伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第43回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu「拝啓、母上様、父上様」
保育園に通っていた頃、誕生日の1カ月前くらいからソワソワしていた。5歳になると指を折って数える必要がなくなり、自分の年齢を全力で手をひらいて表せるようになったことが妙にうれしかった。それがこの数年間はあまりにも忙しすぎて、心に「誕生日を祝ってもらう」という隙間がなかった。ぎこちない喜び方しかできなくなったり、誰かに言われるまで忘れていたりするうちに、このまま年を取っていくにつれて誕生日に興味がなくなっていくと思っていた。
このエッセイ公開の2日後に私は26歳になる。母が父と結婚した年齢だ。それはそれはとてつもなく大人だと思っていたけれど、近づいてみると自分の精神が思ったよりも子供っぽくてびっくりしている。不安定な仕事に就きながらも一丁前に働いているし、いただいた報酬でそれなりに幸せな生活を営めている。まして結婚は安心を得るための手段ではないのでキラキラとした憧れもないし、今の自分が誰かと生活を共にして、一緒に子供を養うなんて想像ができない。自分にだって子供っぽいところがあるし、苦手なことも、ちょろいところも、まだまだたくさんある。そういう未熟な部分を大人になったら全部克服できるんだろうなぁ、と思っていたけれど、どうやらそれも無理らしい。私が母の胎内にいたときから考えると、母は親になって26年以上経つということになる。その母に、結婚しようが子供を産もうが、気持ちがどんなに揺らごうが、人間の本質的な部分は大して変わらないと言われると、ああそうなのかもしれないと思えてくる。
そういえば、昔聴いていたラジオのパーソナリティの「誰かと一緒に生きていくというのは、逆説的に、自分の人生の主語を自分にすることだと思う」という言葉が忘れられない。夫婦とか関係なく、人と人との関係全般に言えることとして、「あの人のために」と自分の考えや人生を誰かに預けた途端、その関係は不健康なものになるのだ、と。「あなたのことを大切に思っている気持ちを“私が”表すために」という行動理由なら、そのあと裏切られるようなことがあったとしても、「“自分の”気持ちを表現する“ために”料理を作ったん“だから”」と相手のせいにしなくなる。それは結婚しなくても幸せになれるこの時代に、お互いが人生をより良く生きるための選択のひとつとして結婚を選ぶかもしれなくなったとき、思い出したい言葉だった。
両親は仲が悪いわけではないのだが、2人きりで出かけた話を聞いたことがないし、お互いの誕生日や結婚記念日に何かしないと、みたいな空気がまるでない。夕食のタイミングが家族全員重なった日も、主な会話はお互いの仕事の話か、ほとんど唯一の共通の話題である私の話、あるいはテレビへのリアクション。家族のあり方も、夫婦のあり方も、人の数だけさまざまだが、私が出て行ってから普段2人でどんな会話をしているのだろうと不思議に思う。ただ、好きな仕事や趣味で、それぞれの人生を充実させようとする気概はものすごく感じる。全てのものが絶えずアップデートされ続け、全然落ち着かないこの世界で、自分の人生のハンドルをしっかりと握り、たしかに乗りこなしているのだ。
年齢や性別に関係なく幅広い人たちと関わるようになり、周りの夫婦の話を聞いていて、最近ぼんやり思い始めたことがある。勝手な想像だが、私の母と父は「お互い健康的に生き抜くために手を組んだ」という感覚があるのかもしれない。もちろん大切だし、「好きで結婚しました」みたいなところも、娘の私からは昔も今もまったく見えていないだけで、当てはまる部分は多少なりともあったのだろう。でも2人を一番近くで見て育った私からすると、誰かの顔色をうかがうことなく、自分の人生を主体的に選択して生きている彼らの生き方は、自分の価値を誰かに決めてもらうより、ずっとずっといいなと思う。「共闘する仲間を見つけて手を組んだ」という方向で考えると、何だかとてもしっくりくるし、羨ましくもなる。
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