「都知事選」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第58回

「都知事選」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第58回
「都知事選」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第58回
LEARN 2024.07.19
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Yasuyo Tanaka(Nous)

都知事選」

 6月から7月に切り替わる頃、ウイルス性胃腸炎と夏風邪を併発して、数日間の休養をいただいた。ちょうど都知事選の選挙期間中で、スマホひとつあれば情報をたくさん手に入れられたので、街頭演説や討論会、新聞、各候補者の発信、気になる候補者の著書など、自分にも手が届く範囲の情報をたどっていた。選挙には元々行っていたけれど、ここまで関心を持つようになったのは報道番組に出演するようになってからだ。


 初めて経験した報道番組は、2022年の参院選の開票特番だった。それから2年、政治家でもないしジャーナリストでもない、どこかの団体の代表でもなければ特定分野の専門家でもないのに、いくつかの番組にお声がけいただいている。キャスティングの意図を教えてくださるスタッフさんもいて、あなただからお願いしたいという思いで仕事を振ってくださる方がいるというのは素直に嬉しい。仕事はどんな内容だろうと最大限を尽くしたいし、きっかけが何であれ勉強するのは楽しい。ただ、こちらがどんなに敬意を持って聞きたいことを聞いても、自分の主義や思想とは異なるだけで表現の自由の範囲を超えた誹謗中傷を送ってくる人もいる。どれだけ無視しようとしても量が多いとさすがに入ってくるし、雑な言葉ばかり見聞きすると心が荒む。ちなみに、開票特番でタレントを起用するのは全世界で日本だけ、という情報も見たけれど、分かりやすいラベルを求められたときに渋々「タレント」と回答しているだけで、聞かれない限り自らそう名乗ることはない。

 今回の選挙で顕著だったのは、政治においても「話題になること」が重要視される時代だということ。しかもこれだけ多くの情報に溢れる今の時代、誰でも簡単にバズるとなると「センシティブ」を利用するしかないらしい。自分の意にそぐわない行動をする相手に対して被害者仕草で攻撃するスタンスも、取ろうと思えばすぐ取れる。もちろん社会やシステムが悪い場合もあるけれど、何だって人のせいにしようと思えば無限にできる。「敵を叩く正義の味方」みたいな装いをした人が放つ語気の強い発言はインパクトがあるし、その“勢い”は期待を抱かれやすい。そういう訴求が大きく響く時代の戦略としては正しいのだろう。バズやディスが目立つあまり肝心な政策議論や確定事項への注視が希薄になるのが良い状況だとは全く思わないが、全ての場面において誠実さや丁寧さが勝つとは限らない。


 光が届かず、声もあげられない人たちにも光を当てていくのが、政治であってほしい。自分は自分のままでいいと思えるように、他人のことをとやかく言いたくなっちゃう暇がないくらい幸せならもっと良い。立場が異なる人の声を受け止めるとき、言葉の行間を読み、理解しようという姿勢をとるのは能力ではなく余裕だ。いかなる相手にも礼節ある態度を取る、その余裕がない人が首都・東京を治めることになっていたら、どんな4年間になっていただろう。

 切り替えるスピードは早い方なのだが、例の胃腸炎で体力が落ちたからか、心の疲れもしばらく抜けなかった。ひとりでいたくないなあと何となく思っていたら、前から決まっていた予定も急に決まった予定も含めて、好きな人たちにたくさん会えた。すごく嬉しかった。私には、体調を崩してどうにもならないときに「助けて」と言える相手もいるし、本当は疲れてるときの「大丈夫?」に「全然大丈夫!」ではなく「疲れたあああ」と返せる相手もいる。あと、弱音とは別で、自分を卑下するのだけは良い加減やめなくては。頑張った自分にも自分を認めてくれた人達にも失礼だ。気を抜くとすぐ弱気になっちゃうので、「全然大丈夫です」っていう顔をするようになってきたけれど、空元気ってすぐバレる。

 大切にしてくれる人の愛情をちゃんと受け取ったり、その愛情に感謝して楽しく過ごすことで、自分も自分らしくいられる。この期間、友人が届けてくれた桃の甘さも、待ち合わせ場所で両腕を広げて迎えてくれた先輩のハグの強さも、ずっとずっと覚えている。誰かに差し出した愛情は、相手が「これは愛情だ」と受け取って初めて愛情になるから。目に見えるものに揺さぶられすぎず、今を無駄にしないように、これからどう生きていきたいか誠実に考えながら、学び続けるしかない。

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