『豊かさと知性』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第76回

『豊かさと知性』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第76回
『豊かさと知性』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第76回
LEARN 2026.01.21
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Karen Suzuki

大晦日、応援してくださる方々への年の瀬のご挨拶を直筆でしたためることを、個人的な恒例行事にしている。こういうときに当たり障りのない上澄みの言葉をつらつら書いてもしょうがないので、一辺倒にならないように過去数年分を読み返し、意図して変えている。

山崎怜奈

2020年は、遠くの誰かの笑顔を増やせるような活動への抱負を。2021年は、これまで以上に刺激の多い生活を経て得た意欲を。2022年は、自由と責任を背負った上で自他ともに楽しく生きていけるように努めていく気概を。2023年は、試行錯誤を繰り返す毎日の中で出会った新たなご縁への喜びを。2024年は、大切にしてくれる人たちの肩に寄りかかることで、穏やかにも強くもなれるという気付きを、感謝の旨とともに綴った。

さて、2025年は何を残そう。忙しない日々を振り返ると、自分が何に豊かさを感じるのか、何度も立ち止まって考えた一年だった。たとえば今までは、問題に即答できたり、瞬時に意外な言い回しで返したり、そういう情報の処理速度や知識量に基づく出力技能を重視される仕事が多かった。スカッとさせてくれるものを求めて気晴らしをするような消費のレールに、いつの間にか自分も乗っているのだろう。

だが「何に豊かさを感じるか」という軸で考えると、私はひとつの問題を粘り強く検討し続けたり、誰かと対話する際の柔軟さや視野の広さを持ち続けられるかといった入力技能こそ、これからを生きていく上で鍛錬が要るものであると感じている。

山崎怜奈

この二つは別物であり、どちらが正しいかという良し悪しで片付けるものでもない。ただ、知性を安易な快楽に使いすぎると、世界の複雑さに耐えられなくなる。なんというか、「真面目に考えている人」みたいなポーズをとって、己を棚に上げて同じ思想の仲間で団結し、敵とみなした相手を攻撃するための武器として知性を使うようなことはしたくないのである。

フランスの批評家·哲学者であるロラン·バルトは、『喪の日記』の中で「知性」をこのように解釈した。“ L’intelligence est tout ce qui permet de vivre au mieux avec un seul être. (知性とは、ひとりの人間とこのうえなく生きてゆくことを可能にするすべてなのである)”———

単なる学問的な能力ではなく、相手を理解し、慈しみ、最良の関係を築き上げるための実践的な知恵や、深く調和を持って生きていくための力、つまりは、他者と共に生きるために身につけるのが「知性」なのだと。

世間に自分がどう映っているかはさておき、人としてこのような問いを戒めのように抱えながら過ごしている。唯一の答えを突き止めたくなる欲求に抗い、受け入れがたい真実を無下にせず、曖昧さに耐える。それは生身の肉体そのものを商品としながら働いている私にとって、これまでの自分を削いでいく作業でもあり、自分自身を好きでい続けるために必要な破壊と再生の過程でもあるのだ。

山崎怜奈

前職を離れる際にバナナマンの設楽統さんがかけてくださった「忙しく前のめりになるのもいいけど、自分を大事にして」という言葉を思い出す。ひとりでふらっと海外へ行って「まー死んだら死んだで仕方ないわな」と受け入れている場合ではない。耕したい知性も、獲得したい豊かさもある。まだまだ何だってできる、どこへでも行けるはずの自分の未来を手離さないように、心を躍らせていきたい。

山崎怜奈


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