伝えたかった、言葉たち。 山崎怜奈の「言葉のおすそわけ」第38回
乃木坂46を卒業し、ラジオパーソナリティ、タレント、そして、ひとりの大人として新たな一歩を踏み出した山崎怜奈さんが、心にあたためていた小さな気づきや、覚えておきたいこと、ラジオでは伝えきれなかったエピソードなどを自由に綴ります。
photo : Chihiro Tagata styling : Chie Hosonuma hair&make : Ayumi Nakaitsu「思い立ったが吉日旅in〇〇」
今月出版されるフォトエッセイが無事に校了したところで、私は連休に入っております。休まなければならない理由は特にない「ただの長期休暇」は、中学3年生の春休み以来。授業がなくても仕事があって、仕事がなくても授業があるという生活を、私は長く続けてきた。好きで働いていたところもあるけれど、なかなかタフな環境だったと思う。大学を卒業した直後にはコロナ禍で緊急事態宣言が出て、その半年後からラジオの帯番組を担当するようになったので、長期休暇がない分、学問の機会や仕事に恵まれていたとも言える。ありがたいことである。
気を張って、がむしゃらにここまでやってきたからこそ、休みの重要性、大事さが分かるようになった。休みを取ると、心も体もむくみが取れる。まったく違うことを考えるほうが、次の仕事に余裕を持って臨める。ということで昨年の秋頃、私は2023年に10日間の連休を取ることにした。この10日間はどこで何をしてもいい。自分をいたわるために温泉宿に連泊してもいいし、美容皮膚科で施術を受けてそのダウンタイムに充ててもいいし、髪をゴールドやピンクに染めてもいい。とにかく好きに過ごしてみよう。そう決心した直後、父から昔聞いた話を思い出した。
私が幼い頃、父は一緒にお風呂に入るたびに、学生時代に経験した貧乏旅行について教えてくれた。EU設立以前のヨーロッパでは通貨がバラバラ。でもユーレイルパス(ヨーロッパの鉄道周遊券)があればほとんどの国を回れるので、友人とバックパッカーをしていたらしい。そもそも父が友人と出かけるなんて聞いたことがなかったけれど、浴室の壁に貼ってある世界地図を指差しながら思い出を話す父は楽しそうだった。旅の収集品も興味深く、まだ4本の塔しか建っていないサグラダファミリアの写真や、ジッパー付きのビニール袋にジャラジャラと入ったコインたちを見せてくれた。そのひとつひとつを眺めながら、私もいつか同じ場所を訪れたいと夢見ていた。
出発の数時間前までお仕事をしていたので、行き帰りの飛行機と、到着する空港で友人が待っていてくれること以外は未定のまま、旅は始まった。ここから先はどうなることやら。日本から持ってきたのは、バックパックと、機内持ち込み可能なサイズのキャリーケースだけ。冬のヨーロッパをなめているわけではないけれど、やはり旅に身軽さは必要不可欠。知らない土地を、なじみのない文化と読めない言葉に戸惑いながら、Googleマップと勘を頼りに巡ってきます。フォトエッセイは印刷会社の皆様の元を経て完成に向かっておりますので、どうぞお楽しみに。私も無事にいろんな国を経て日本に向かうことができたら、この連載も次回に続きます。
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