季節ごとに彩りを変える「旬果フルーツサンドウィッチ」は1,800円。住所:神奈川県横浜市中区北仲通5-57-2 KITANAKA BRICK&WHITE 1F TEL:045-662-9295

[ 第16回 ]横浜 写真家高野ユリカの「だれかの住む街と菓子」/『港町の三角』

FOOD 2023.08.19

近くにあるだけで生活が変わりそうなものってあるけれど、海って、そうじゃないですか?なんなら人格形成に影響だって出そう。10代の頃に海の近くに住んで以来、住んできたのは全部海の見える街で、おそらくこれから先の人生も、海の見える場所に住むような予感さえしてる。横浜駅で電車の扉が開いて、ホームに降りて海の湿気と匂いを含んだ風が吹くと、どこもかしこも海の気配がする。海の見える街で、船の帆のような波形のような三角の菓子を辿ってみよう。

水信フルーツパーラーのフルーツサンドウィッチ

フルーツサンドの三角の断面ってどうしてあんなに綺麗なんだろう。横浜には老舗果物店が作った水信フルーツパーラーのフルーツサンドウィッチがある!いつもは持ち帰り用の三角の箱に入れて誰かに差し入れするのが多いけれど、初めてイートインスペースへ。入り口のショーケースにずらっと大事そうに並べられた果物たちのスター感がすごい。選ばれた果物たちの風格…?ステンドグラスや木の格子が組み合わさった鮮やかで絢爛な空間に、銀色のカトラリーが丁寧に置かれて、可愛い断面が4つ並んで登場するフルーツサンド。入っている果物一粒一粒が甘くて瑞々しくって、サンドしている厚めのパンは少し塩味が効いてるから、フルーツとクリームを引き立てる。選ばれた果物のきゅっとした甘さや香りの幸福感を味わうために作られている感じ。白くて鮮やかで、見ても食べてもぱあっと華やかな気持ちになる三角。

コテイベーカリーのシベリア

港町の歴史と共に歩んできた100年以上続く三角は、大正5年創業のコテイベーカリーのシベリア。今も当時の製法のまま6時間かけて焼いているそう。名前の由来には諸説あり、コテイベーカリーでは「心あたたかオーバー説:シベリアは極寒の地、羊羹に暖かいカステラのオーバーを着せた」を採用してると丁寧にシベリア物語が紹介されていた。うぅ、可愛い。そうか、これは羊羹がオーバーを着ている姿だったのか。ここがシベリアの聖地かな?というくらい、至るところにシベリアへの愛が感じられる店内。季節外れのクリスマスツリーが飾ってあったけれど、オーナメントが全部シベリアだった…!糖分をたっぷり摂ってと言わんばかりの厚さの羊羹は、水羊羹のような瑞々しさで見た目ほど甘くなくて、ほうじ茶に合うから、やっぱりシベリアって和菓子の分類なんだ。

サモアール ジョイナス本店のビッグレインボーケーキ

老舗サモアール ジョイナス本店の、数量限定ビッグレインボーケーキは、びっくりするほど発色鮮やかな大三角。高く上げられた真っ白なお皿に載っかる大きな7色の虹の斜面。白いクリームは雲のイメージ?茶葉の香りが豊かでおいしい名物のアイスロイヤルミルクティーと一緒に食べると、予想外の柑橘系バタークリームの爽やかなフレーバー!こんな味がするなんて想像して口の中に入れてなかった…(そして7色の部分は予想外に全部同じ味だった…)裏切られるのは楽しい。裏切りはサービス。どんどん裏切って。
長く愛されるそれぞれの三角たち。港町の三角たちの行く末を、これからも街と共に陰ながら見守っていきたい気持ちです。