「母になって良かったこと」| 弘中綾香の「純度100%」～第127回～

自分一人で生きていける女性になる、というのが私の夢だった。そのために良い学校に行こうとも思ってたし、それなりに勉強もしたし、男性と渡り合える職に就きたいと思っていた。地に足の着いた、自立したかっこいい大人の女性。それが私の理想。就職して、都内で一人暮らしをして、自分のお給料で生活して。憧れていた生活をしている、私は一人の社会人として立派に働いている、そんな気分を少しばかり味わっていた。

子どもを持った今、どうだろう。私はちっとも一人で生きていけない。まず、娘を預かってくれる保育園がないと仕事に出かけられない。その仕事が夜遅くなる時もあって、そんな時はシッターさんに娘をお願いしないといけない。子どもに急な熱が出てお迎えに行かなきゃいけない時は、実家の母か父を呼ばないといけない。娘と寝る夜の当番を夫が代わってくれないと、休みの日にゆっくり寝ることもできない。周りの人の協力の上に私の生活は成り立っている。全然、自立なんかしていない。今、一人でなんてまったく生きていけない。

母から言われた言葉で思い出すものがある。「子どもを持つと、色んな人に感謝するようになる。最初は産院で助産師さんとお医者さんに、そのあとは保育園で先生たちに。学校に入ったらそこの先生に感謝して、病気の時は小児科の先生に感謝して。色んな人の世話になりながら、皆さんありがとうって、自分も子どもも成長していくの」。正直これを言われた時は「…はあ、まあ、そうなんだろうねえ」という気の抜けた返事しか出来なかった。けれど、今ようやくその意味が分かるようになってきた。

子どもは一人じゃ絶対に育てられない。まず、これを理解するまで私は少し時間がかかった。生来、私は仕事でも自分自身のことでも何でも人の手を借りることを躊躇するタイプである。人に頼んで借りを作るくらいだったら、少々面倒でも自分でやった方が早いし、気が楽と思ってしまう。ただ、子どものことはそうは行かなかった。体力的にも精神的にも一人で全てを抱え込もうとするのは、無謀な挑戦である。産んですぐはまだ「私が母親なんだから、これくらいやらないと」と一切を背負おうと思っていた。けれど、どんどんそのプレッシャーで潰れそうになる自分を見て、ああもうこれは自分だけでは無理で誰かほかの人に頼まないといけないんだな、と気づいた。子どもを保育園に入れて、定期的にシッターさんに来てもらい、なじみの小児科が出来て、ようやく私は安心して自分の仕事に向き合えるようになった。今までよりもより大切に、自分の時間を扱うようになった。自分の仕事の有難みを感じるようになった。やっと、母の言葉が理解できる。「皆さんありがとう、って自分も子どもも成長していく」

母になって良かったことは、自分が無力で弱い人間だと気づけたことと、そんな自分を支えてくれる周りの人に心から感謝出来るようになったことだ。それまでは自分一人で生きているような気がしてた。別に他人に迷惑をかけてないし、誰にも依存してないし、自分の好きなようにやっていく。「母は強し」というが、本当のところはめっぽう弱い。守らなきゃいけない子どもがいる。やらなきゃいけないことが沢山ある。でも、そんな自分を助けてくれる人がいる。私は一人じゃない。みんなに支えられている。そんな思いと経験が母を強くしていくんじゃないかと思うのだ。

【弘中のひとりごと】
「ゴールデンウィーク中にBaby Sharkを3000回は聞いたんじゃないかと思います」

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