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伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第41回

LEARN 2023.04.28

乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。

photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu

「思い立ったが吉日旅inポーランド」

今回まわった6カ国のうち、最後に訪れたのはポーランド・ワルシャワ。降り立つのはもちろん初めて。バルセロナから乗った飛行機を降りた瞬間、服装を誤ったことを悟った。緯度の差を日本で表すと鹿児島から北海道まで北上したようなものなので、寒いのは深夜だからというだけではない。友人とは機内の席が隣じゃなかった(その方が安く買えた)ので、無言で流れるままにバスへ乗りこむ。到着したターミナルの手荷物受取口でベルトコンベアが動き始めた頃には、日付が変わっていた。まわりの大人がじろじろ見てくる。グレーのハンチングを被った恰幅のいいおじさんが、パッと聞いただけじゃ何語かも判別できない言葉で話しかけてきた。警戒心MAXで、訝(いぶか)しげに見つめ返してみる。ダメだこいつ何を言っているのかさっぱり分かってない、そんな顔をされて、私は内心安堵した。荷物で膨らんだキャリーケースをピックアップして友人と再会した頃には、おじさんはもうどこかへ行ってしまっていた。

翌朝の空は薄暗く、肌にあたる風も冷たかった。あたりで一番大きい「スターリンの置き土産」こと文化科学宮殿も、分厚い雲に覆われて上のほうが霞んでいる。友人は別の予定があり、私は今からこの街をひとりで歩く。

ポーランドには「ピエロギ」という郷土料理がある。もちもちした生地に、ひき肉やチーズが包まれているらしい。食べてみたくてGoogle Mapで調べた店に行くと、「ひとりだから」という理由で入店を断られた。イタリアのラビオリ、モンゴルのバンジ、ポーランドのピエロギ。餃子みたいなものって結構どこの国にもあるなと思ってしまったバチが当たったのかもしれない。ガイドなし、事前情報なしでふらっと出向いているこちらが悪いのだけど、早口で訛(なま)りの強い英語で断られるとちょっと傷つく。ショパン博物館も臨時休館で閉まっていたし、知らない街では思い通りにいかない。でも旅の本来の目的としては、その“ままならない感じ”を求めている節もある。

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気を取り直して歩いていると、コペルニクスの銅像が現れた。事前に調べていないので、こういうのを見かけて初めて、歴史に名を残すポーランド出身の偉人に気づく。向かいにある立派な教会に人が出入りしているのを見かけて、中に入ってみる。教会の柱の中にはショパンの心臓が収められているらしい。あとで調べて知ったことだが、ショパンがパリで亡くなった後、ショパンの姉が彼の遺言に基づいて心臓だけを持ち帰ったのだという。運び方も独特で、アルコールに漬けて瓶に入れ、スカートの下に隠して、ひそかに国境を越えたらしい。

旅行をしていると、なんとなくこの街は相性が良い、もしくはあまり良くないと感じることはないだろうか。私にとって、当初ポーランドは後者だった。ここは分割と統合を幾度となく繰り返して歴史を紡いできた国。どこか不穏なイメージがあったからかもしれない。実際に歩いてみても、戦争の被害者を祀る礼拝堂や記念碑が街の至るところにある。旧市街やワルシャワ王宮がまったく色褪せていないのは、戦争によって徹底的に破壊され、戦後に全く同じ街並みが再建されたからだ。

これまで訪れた他の国よりも英語が通じづらいと感じることも多かったし、ワルシャワに来ることもしばらくはないだろう。でも、国が消えてしまうほどの歴史的な危機を何度も乗り越え、繁栄している姿を見て、私はポーランドという国のことがもっと知りたいと思った。その気持ちから、残っていたポーランドの通貨ズウォティは、いくらか使わずに残してある。

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