとき、堤さんと初めて会った頃の自分が重なりました。若いなりに必死で吸収しようとして、でもどこかで“答え合わせ”をしたがっている。役と昔の自分が自然に重なる瞬間があります」
親父のような堤真一さんとの時間

この作品でもう一人の主人公・ロバートを演じるのは堤真一さん。かつて同じ舞台で出会った20代の頃から、中村さんにとって特別な存在だった。
「最初に堤さんと同じ舞台に立ったのは、僕が二十代前半の頃でした。そのときから兄貴というより、僕の中でしっくりくるのは“親父”でしたね。親父と言っても熱血で叱り飛ばすタイプじゃなくて、放任主義に見えて、実はいつも気にかけてくれている。転ばぬ先の杖を、さりげなくそっと置いてくれているような存在なんです。芝居についても、ただ大きな背中を見せてくれて、何か口を出すわけじゃないんですけど、気づいたら守られている安心感があります。その距離感が心地良いいですし、ちゃんと見てくれている人がいると思えることが、すごくありがたくもある。
作品で一緒になる機会は多くはないですが、折に触れて食事をしたり、作品を観てくださったり。お互いに頻繁に連絡を取るタイプではないけど、それでもつながっている関係性が改めて“親父っぽい”なと。だからこそ今回の二人芝居が楽しみで。舞台上でがっつり向き合える機会ってなかなかないですから」
約15年の歳月を経て、再び同じ板の上で一対一で向き合うことの意味は、誰よりも中村さん自身が噛み締めている。
「でも、プライベートの堤さんって、実際は関西の兄ちゃんって感じなんです。くだらないことをよく言ってますし、冗談ばっかり。舞台の堤さんを知ってから普段の堤さんに会うと、あまりのギャップに“え、そんなに気さくなんですか”と驚くと思います。その一方で、俳優としての堤さんの素晴らしさは、一言で言うと“スケール”。舞台に立ってセリフを口にするだけで、その空間に空が広がっているように見えるんです。そんな風に奥行きが見える役者って、本当に数少ない。僕もいろんな舞台を見てきましたけど、堤さんの持つその世界観は、唯一無二だなと思います」
老いと時間をどう受けとめるか

作中で描かれる「老い」と「世代交代」。40代が迫ってきた中村さんにとっても、決して遠い話ではない。
「僕、小学校の頃にひいおばあちゃんが90代で、お見舞いに行く度に、少しずつ子どもに戻っていくような姿を見てきたんです。あやとりで一緒に遊んだりもして……、幼いながらに、“始まりがゼロなら終わりもまたゼロに戻るんだな”と体感したことがありました。だから“老い”には抗えないし、抗うべきものでもない。あるがままを受け入れるものなんだろうなって。
遠慮のない言葉でいえば、人はいつか死んでしまう。それが明日かもしれないし、何十年後かもしれない。タイムリミットは誰にも分からないから、考えても仕方ないことは考えないようにしています。これは僕の性格というか、脳の使い方なんです。どれだけ自分に時間が残されているかはわからないので、あまり先のことばかり見据えずに、直近の稽古だったり、今日やるべきことだけに集中しています。日常の実感としても、最近は“若い子はこんなに無茶できるんだな”って思うことが増えました。ただ、体力的には落ちていても、年を重ねるほどできることもあると思う。減る分、増えることもあるんだろうなって。そんな漠然とした感覚でいます」
その言葉は淡々としているが、どこか達観した響き。抗えないものを受け入れ、今日という日に集中する。先のことは「分からない」と笑う。けれどその姿勢は、諦めではなくむしろ解放感があって軽やかだ。
舞台が一番向いている場所

映画やドラマなどの映像の世界でも活躍する中で、「舞台が一番、自分の能力を使えている感覚があるんです」と中村さん。
「映像はあんまり向いてないと思うし、もっと向いてないのは写真(笑)。でも舞台は、今の自分の能力を全力で使えていると感じられるんです。舞台で味わう緊張感は、むしろ楽しいと同じ意味かもしれない。自分が一番生きている場所だと思えるし、僕をよく知っている人たちも多分そう感じているはず」
中村さんの舞台に適する能力とは?と尋ねると、「教えない」とキッパリ。続けて、「それは観てくれた人たちがジャッジすることだから」と。作中で繰り広げられるような、俳優同士の演劇論を語るのも得意ではない。
「議論を交わすより何より、じゃあ芝居で表現すればいいじゃんって思っちゃうんです」
役者をやっている上では表現が名刺代わり。事前に演出家や共演者と話して、意識を共有しても、それを表現できなかったら意味がない。何の説明がなくても表現一つで全部伝わることもあるから、四の五の言わずやってみる。この作品で言えば、ロバートは良かれと思って、ジョンに教えていることがいっぱいあるし、そこにはお金を払わないと得られない経験や知識も詰まってるかもしれないけど、僕はまずやりゃあいいじゃんと思います。説明なんかしなくていい。作品って、観る人が自分の記憶や想像力とリンクしたときに、深く落ちていくものだと思うので、観客が自分の経験と重ね合わせられるような、押し付けがましくない芝居ができればいいですね」
舞台の先にあるささやかな愉しみ
公演は全国を巡る。京都、宮城、愛媛……、土地ごとの味覚も楽しみのひとつ。「京都では蕎麦を食べたいし、甘味処にも行きたい。愛媛や宮城・多賀城市は初めてだから楽しみ。海の近くだから魚がおいしそうですよね」と笑顔。食の話題から、私生活のささやかな一コマも覗かせる。
「最近はベランダでバジルやミニトマトを育てています。朝起きたら、まずは天気予報を見て、天気にあわせて水やりをするのが日課。最近おいしかった食事は、とれたてのバジルを刻んで、ナスやトマトにオクラ、最後にオリーブオイルをひとかけする冷たいそうめん。バジルは花が咲いたら、摘んで天ぷらにするとおいしいらしいんですけど、揚げ物はまだちょっと怖くて(笑)」
都市を飛び回る俳優業の合間に、自宅のベランダで野菜やハーブを育てて、おいしく食べる。そのギャップが彼の生き方の豊かさを物語る。
作: デヴィッド・マメット 翻訳:小田島恒志 演出: 水田伸生
出演: 堤真一 中村倫也
【東京公演】2025年 9月5日(金) ~ 9月23日(火祝)
【京都公演】2025年 9月27日(土) ~ 9月28日(日)
【愛知公演】2025年 10月4日(土) ~ 10月6日(月)
【大阪公演】2025年 10月9日(木) ~ 10月14日(火)
【愛媛公演】2025年 10月17日(金) ~ 10月18日(土)
【宮城公演】2025年 10月25日(土) ~ 10月26日(日)
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