伝えたかった、言葉たち。 「美しいものと美味しいもの」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第57回

「美しいものと美味しいもの」

日比谷音楽祭がすごすぎた。まさに野外フェス日和の最高の週末。U-NEXTの生配信MCとして参加したのだが、野音のリハ中はステージからの音漏れが配信に乗ってしまうので、本番のネタバレを防ぐため、休憩も兼ねて一部エリアを回ることができた。

別のステージでは普段は大野雄二さん率いるバンドのライブで活躍するコーラスグループ「Fujikochans」とアコースティックギターのハーモニーに癒された後は、世界的にも稀有なバリトンサックス・バンド「東京中低域」のジャズに心を寄せる。満員のエリアは立ち見の人もいたけれど、みんな穏やかな顔をしていた。

さらに公園内を進むとさまざまなジャンルの音楽がそこかしこから聞こえてきて、周辺の木々が生み出す風と、楽しそうな人々の声が混ざり合う。独特な音の広がり方をする民族楽器に異国情緒を感じ、ワークショップエリアからはウクレレの心地良いサウンドも。誰が演奏を始めてもなんとなく立ち止まって、思うままに揺れたりクラップしたり、アウェー感がまったくない。
広場にはベトナムの屋台でよく見るカラフルなプラスチック椅子が置かれていて、近くの出店で買ってきたらしいビリヤニのようなものを食べている家族連れの頭上をトンボが横切った。

人々が不寛容になったり、疑い深くなったり、強気になったり弱気になったり不安になったり。とくに東京は気を張りながら殺伐と働いている人が多かったり、活気と共に疲労感がただよっていることも多かったりする場所。その都会のど真ん中だなんて信じられないくらい、日比谷音楽祭はのんびりピースフルな空間だった。

お客さんは無料で入場できる代わりに、クラウドファンディングで資金を募っている。音楽がみんなの心をなだらかに癒して繋いでいくだけでなく、参加のハードルが下がっているというのも、あの開放感に繋がっているような気がする。

野音のリハーサルを見学していると、一流のミュージシャンたちがお互いに理解し尊重し合っているからこそ、アイコンタクトで呼吸が揃っていくのが伝わってきた。音響さん照明さんエンジニアさんなど、それぞれのプロフェッショナルたちがライブを支える。きっと全員が積み上げてきた腕とか、自分が悔しくて泣いた記憶とかが混じり合って、人の心を動かすものを生み出しているのだろう。

そして日比谷音楽祭の実行委員長・亀田誠治さん。いつも笑顔で周りを明るく照らすすごい方。当日も演奏に運営に大変だったはず。野音でライブが始まり、隣で亀田さんも見ていると思ったら、いつの間にかいなくなり、気付いたらまた近くで別の人と楽しそうに喋っていた。素晴らしい空間に立ち合わせてもらえて幸せでした。最高の体験をありがとうございました。本当にお疲れ様でした。

毎日を完璧に回していくことよりも、機嫌良くて楽しそうにいることの方が何倍も大切だと思う今日この頃。体に入れていいものは美しいものと美味しいものだけにしたい。嫌だなって直感で見分ける勘がある程度の精度を持ち始めてから、あらゆるものに疲れてしまい、もう良いかな、満足だなって思ってしまう時期がときどき巡ってくる。でもやっぱり、尊いものに触れたら、生きよう。

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