カカオ金時

[ 第15回 ]浜町 写真家高野ユリカの「だれかの住む街と菓子」/『 隅田川の横、ちょうどいい風速』

FOOD 2023.07.30

小さな暗室のある私の事務所は浜町にあって、同じビルには設計事務所、お花屋さん、デザイナーなど色々な人が集まり、いつも誰かが仕事をしている。隅田川も近くて、清洲橋の方向から浜町全体に風が吹き抜けている感じがするし、パン屋さんも菓子屋さんもコーヒー屋さんも定食屋さんもお蕎麦屋さんも飲み屋さんも、老舗から新店までおいしいお店が揃っていて、とにかくカラッとひらかれた居心地のいい街だなぁと思う。オフィス街なのに、神社のお祭りが近づくと、あっという間に人が集って下町の空気に包まれたりする浜町は、程よくちょうどいい。

nel CRAFT CHOCOLATE TOKYO(ネル クラフト チョコレート トーキョー)のカカオ金時

半袖で歩けるくらい天気のいい五月晴れの日、食べるならこういう日に食べたいよね、とずっと機会を狙っていたのは、浜町ホテルにあるnel CRAFT CHOCOLATE TOKYOのカカオ金時。かき氷は天気とタイミングが絶対重要。そしてチョコレート好きとしては、氷にしたらせっかくのカカオの濃厚感がなんだか薄まっちゃうのでは…と、勝手にチョコと氷の組み合わせを敬遠してたことを、早々に後悔。どうして今まで食べて来なかったんだろう。綺麗にまあるく盛られたチョコレート色の氷山、頂に銀箔。降りたての綿雪みたいなふわふわな感触は、口の中に入った瞬間に別物になる。ビターなチョコレートはそのままに、濃厚なムース感。ひんやりするけど思ったよりも冷たくないのがすごい。食べ進めるとパキッと音がして、チョコレートの薄い板が割れる音さえ綺麗。一番下の餡子の層が、nelらしいチョコレートと和の組み合わせでおいしい。あぁ、最高のかき氷初めができた…!

Single O Hamacho(シングルオー ハマチョウ)のバナナブレッド

仕事の合間に食べたくなるのは、シドニー発のコーヒー店Single Oのバナナブレッド(朝も昼も夕方も、事務所で小腹が空いた時の定番になっている)。コーヒーも自分でタップして注ぐタイプで気軽に立ち寄れるし、店員さんたちのラフに気遣ってくれる緩さが、ちょうどいいなぁと思う。焦げ目付きで焼かれたバナナブレッドの上に載っかった、エスプレッソバターが熱でゆっくり溶けていく間、ずうっといい匂いがしていて、外はカリッと中はもっちり。浮気せずリピートしてしまう。外国人観光客、サラリーマン、休日を過ごす人、ベビーカーを押したお母さんたち、いろんな人が入れ替わり立ち替わりSingle Oに吸い込まれるように、集まって、くるくると出ていくから、しばらく座って観察しているとお店を舞台に街にいる人や住んでる人が出てくる映画を観ているよう。浜町とSingle Oのグルーヴ感。

東京洋菓子倶楽部のモンブラン

浜町のご近所さんで、設計事務所の友人(パン屋の2階で「パン屋と絵」という素敵な展示の企画もしている)と打ち合わせがあったので、東京洋菓子倶楽部のモンブランをお土産に。シート状になってる滑らかな表面とトンがった帽子みたいなチャーミングな見た目がかわいい(アルプス最高峰の“モンブラン”をイメージしているそう)。口に入れるとシルキーでシームレスなマロンペーストに、生クリームの程よい甘さが、最後までやさしいな。

食べてる時に「普通のモンブランは糸状で…」って話してたけど、モンブランの普通って…誰が決めたんだろうね。これが浜町のモンブランよ?