伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第39回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu「帰国して、本が発売されました」
1週間のヨーロッパ放浪を経て、無事に帰国しました。スリに遭わず、風邪もひかず、初めてのヨーロッパにしては平和すぎる旅でした。唯一の失敗といえば帰りの飛行機。航空業界にイレギュラーは付き物で、天候や機材繰りによる欠航や遅延はよくある話。日本時間で月曜のお昼に仕事がある場合、万一に備えて前日の日曜には帰国しておいた方がベターである。ところが私は、うっかり日曜の朝にイギリスを出発して、月曜の朝に日本に到着する便を取ってしまっていたのだ。それに気づいたのはキャンセル期限を過ぎた後。無事に予定通りに到着したとしても、4時間後にはTOKYO FMで生放送が始まるという強行スケジュールが確定している。出発の日の朝、ホテルで荷造りをしていたら「おかえりなさい! 明日の原稿をお送りします」というLINEが作家さんから届いた。帰れる場所があって、「おかえり」と言ってくれる人がいるのは、本当にありがたい。でも、まさかまだロンドンにいますなんて言えるわけがない。
飛行機に乗り込み、帰国後の仕事に備えるべく、目を瞑(つぶ)った。しかし寝よう寝ようとすると逆に全く眠れないのが人の性(さが)。機内で配られたお菓子をつまみ、目の前のモニターで時々フライトマップをチェックしては、まだかまだかと気が急(せ)くばかり。世界中で話題になっているインド映画『RRR』を不意に見つけてしまい、視聴し始めると面白くて釘付け。物語もお芝居もダンスも素晴らしく、劇中歌の「Naatu Naatu」が今でも頭から離れない。ただ、さっきまで滞在していたイギリスの大英博物館で見たアレは……そうか、おおう……などと考え始めてしまった。イギリス帰りの『RRR』は特に刺激が強いので、心して観ることをおすすめしたい。胸がザワザワしながらも運よく時刻通りに帰国し、一度帰宅してからラジオの生放送に向かった。定刻通りのとても快適な空の旅でした。JALの皆さん、ありがとうございました。
さて、休みは休み明けの労働で一番実感するのですね。ぽっかり1週間お仕事をしていなかった分のシワ寄せで、帰国後は朝から晩まで、密なスケジュールで毎日働かせていただいてます。旅の思い出話はまだまだありますが、昨日この連載がまとまった本が発売されたので、一時休憩。
自分の名前が著者名に記載された本が生まれるのは、今回で2度目。すでに連載で世の中に放たれた文章が大部分を占めているとはいえ、昔から本が好きなので、紙で印刷されて形になるのは何度味わってもうれしい。加えて「この表現で伝わるかな」と思いながら執筆してきたので、なんだか緊張してしまう。とくに今回のエッセイ本は、頭の中で絡まった思考をゆっくりとほどいて、言葉で紡ぎ直した1年4カ月の記録だ。この期間に初めて経験したことも多く、なかなか濃い期間だったことがわかる。渦中の私は自分でもどうかしていると思うくらい、もがき、悩み、苦しんでいる。本来は自主的に省くべき、絶望や闇が深すぎる暗い内容もそこそこ入っている。でも書いちゃったから仕方ないやー! と今は割り切って、自分の手のひらから言葉たちが旅立っていく瞬間を、そっと見送るような気持ちでいる。あと落ち込んでも回復は早いタイプなので、読み返すまで何を悩んでいたのか忘れてました。てへ。
とはいえ、嘘なく、ありのままで生きてきたからこそ、誤解されることも、傷つくことも多い。振り返ると、他者からの「言葉」や自分が発した「言葉」が理由で、なんやかんやと落ち込むことの多い人生だった。正直者は辛い。嘘をもっと上手に使える人間になりたかったとさえ思う。こんな面倒くさい自分のことを心底嫌になることもあるけれど、そうでなければ、文章を書いたりラジオでしゃべったりする必要はなかったのかもしれない。 静かな場所で、自分が考えたことや感じたこととじっくり向き合う時間が、今では大切なものになっている。未来の自分がどうしても上手くいかない日に読み返して、「ずっと悩んでるけど、ちゃんと頑張ってるじゃん」と笑える本になっていますように。
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