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[ 第13回 ]銀座 写真家高野ユリカの「だれかの住む街と菓子」/『 銀座の素敵なクッキー缶がほしい 』

LEARN 2023.05.18

銀座で菓子や手土産を探すのは、正直言って私には難しい。なんでもあるからなんにも選べなくなるし、今日はこれ買おうと意を決してうっかり午後にお店に行ったりすると、すでに予約分だけで完売です、なんて言われてしまう。おいしいものや美しいものやキラキラしたものは溢れかえるほどなんだってあるのに、欲しいものは簡単に手に入らないのが、私にとっての銀座だ。今日は一体何が欲しかったんだっけ…?と、雑踏で自分を見失いつつ「あぁそうだ、銀座の素敵なクッキー缶ほしい」と、集めてみることにした。なるべく銀座然とした、できれば路面店で、味もデザインも愛されているような素敵なクッキー缶を私にください!

〈銀座ハプスブルク・ファイルヒェン〉のテーベッカライ

銀座ハプスブルク・ファイルヒェンのクッキー缶は、銀座7丁目にあるオーストリアレストランが作っている。まだアシスタントだった頃に編集者さんから手土産で一度いただいてからずっと忘れられなかった…。金色のロゴが美しく入った缶をあけて初めて食べた時、その独特な柔らかさと上品さが衝撃だった。クッキーってこんなにしっとりしているものだっけ…?エレベーターでビルの7階まで上るとドアが開いた途端に受付が。こんな風にレストランの入り口でひっそりと販売されているものだったのか…!赤いオーストリアカラーのリボンのついた気高さ感じるテーベッカライ。いま自分の手の中にあって、独り占めして家に連れて帰れるのが嬉しい。記憶のテーベッカライと違わず、やっぱりほろっと柔らかくて上品な味だった。

〈資生堂パーラー 銀座本店ショップ〉の花椿ビスケットとプティフール セック グラン

入る時はいつも胸がざわついてドキドキする、資生堂パーラー 銀座本店ショップは、デパートの化粧品売り場で、色とりどりのずらっと並んだリップを見ているのと近い気持ちになる。仲條正義さんデザインの花椿ビスケットと本店限定のプティフール セック グランの缶は、クラシカルなのに現代的。プレゼントみたいに解くリボンまで楽しい!プティフール セックの蓋を開けるとそれぞれのクッキーの形に沿わせて絶妙に割り振られた配置と設計。食感もそれぞれ違っていて、いろんな栄養バランスの取れた完璧なおかずが詰まっているような華やかなクッキーのお弁当のよう。サクッと軽くて全部おいしくて、ずっと愛されてきた自信が伝わってくる。愛され缶。

〈シヅカ洋菓子店〉のNo.1 SHIZUKA BISCUIT

「こんな風にシンプルで隙間なくピタッと詰まったクッキー缶を部屋に置いて、ゆっくり1枚ずつ大事に食べたい…」と一目惚れしたのは、シヅカ洋菓子店のNo.1 SHIZUKA BISCUIT。予約していた缶を受け取ると、ずっしりと手に重みが伝わる。店名のサインが入った白くて優しい雰囲気の缶を開けると、自然な焼き色のミニマルで潔く美しいクッキーがピタッと収まっている。食べてしまったら、パズルが欠けちゃうようで、完璧な均衡を崩してしまうのが勿体無いくらいに綺麗。自然な麦の味、控えめな甘さとほのかな塩み、身体が癒されているような気がしてくるな。

食べ終わってからも、別の大切な何かを詰められるのが缶のいいところだよね(私は昔、資生堂パーラーのビスキュイ缶でピンホールカメラを作り、フィルムを詰めて撮影していた。丸く周辺がぼけて、クッキーみたいな写真が撮れた)。その缶ひとつで、それぞれの物語が詰まってる夢みたいな食べ物だから、どうかいつまでも無くならないで。