伝えたかった、言葉たち。 「好きだったこの場所」 | 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第55回

「好きだったこの場所」

山下書店半蔵門店が閉店した。そう広くはない店内に書棚がびっしりと並んでいたが、巧みなレイアウトのおかげか窮屈さを感じたことはない。まるで世の中の空気を凝縮しているような週刊誌が路地に面したラックに並び、それを通り越して店内に入ると、絶妙なバランスで各ジャンルの単行本やら文庫やらが並んでいる新刊台が目に入る。かなり攻めた内容のノンフィクション本が積まれたワゴンにも心ひかれながら奥へ進むと、話題の半歩横を狙っているような特集棚があらわれる。さらにはオフィスワーカーが興味を示しそうなビジネス書や、古典芸能に関するものまで幅広いラインナップが所狭しと並び、「本」というメディアの知識貯蔵量とその整理具合を感じる。

そういえば、書店はその地域の文化度を測る指標のひとつと言っても過言ではなく、見識を育むオアシスだという言葉をどこかで聞いたことがある。文字だらけの専門書だけでなく、能や歌舞伎が題材になっている漫画まで網羅しているのは、書店からほど近い国立劇場や国立演芸場に初めて観にきた人へさらなる出会いを薦めるものである、と勝手に解釈している。
駅直結で人の出入りもそれなりに多かった印象があるが、ビル全体の建て替えとなれば店内直通のサンマルクカフェもろとも閉店したのはやむを得ない。とはいえ、いつ行っても絶対に読みたい本が見つかる本屋さんだったので、突然の別れはやっぱり寂しい。

楽しいことも面白いこともスマホのなかに無限にあるこの時代。紙の本をめくること、持ち歩くことは、場所も選ぶし時間もかかるし荷物も重くなるので、正直少し面倒だとすら感じることもある。しかし、あえてスマホをポケットにしまい、イヤホンを外して、万引き犯と間違えられてもおかしくないくらいに書店を隅々までウロウロする。
なにしろ書店は宝の山。新刊書籍の年間発売点数はおよそ7万点、毎日平均して200冊近く発売される中で、表紙やタイトルを見た瞬間に「これ絶対に面白い！」と確信する本が見つかったときは、思わず心の中でガッツポーズ。

最近出会って家に迎えた本は、『宇宙人と出会う前に読む本』と『寿命図鑑』。別に宇宙に行く予定もなければ命に対する慈しみを深める目的もないのだが、タイトルに惚れて買ってしまった。意図していない世界に出会うことができる、この宝探し感がたまらない。他にも、装丁と印刷が大変美しく、出版社側の気合いの表れでもある箔が使われていると、「読み物」というよりは「書棚に飾る装具」として買いたくなる。ちなみに、以前読んだ作品の続編が出たことに書店で初めて気づく、ということもよくある。

しかし、ここ数年の悩みは、仕事で本を読む必要がある時ほどタイミングを狙ったように読みたい別の本が目の前に現れることだったりもする。読まない理由のほとんどは疲れているだけなので、とりあえず近くに積み、体と心を休めることに専念している。それでも書店に行くのをやめないのは、宝探し感覚だけでなく、本の点数以上に数々の締め切りを守った猛者たちがいる、という事実を再認識するために行っているところもあるからだ。一冊の本が書店に並ぶまでにいくつもの工程と何人もの専門家が携わっており、そのおかげで私の頭や心は作られている。余談だが、こういうことを想像すると、読んでもいない本を批判する人の気がしれない。

とにかく、この月1回の連載や各番組の事前アンケートさえ締め切りにヒーヒー言っている雑魚人間の自分にとって、書店に立ち寄ることは自らに発破をかける行為に他ならない。だからと言って原稿の提出が毎回遅れている理由にはなりません。本当に申し訳ございませんでした！！！！

紺ブレ¥17,600　　ワンピース¥14,300/(共にレイ ビームス|レイ ビームス 新宿)■03-5368-2191) 　ビスチェ¥30,800(ラム・シェ|ブランドニュース■03-6421-0870)　　クリアリング¥29,700　サンダル¥41,800(共にフミエ タナカ|ドール■03-4361-8240) ネックレス¥7700　　イヤリング¥8,250　　シルバーリング¥9,900(以上ラピュイ|キャセリーニ■03-4375-0225)　　パール付きリング¥34,100(エネイ|エネイ松屋銀座■03-3566-2139)

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