「自分らしくいられるところを探している」長澤まさみインタビュー。|映画『スオミの話をしよう』

「自分らしくいられるところを探している」長澤まさみインタビュー。|映画『スオミの話をしよう』
「自分らしくいられるところを探している」長澤まさみインタビュー。|映画『スオミの話をしよう』
CULTURE 2024.09.13

三谷幸喜さんが脚本・監督をつとめる映画最新作『スオミの話をしよう』は、失踪した大富豪の妻スオミと彼女を愛した5人の男たちが登場するミステリーコメディ。主人公スオミを演じるのは、三谷作品に欠かせない俳優となっている長澤まさみさん。スオミを愛した5人の男たちを演じるのは、西島秀俊さん、松坂桃李さん、遠藤憲一さん、小林隆さん、坂東彌十郎さんといった実力派俳優陣。加えて、三谷作品常連の瀬戸康史さん、宮澤エマさん、NHK連続テレビ小説『虎に翼』で注目を集める戸塚純貴さんも登場します。主演の長澤さんに映画の舞台裏についてお話を聞きました。

プロフィール
長澤まさみ
長澤まさみ
俳優

静岡県生まれ。2000年のデビュー以降、数多くの映画やドラマ、舞台に出演。三谷幸喜作品は、舞台『紫式部ダイアリー』(14年)、ドラマ『我が家の歴史』(10年)、『真田丸』(16年)、『鎌倉殿の13人』(22年)に出演。映画は今回が初となる。

公開情報
『スオミの話をしよう』
『スオミの話をしよう』

突然行方をくらませた、大富豪の妻・スオミ。スオミの失踪を知り、夫が住む豪邸に集結したのは、彼女を愛した5人の男たち。しかし、彼らがそれぞれに語るスオミのイメージは、見た目も性格もまったく異なるものだった。一体、スオミの正体とは? とある豪邸を舞台に、三谷幸喜の真骨頂!ミステリーコメディの幕が上がる。9月13日(金)より全国公開。

©2024「スオミの話をしよう」製作委員会

公式サイト

──三谷監督の脚本を最初に読んだときに、「難しい」と感じたそうですね。

長澤:いままで他の作品で、1つの物語の中で何役か演じるというのはやってきたことではあったんです。でも、今回私が演じたスオミはスオミ。一人だけなんです。だからといって多重人格者ということでもなく。対峙する相手によって印象が全然違ってしまう女性なんです。自分の意見を言えない女性だったり、気が強くて自分本位の女性だったり、ただただ陽気な女性だったり、自立したパワフルな女性だったり。

──多面性のある女性、ですよね。

長澤:でも、人間ってみんなそうですよね。家庭にいるとき、職場にいるとき、友達といるとき、だいたいの人は、多かれ少なかれ、その場に応じてキャラクターを演じわけている。スオミの場合、それがちょっとエキセントリックなんです。なので、スオミはこの人と一緒にいるときはどんな時間を過ごしていたんだろう、どういう関係性なんだろう、そんなことを考えながら向き合いました。

いちばんトリッキーだったのは、じゃあ「素のスオミはどういう人なの?」という部分。こういう女性なのかな、というのは自分なりに解釈し、演じました。でもいま、ふと、本当のスオミってどうなんだろう、あのときはこうだと思ったけれど、全然違うのかもしれないな、というのはよく考えることなんです。

──本当のスオミってどういう女性だと思いますか?

長澤:自分自身をさらけ出すことのできない人。自分を出せないから色んなスオミになっちゃうんだろうなって。自分がないわけじゃなく、自分らしくいられるところを探してる人だと思うんです。私もそういう部分はよくわかるので、スオミに共感してしまいます。やっぱり、どんなときも自分でいられる人、自分を出せる人って自由に生きられる、強い人だと思うんです。スオミのように本性を出せずに取り繕ってしまうのは、自分の中で自分の居心地のいい場所を作り出せていないということだし、見つけられてないんだろうなって。

──三谷監督とは舞台やドラマ、さまざまな作品でタッグを組んできましたが、改めて三谷作品の魅力ってどういうところですか?

長澤:登場人物全員に対して当て書きをされるのが三谷さんの作品の特徴ですが、三谷さんはいつも、どういう役柄をこの人に当てたらその人が輝けるか、ということをいちばんに考え、キャラクター作りをされ、本を書いていらっしゃる。

ですから、スオミという役に対してもすごく愛着がわきました。それは共演されたみなさんそうだと思うんです。スオミの物語ではあるんですが、スオミを取り巻く人たちの物語でもあるから、ある意味、それぞれが主役。それぞれの役がちゃんとスポットを浴びるんです。そこが三谷さんのすごいところだし、ならではだと思います。

──三谷監督は、「今回は原点に戻り、演劇的な映画を作ってみよう」というのが出発点だったとおっしゃっていました。その通り、スオミの5番目の夫の豪奢な邸宅で繰り広げられるシチュエーションコメディのような雰囲気がありました。

長澤:舞台と映画の融合というところでいうと、撮影に入る前までたくさん稽古の時間があったので、それはほんとにありがたかった。周りの役者さんもみんなそうおっしゃっていました。あと、ミュージカルシーンもありましたから、こちらは、撮影が終わったらミュージカルのお稽古に行くっていう。ほんと、芝居に没頭した、芝居漬けの日々になりました。

──物語はスオミがいない中、豪邸を舞台に進んでいくわけですが、完成した映画を観て想像を越えた部分などはありましたか?

