伝えたかった、言葉たち。 「最近気づいたこと」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第56回

「最近気づいたこと」

桜、咲いて初めて、あの街路樹は桜だったんだなと気付く。花びらが散って色の濃い花弁が目立ち始めて、やがて葉をつけ始めると、ああまたひっそりと佇む11ヶ月が始まるのだなと、その厳かな感じが好き。もう何十回も見ているはずなのに、目にすると毎度新鮮に感動して（富士山とか、星空とかもそう）、心を動かすために4月はいつもより早く仕事が終わった夜に外をうろついていた。
美しい景色に出会うと、なるべくその美しさのまま写真に閉じ込めて、誰かに知らせたくなる。どうせならより良く伝えたくて、何枚も撮って試行錯誤。見返さない写真をカメラフォルダに積もらせていく。本当に誰にも見せることなく削除するときの虚しさったらないので、とりあえずインスタに投げておしまい。よし、見納めたなと思ったら、乾き始めた眼球からコンタクトレンズを取る。

神経質というか、目に入ったもの全てが気になって気になってしかたなくて、どこにいても何をしていても注意散漫なときがある。視界に飛び込んでくる情報が多すぎると永遠に思考がめぐってしまって全く休まらない。その点で言うと、コンタクトやメガネを外すだけで視覚情報の解像度がガクッと下がる私の乱視強めな目は案外便利で、気に入っている。
それから、馬鹿みたいに漠然とした淋しさを自覚することも増えた。仕事に不満があるのではない。人間関係に悩んでいるわけでもない。釈然としなくて居心地が悪いので、我ながらいい加減にしてほしい。世の中の輪郭も自分の淋しさも、ぼんやり捉えられるかどうか、くらいがちょうど良いのかもしれない。何でも細部まで分かれば良いってもんじゃない。

最後にもうひとつ。この世を生き抜くには、怒りの反射神経を研ぎ澄まして適切なタイミングで激怒する力が必要だと、強めに思うようになった。私は、素直に怒れない。怒る、ということは、自分の感覚を肯定できている、ということだと思う。私はその前に疑ってしまって、すぐに怒りを選択して出力することができない。本当に自分が怒っている理由は正しいんだろうか、何か間違っていないだろうかと。人に害を与えないストレス発散方法も見つかっていないので、短期記憶から怒りが薄れていくのをただ待つ。年々そればかりが上手くなっていく。薄れてそのまま消えてくれたらいいのに、言葉にならず、昇華もせず、体内に沈殿して、くすぶる。ものすごく体に悪い。

死ぬまでに何度も怒りと向き合わされるだろうに、いつまでこのやり過ごし方で耐えうるのだろう。怒りから元の感情に戻ることも難しいのに、無視して蓋をするばかりでは、いつか自分自身が潰されてしまう。パッと怒って、素早く手放す。明日に引きずったら人生がもったいない。ちなみに、怒ったときに感情をそのままぶつけるのか、それとも一度冷静になり、相手を傷つけない言葉で怒りの理由を伝えようとするか、伝えるのを諦めて後退りするか。ここは大きな分かれ目である。まもなく27歳、なるべく心穏やかに生きるための選択を重ねていきたいと思いながら、こんなことを考えている。

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