『メリークリスマス、今年のベストバイ』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第75回

手元の生活とそれに伴うストレスを毎日毎日直視し続けていると気が滅入るので、クリスマスはその日常から少しだけ目を逸らさせてくれてありがたい。クリスマスソングは大体ハッピーなメロディを奏でているし、シュトーレンやローストチキンなどといった華やかで楽しげな存在が街に並ぶ、ご機嫌な季節。

以前、学生時代の後輩に「キリスト教徒でもないのにクリスマスを祝うなんて意味がわからない」と言われたことがある。起源をたどればそうなのかもしれないが、「祝う気がなくたってほとんど代わり映えのない日々の彩りのひとつとして何らかのイベントがあった方が人に会ったりちょっといいディナーを食べたりする口実ができて良くない!?」「てか祝ってるというより楽しんでるだけの人が多いのでは!?」と早口で言い返しそうになったが、別にこんなところでこの人とわかり合おうと頑張る必要もないかと思い直し、「なるほどね」の5文字に押し殺した。

私はキリスト教徒ではないが、ご機嫌な空気を家にも取り込みたくて、毎年11月下旬頃から家庭用のクリスマスツリーを調べまくっている。Instagramで誰かが「枝葉のボリュームがあって本物みたいです♡」と載せていた商品が気になり、すぐに販売サイトに飛んだ。ちょうどブラックフライデーで値下げしていたのだがサイズで悩み、購入者たちのレビューを見ているうちに寝落ち。そのまま数日経ち、街中でツリーを見かけて思い出し検索履歴からたどると、どちらのサイズも売り切れていた。みんな考えることは一緒。
友人の結婚祝いのブーケを買うついでに、クリスマスリースに使われることも多い種類のヒバの枝葉を数本持ち帰った。ざっくり束にまとめて、我が家で一番大きい花瓶に挿してみる。おおお、色合いと質感がまさにクリスマス。仕事先でもらった差し入れに付いていたリボンを数カ所に結び、無印良品で売っていたオーナメントクッキーを裁縫糸でくくりつける。うおおおお、めっちゃそれっぽいぞ!! ヒバは消臭効果もあり、植物的にも強いので数カ月間は持つそうだが、枯れたら捨てればいいので片付けの怠さもない。コスパのいいツリーもどきは、我が家に遊びにきた幼なじみにも好評だったので、来年からもこれで満足できる気がしている。

年末のもうひとつの楽しみといえば、SNSのタイムラインに流れてくるいろんな人のベストバイ。なぜそれを選んだのか、それはほかの類似品と比べてどこがベストなのか、モノへの思い入れだけでなく“何を大切にして生きてきたか”といった価値観まで透けて見える気がして、スタンスの違いもとても楽しい。極まるとこまで極まった人が蛇口が壊れた水道のように何かへの愛をドバドバ語っているのを聞くのも好きだし、それを浴びて「うへえ、置いていかれたぜ」と思うのも好き。他人がおいしそうにごはんを食べている動画を見ていると自分の空腹が紛れるように、他人のベストバイ読んでるとエア消費してる気持ちになれる。自分も早口で語りたくなる買い物をしていきたい。

私のベストバイの中からここでひとつだけ挙げるなら、Adlin Hueの九谷焼リング。2024年元日に発生した能登半島地震で、石川県小松市で120年以上の歴史を誇る九谷焼の名窯「錦山窯」の貴重な作品が破損。その陶片が職人さんの手で丁寧に整えられ、ジュエリーとしてアップサイクルされるというプロジェクトだ。
2年前に撮影で小松を訪れた際も、九谷焼作家さんのギャラリーで作品に見惚れたり、今年の10月にも金沢旅行で九谷焼を購入したりと、折に触れてその繊細な技法の虜になっている私。欠片の形や大きさ、金彩の切り取られ方、小粒のメレダイヤモンドによる縁取りのデザインもひとつひとつ異なる一点物なのだが、組み合わせのバランスがどれも絶妙で、個性的なのに元々持っていた指輪たちと合わせても喧嘩しない。この連載で「ゴツゴツした存在感のあるリングをもりもり付けていると強くなった気がして楽しい」という趣旨の文章を綴ったことがあるように、私にとってこれぞ心を潤すベストバイ。
これを作ろうと思い至った安部真理子さんに感謝と敬意を表したいし、素晴らしいものに出会えた自分にも賛辞を送りたい。何より、日本の伝統工芸を装着した自分の手元を見るたび、ため息が出るほど美しい。今回は完売してしまったそうだが、震災の影響を受けた作品はまだまだ残っているらしく、ぜひこのプロジェクトも続いてほしいし、小松にもまた行きたい。いいところだったなあ。

2025年もまもなく終わりますね。この連載を読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。今年は2冊目の書籍化が叶い、お渡し会で読者の方々にお会いして感想を伺うことができました。毎月「はあああぁぁaaaaaもう本当にダメ、自分には文才がない、おしまい、クソ」とか言って自己嫌悪に陥りながらもそれでも書きたくて夜な夜な書いているのですが、皆様が少しでもクスッと笑えたり、自分のことを褒めるきっかけになったり、心のおまもりになるような言葉が見つかったり、そんな一瞬を皆様に届けられるように来年も頑張りたいと思っています。引き続きよろしくお願いいたします。どうか健やかに、あたたかな一年をお迎えください。
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