長澤:台本を読んでるときから、男性陣だけのシーンはどうなっていくんだろうと思っていましたし、一人また一人と家にやってくるので、その変化がどう描かれてるんだろうというのも気になっていて。

でも、西島(秀俊)さんはものすごく神経質な人を演じてるのにあんなにおおらかに笑うんだなとか、エンケン(遠藤憲一)さん演じる庭師も一生懸命掃除してるのに掃除し切れてないなとか、松坂(桃李)さん演じるYouTuberの間が独特だったり(笑)。それぞれのキャラクターが持つ愛らしさがおかしみになっていて。それがすごく新鮮でした。ああ、こんなふうになるんだって。

──映画からも伝わってきますが、現場はすごく賑やかで楽しかったと。

長澤:そうなんです。とにかく、(坂東)彌十郎さんがすごくかわいい(笑)。いつでもニコニコしていてやさしくて、ほんと癒やし系。3番目の夫を演じた小林(隆)さんもそう。すごく温厚な方。先輩方がみんな穏やかでいてくれたから、空気が和やかになった気がするんです。男性陣はそれですごく意気投合していたようです。私は宮澤エマさん演じる親友の薊(あざみ)ちゃんと仲良くやっていましたけれど(笑)。

──今回、5人の夫たち、プラスアルファで、長澤さんを含めると9人の魅力的な俳優さんたちが登場するわけですが、長澤さんにとって、それぞれがどういう人物なのか、どういう側面が見えているのか、教えていただけますか?

長澤:まず、西島さんは『シン・ウルトラマン』(22年)で共演しているというものあるので、私にとっては“班長”のイメージ。リーダーシップがあって頼りになるお兄さん。でも、とっても穏やかな方なので、西島さんがいるだけであったかい感じになる。とっても安心できる人です。

松阪さんはずいぶん久しぶりの共演でした。『GOLD』(10年)というドラマ以来。すごくまじめで硬派な青年のイメージが強かったんですが、今回、映画ができあがって観てみたときに、こんなにもコメディが似合う人なんだと。すごく相性がいいなと思いました。松阪さんのコメディをもっと観てみたいなって。

遠藤憲一さんは今回が初共演。人懐っこくて、よく笑う、とっても乙女な方なんです。なんだか同士みたいだなって(笑)。エンケンさんとは本当にいい出会いでした。今度は親友の役とかで共演したいです。

小林さんとは大河ドラマ『真田丸』(16年/三谷幸喜・作)以来。三谷さんの劇団、東京サンシャインボーイズの方ですし、一緒に演じると安心感があります。私も三谷組にいるんだという気持ちにさせてくれるので、大先輩だけど仲間のように感じるんです。同じ目線で考えてくれて、俳優仲間という気にさせてくれる腰の低い、やさしい先輩です。

彌十郎さんとも実は初共演。大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22年/三谷幸喜・作)でご一緒させていただいていましたが、私はナレーション担当だったので、ずっと観てるだけ。やっとお会いできました。今回、彌十郎さんが演じた芸術家は風変わりなお金持ちですが、他の人が演じたらイヤミになるようなことも、彌十郎さんが演じるだけで愛くるしくなるのはあのお人柄あってこそだなって。空気感、声のトーンもそうだし、キャラクターを自分のものにしちゃうのがすごい人。

瀬戸康史さんもめちゃくちゃやさしい。何度か共演していますが、突き抜けた役を演じることもあれば、どこにでもいそうな青年を演じることもできる。非常に幅広い役柄を演じられる人なんです。いたってたんたんとマイペースに芝居をされるので、芝居の上で、私が迷惑をかけるようなことがあってもすべてを受け入れてくれる。一緒に頑張ってくれるし、応援もしてくれる。こういう仲間がいてくれると幸せだなって思う、そういう人です。

戸塚純貴さんは、福田(雄一)組で何回かすれ違ったことはあったので、顔見知りではあったのですが共演は初めて。戸塚さんはどこにいても戸塚さん。どこにいても自分のキャラクターを持ってる人。とっても可愛げのある青年で、一生懸命、みんなの隙をねらってるというか(笑)。自分の味をもった俳優さんだなって。

そして、宮澤エマさんはなんでもできる人。俳優としてのポテンシャルがすごくある人です。年下なんだけど、「先輩!」みたいな感じ。「エマさん、ついていきます!」って(笑)。ほんとにおおらかで、女優らしい素質を持っていて。もっともっと一緒にお芝居したいなって。

──映画では、エマさんとの息がすごくぴったりでした。スオミと薊のスピンオフを観たくなりました。プライベートでも仲良しですか?

長澤:仲いいです。というか、今回、仲良くなれた、と思ってます(笑)。お互いに忙しくてなかなかお会いできないですが、エマさんが持つパワーはすごく好き。明るくて、気持ちのいい人だし、芝居に対してすごく真剣でまじめ。ほんとにエマさんの芝居に対する向き合い方を尊敬しているので、もっとエマさんと共演してみたいんです。

──では、最後に。長澤さんにとっての三谷さんとは?

よくわかんない人です(笑)。でも、私が芝居に対して迷うことがあったときに的確なアドバイスをいつもくださるんです。やっぱり私の先生ですね。

text_Izumi Karashima photo_Tomohiro Takeshita hair&make_Mikako Takamura styling_Ryota Yamada edit_Kei Kawaura

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