『羽田道中膝栗毛』| 「山崎怜奈の『言葉のおすそわけ』」第70回
遠足前の小学生的なメンタリティで、早く起きなければならない日に限って眠れない。明け方に少量の納豆ごはんを食べ、血糖値を上げて無理やり就寝。2時間後のアラームで強制的に体を起こし、身支度を素早く整え、機内に無料で持ち込める重量制限10kgのギリギリを攻めた40Lリュックを背負う。余裕を持ってフライト2時間前に羽田空港第3ターミナルに着くと、保安検査場はすでに長蛇の列ができていた。
焦って並ぶほど急いでいなかったので、つるとんたんに直行。数時間前に米を食べているし、（まだ出国してないのに）日本が恋しくて日本食をできる限り食べ納めたいだけなので、玉子とじうどん半玉を注文。半玉を選んでも相変わらず「フードファイターか？！」と突っ込んでしまうほど無駄に大きな器に盛られており、やっぱり何度見ても面白い。満席の店内にはスーツ姿の人も多く、早朝からご苦労様です……と拝む気持ちに。そして寝不足は無駄に食欲が湧いて良くない、ノリで完食してしまった。くう、出汁が沁みるぜ。
保安検査と顔認証を突破し、搭乗開始を待つ。だが窓の外には今から乗るであろう飛行機がいるのに全く飛ぶ気配がなく、機体前方を囲んでいた整備士らしき人たちも、しばらくするとどこかへ消えていた。待っても待っても一向に呼ばれず、搭乗予定時刻を1時間以上過ぎた頃、バードストライクで機体が使えなくなった旨のアナウンスが入る。別の機体に変えるのだろうか、さらに1時間が経過した頃「昼食をご用意しましたので……」というアナウンスが流れ、搭乗口に向かってでき始めた列に並ぶと、1,000円分の飲食券が渡された。
当然お釣りは出ないが満腹すぎて食べたいものもないので、暇潰しにコーヒーでも飲もうとカフェを目指す。同じような事情の客が急に押し寄せたせいですぐには受け取れず、ここでも15分ほど待機。やっとの思いで飲みながら搭乗口に戻ると、まさかの欠航のお知らせ。なんということ。1年半ぶりの1週間休みの始まりがコレはさすがに泣いちゃうよ……しかしこんな経験ないのでどうしたら良いんだ？？？
案内に従い、通常と異なるルートを通って史上最速の再入国を果たす。この時すでに、空港到着から6時間が経過していた。幸いにも荷物を預けていなかった私は真っ先にカウンターへ向かい振替可能な便を尋ねると、直行便は最速で翌日の深夜しかなく、トランジットで向かっても到着日時にほぼ差がないという。仕方がないので提案通りに変更。ここで国内で突然の1日半休暇が爆誕。そして、ミュンヘンで初日に泊まるホテルのチェックインに間に合わないことが確定。完全に詰んでいる＿＿＿＿いや、交渉次第では宿泊日程を延期してくれるのでは？ 事情説明とこちらの希望を急いで箇条書きにし、それらを盛り込んだホテルへの文章を英語で作成するようにChatGPTに指示、一瞬で生成された文章をBooking.comのアプリからホテルへ送信。あとは反応を待つしかない。
大人しく一旦帰宅すればいいものを、寝不足な上に気が動転しているので「わざわざ羽田まで来たのにこんなすぐ帰って明日も来るの意味が分からないな」と思ってしまい、空港直結のホテルで一番狭い部屋を予約。ちなみに、こういった場合の宿泊代は後日請求すれば保証されるらしい。ああ、やっと激重リュックを下ろせる……あー焦った……ミンティアでも食べるか……私、それにしても身軽すぎるな……ポケットがない……ジャケットどこやった！？？ そう、あたふたしているうちに、暑くて手持ちしていたジャケットを再入国へのイレギュラー道中で紛失していたのだった。はあーーーーー完全にやらかしたーーーーー。というわけで、ここから落とし物探しの旅へ出発する山崎であった。（つづく）
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