伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第49回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Satomi Urata hair&make : Hitomi Akiyama「よからぬ噂は風にのって」
火のないところに煙は立たぬ、なんて言うけれど、燃え殻すらないところに火の矢が飛んでくることだってある。特にこのような時代、いらぬところから突然煙が湧き立って、何のことやら状況を把握しきれぬまま噂の種から枝葉がのびて、さも事実であるかのようなストーリーが完成してしまう場合も往々にしてある。たまったもんじゃない。「図星だから腹が立つのでは?」と含み笑いの顔で言う人がいるけれど、私は全然そう思わない。当たるか外れるかの二択ではなく、どんな人だって見ようと思えば悪く見える部分があることを利用して一部をクローズアップさせているのだから、指摘内容なんかよりも相手の悪意に反応しているのだと思う。
昨年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも描かれていたけれど、あの時代に生きていた人たちは、何か不吉な予感や噂があると、呪いをはらい祟(たた)りをしずめるといったことに結構な労力をかけていた。そのくらい「誰かから悪意を向けられること」のストレスは大きく、悲しいかな、人間は賛意や敬意や善意よりも、敵意や害意や悪意に敏感に反応するようにできている。それは戦乱の世で生存確率を上げるのに役立ってきたのだろうけど、後者を露出するハードルが実社会よりも低いインターネットの世界では、息苦しさや生きづらさを増す要因になっている。ストレスに昔も今も関係ないのだ。
SNSでは見ず知らずの人を簡単に蔑(さげす)んだり罵(ののし)ったり陥れたりする人がいるが、受け手にとって攻撃的な言葉ははっきりとした害悪であり、殴られたり蹴られたりするのと同じだ。でも、そういう人たちが放った棘付きの言葉は、たいてい不安やプライドや単なる自己顕示欲、あるいは暇潰しから漏れ出たものでしかない。他者を羨ましがり、自分の身の上を嘆き、不平不満を並べ立てる。ほんの些細なつまらない噂話でも飛びついて根掘り葉掘り聞きたがり、少し何か聞きかじっただけで、もともと知っていたかのように尾ヒレを付けて得意げに他人にしゃべりまわる。さらにこじらせている場合、こちらが口をつぐむと逆恨みしてきたりする。
ちなみに噂を流した人より、「あいつがこんなこと言ってますよ」と言いつけてくる人間の何食わぬ悪意の方がよっぽど重症です。心配しているフリをして歩み寄り、こちらが正直に話せば、よそで話を捻じ曲げ、憂さ晴らしのネタに使うのでしょう。「そのいらん情報なんやねん、求めてないわ!」って言ってしまいたい気持ちを、私は毎度グッと腹の奥に押し込んでいる。こういう人に限ってみんなに同じことをして自分が優位になる立ち位置を探っているのだ。人の何食わぬ悪意って本当に怖い。そしてこういう人たちこそが、有事における風評被害の震源地になりうるんじゃないかと、個人的には思っている。
ここまで怖い話を書いてきましたが、世の中を広く見渡せば悪意や害意って実はそれほど多くなくて、まだ見ぬ楽しいものやうれしいことにあふれているとも思うのです。「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである」という哲学者・アランの言葉が正しいとするならば、メンタルもフィジカルも周りの人や環境次第でどうにでもなったりする。生まれ持った境遇や降りかかる運命はそう簡単には選べないとしても、人間関係や生活環境はなるべく自分で選んだり整えたりした方がいいし、そこで掛けられた言葉のどれを覚えておいて、どれを書き留めるかを選ぶのは自分であるということは、忘れないでいようと思っています。
あと、自分が弱っているとうっかり「自分はこんなに嫌な存在なのか……」と思ってしまうかもしれないので、頭に来ることがあったらまず空腹か低体温か睡眠不足をチェックしましょう。その次に気圧とホルモンバランス。それらを満たしてなおイライラが止まらなかったら、それはもう怒ってもどうにもならないので、妖怪のせいにでもして諦めましょう。この社会では怒って事態が解決することは極端に少ないので、相手にしても時間と体力の無駄。温かい食事と睡眠で解決するならそっちの方が断然コスパがいいですよ。ということで私も「まったくもう、クサクサしちゃうわ!」という日がまた来たら、焼肉を食べて、おまけにアイスも付けて、叶姉妹とかが使ってそうな高級バスソルトを湯船にたくさん入れて、あったかくして寝てやる!(笑)
ジレ 12,100円(ココ ディール■03-4578-3421)/タンクトップ 26,400円(ナイスナイス モーメント|ショールームリンクス■03-3401-0842)/パンツ 参考価格(フミジーン)、バッグ 62,700(セリア トルビスコ|共にリディア■03-3797-3200)/サンダル 12,650円(ダイアナ|ダイアナ銀座本店■03-3573-4003)/スカーフ 39,600円(スウォッシュ ロンドン|UTS PR■03-6427-1030)/ピアス 96,800円、ブレスレット 55,000円、右手人差し指リング 88,000円、右手薬指リング 110,000円、左手リング 85,800円(全てエネイ|エネイ松屋銀座■03-3566-2139)