伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第47回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu「馴染まないからこそ面白い」
活字を読み進めるペースが昔よりも遅くなっているように感じ、最近はリハビリのために文庫本を持ち歩いている。ちょっとした時間に開いて読了していった物語の中から、今日はこの一冊を紹介します。
お馴染みの有名な物語のタイトルと、少しのヒントをスパイスに、著者が物語を新たに創造する。この柔軟かつ大胆なテーマ設定を完全に乗りこなして『馴染み知らずの物語』という短編集を著したのが、タレントの滝沢カレンさん。テレビやラジオでも耳馴染みのない日本語の組み合わせでお話ししているのが印象的で、しかも何となく言いたいことは汲み取れるから不思議だ。近い業界にいるけれど、お会いしたことはない。
原作(といってもほとんどタイトルが一緒なだけ)が読者にとって未読だった場合のためか、各章の最後には原作の端的な説明が書かれている。元々存在した名作とどのくらい関係のない物語を今読んだのか、照らし合わせをすることで俄然興味を湧かせる。一方で、原作を読んだことがあっても、恐ろしいまでの大胆な変容をいとも軽やかに受け入れさせてしまう。小説家には、あらかじめプロットを作らず、書き進めながら登場人物を脳内で動かしていく人もいると聞いたことがある。カレンさんの頭の中でも、蟹や晶子が好き勝手に動き回っているのだろうか。
句読点の打ち方や単語の選び方に感じる文章のリズムも独特で、文字を追っていると妙な表現に突然出くわす。しかも気張らず、かっこつけず、自由に堂々と綴られていて、まるで紙の上で言葉たちが羽を伸ばしているようだ。だが読者としては、ほかの作家の文章を読み慣れている人ほど、カレンさんの持ち味であるこの文章のリズムに戸惑ったりつんのめったりすると思う。さまざまな作品に触れてきたであろう校閲の方々は、この味を残しながら出版物としてどこまで従来の日本語の使い方に直すべきか否か、頭を抱えたのではないか。
だが、新たな言葉や文体が生まれる瞬間はそういうところにあるのだと思う。カレンさんの著すビートとうねりのある文章を読んだ経験がなかったから躓(つまず)きそうになったのであって、かの村上春樹氏が文章のリズムを重視していると明言しているように、独特の言い回しかつちゃんと読める小説というのを両立しようとしたのが過去の文豪たちだと思わなくもない。結末を考察するよりも「読むこと」そのものを楽しませてくれる本に、「なぜこうなった」と問いを立てるのは無粋だ。軽い気持ちで開けば、斬新な言葉の組み合わせ方と突飛な想像力という合わせ技に張り倒されてしまうだろう。いや、こういうワンダーに出くわしたら無抵抗でさっさと張り倒されておくのがよろしいと私は思う。それにしても「香水はたじたじだ」って何なんだ。
ここまで随分と偉そうに書いてしまいましたが、滝沢カレンさんの紡ぐ文章のファンとして、これからも見えた景色、感じた気持ちをそのままの彩りでのびのびと書き、新たな日本語の地平を切り拓いてほしいと思っています。そしてぜひまた出してほしいです。どんな読書家も追いつけない奇書を。
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