伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第52回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Satomi Urata hair&make : Hitomi Akiyama「我々の5月21日」
全く同じ生年月日の女友達が結婚することになった。下の名前で呼ぶことがほとんどだけど、気まぐれで呼ぶあだ名はつんちゃん。彼女と出会ったのは中学1年生の春。地元の小学校でなじめず、10代前半にして人間関係のストレスに胃を痛めていた私は、電車で1時間もかかる私立中学をわざわざ選んで受験した。実際に入るまで把握していなかった私が悪いのだが、新入生には入学式の翌日から学年全員で5泊6日の合宿に参加しなければならないという特殊なカリキュラムが用意されていた。初日にクラスメイトの一覧表は配られたものの、まだ顔と名前が一致しておらず誰が誰だか分からない。全く知らない人たちと衣食住を共にしようとしている。涙なしに帰還できる気がしなかったし、勘は的中した。
本当はどんなに謙虚で優しい人だとしても、ぶっきらぼうな物言いと鋭い目つきでダル絡みしてくる態度の大きい細眉の女子は、初対面が故にガラの悪いヤンキーにしか見えない。それは仲良くなりたいという思いに警戒心がまとわりついて空回りした結果だと後に分かったけれど、人間関係のストレスから逃げるように飛び込んできた子羊にとって、初日からイキっている輩は完全なる刺激物、いや敵である。頑張って勉強してやっと安寧の地を手に入れたと思ったのに・・・・・・。正直、終わったと思った。数日前まで他人だったクラスメイトたちと狭い空間で寝泊まりしているので、ほかにもいくつか衝突はあって、例に漏れず自分もかなり気を張っていたので嫌な感じに映る部分もあっただろうと今となっては反省している。ただ、忘れもしない、人生で一番長い6日間だった。合宿が終わり、迎えにきてくれた母に会うやいなや号泣、「また無理かもしれない。やめたい」と弱音を吐いた。
お察しの通り、私が絶対に仲良くなれないしせめて目をつけられないように過ごそう、と早々に腰が引けてしまった相手が、つんちゃんである。出会って14年経ち、この話は我々にとっていい酒のつまみになっている。生年月日が同じだと多かれ少なかれ似たような気質を持っているのか、学生時代からお互いにギリギリまで自分を追い込んだ挙句ちゃんと倒れるタイプであり、病院に運ばれてもなお諦めが悪いところも理解できるので、「休み休み頑張ろ」「しんどくても強がらんでええんやで」といたわり合ってきた。
ただ彼女の持ち前のヤンキー精神なのか、勝ち気な部分は健在で、大好きな服飾の仕事をするために入ったのに人付き合いで悩まされた専門学校でも、服飾とは一切関係ない業種に舵を切ったら地獄のような労働環境だった職場でも、心も体もボロボロのまま突っ走っていた。昨年、“我々の5月21日”を祝うために高円寺で飲みながら、パートナーとの同棲をきっかけに東京を離れて転職しようか迷っていると話してくれた。口だけは強気な彼女らしく「パワハラ上司に全ての恨みをぶつけてから辞めてやるー!」と息巻いていたが、ありったけの愛嬌と適当に取り繕った感謝だけを振りまいて辞めなと伝えた。人との縁はいつどこで再び繋がって自分の身を助けることになるか分からないし、喧嘩別れをしたら有休消化なしで退職になるかもしれない。それから、ちょうど居合わせた私の知人が彼女の新天地(しかも服飾関係!!!!)を紹介してくれたりと、今後の作戦会議をして解散となった。
ずっと味方でいてくれる人が彼女のすぐ近くにいるということが、私はこの長文を書くくらいうれしい。もう傷だらけの戦士にならないでほしいし、誰も見ていないところで倒れないでほしい。ひとりだけで強くなる必要はない、くだらない話をしているだけで明るくなれるって存在がいることが自分を強くしてくれることもある、それは私がつんちゃんから得たものでもある。とにかく、お相手との日々の中で、つんちゃんが自分自身を好きだと思える時間をたくさん持てますように。本当におめでとうございます。幸せほやほやのところ恐縮ですが、“我々の5月21日”だけは、来年もよろしくお願いします。
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