山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第45回山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第45回

伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第45回

LEARN 2023.06.23

乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。

photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu

「面倒くさがり屋が自炊する理由」

元気じゃない時は雑な食べ物を求めたくなる。もっと疲れていると、食べて満腹になればそれでOKという思考になり、買い食いが増える。たしかに出来合いのお惣菜を買って食べた方が「食事」という営みは早く済ませられるし、コンビニのお弁当もおいしい。ファミレスに入って頼めばすぐ料理が出てくる。安くて早くておいしいという三本柱が外食でかなう日本において、ひとり暮らしの自炊は完全自己満足の世界である。

それでも私が自炊するのは、手順さえ踏んでレシピに書いてある通りにやれば、答えにたどり着く感覚がすごく好きだからだ。何かを生み出す喜びは、日常生活ではなかなか感じることができないと思う。いきなり絵を描け、詞を書けと言われても難しい。でも料理だったら身近だし、挑戦しやすい。昨日の自分には作れなかったものができた、前回よりおいしく作れた、そういう成功体験の積み重ねがしやすいのが自炊だと思う。作るのは、30分以内にパパッと5品完成するような簡単レシピばかり。副菜作りに慣れると「ちょっとをたくさん」の幸せがかなう。しかも作り置きしておけるメニューなら、好きな分だけ食べて残しておけるので、明日の自分を救うことにもなる。ひとり分の自炊を始めた頃は野菜を使いきれず余らせてしまったけれど、今は余りそうになってもスープの具にしたり塩とゴマ油で適当に炒めたりして、買ってきた分はその回で使い切るのがモットーである。

ただ、そんなふうに料理をしている割には面倒くさがり屋で、やりたいこともやりたくないこともはっきりしているからこそ、便利グッズに目がない。切る、煮る、蒸す、和える、炒めるをいかにまとめておこない、効率をアップし調理時間を短縮できるか、ここにかけていると言ってもいい。

たとえば、下ごしらえの段階で色々な種類の野菜をひたすら切る作業は今でも苦手。目が痛くなるのを分かってて取り組む玉ねぎのみじん切り、一生均等にできる気がしないキャベツの千切り。中学の家庭科の授業で習ったけれど、正直考えただけで面倒くさい。そもそも店で料理を提供するプロではないので、切り方が美しく均一である必要はない。多少雑でも口に入れば同じ味、胃に収まれば尚更一緒。それだったら、興味のない工程は適度に力を抜いてしまった方がいい。玉ねぎは「ぶんぶんチョッパー」の容器に入れてハンドルを何回か素早く引っ張ればOK。キャベツも千切り専用のスライサーを使えばスパスパと量産できる。ちなみに洗い物にも興味がない(けどやらなきゃいけない)ので、使い終わった調理器具や食器は全て迷いなく食洗機に突っ込む。これは手抜きではない、立派な「手間抜き」である。

何のためにごはんを作って、何のために食べるのかを考えたら、それは全部自分のため。私を励ますために作って、私が元気になるために食べるのだ。便利グッズを投入したり、見たことのない調味料を〈KALDI〉で買ってみたり、窯元が有名な地域でお皿を買って帰ったりすると、我が家のキッチンがレベルアップした気がしてうれしくなる。「あのオーバル皿には何をのせようかな」なんて考えながら見ているだけで、すごく満たされた幸せな気持ちになる。鶏肉の臭みを消してやわらかくするために買った安い白ワインだって、何のついでか分からないけどグラスにも注いじゃう。手羽元とトマトがコトコト煮込まれていく音と匂いだけでお酒が進み、まだ食べていないのに胸もお腹もいっぱいになる。手間を抜き、自分の機嫌を取りながらおいしく作れちゃって、「もしかしたら私って天才?」と勘違いしながら料理するくらいがちょうどいいのだ。自分で作った料理を食べていると、体というより心が整っていく気がするから、私は今日もスーパーで食材を買って帰ります。

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