火男火賣神社で舞を奉納し、稀人たちが町へ向かう。photo by  Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会
2022.01.13

温泉を楽しみながら芸術鑑賞 ファッションとアートで町を盛り上げる芸術祭「廣川玉枝 in BEPPU」へ。

大分県別府市で毎年一組のアーティストを迎えて行われる個展形式の芸術祭「in BEPPU」が2月13日まで開催中!別府市の鉄輪温泉周辺では、東京オリンピック2020の”表彰台ジャケット”をアシックスと共同開発したことでも知られる服飾デザイナー、廣川玉枝さんが”祭”をテーマに街を彩っている。今回は「廣川玉枝 in BEPPU」の初日に行われた『地嶽祭 神事奉納』の模様をリポート。また、好評を博した梅田哲也の作品『O滞』の再公開も。作品説明と合わせて、温泉情報もたっぷり差し込みます。アートも温泉もアツい、大分県別府市へいざ!

前向きなエネルギーに満ちた”祭”。

日本有数の温泉の街、大分県別府市で行われる個展形式の芸術祭「in BEPPU」は地域性を活かしたアートプロジェクト。これまでにアニッシュ・カプーア、西野達、目など話題のアーティストを迎えてきた。6回目となる今回のメインアーティストは、服飾デザイナーの廣川玉枝さん。

服飾デザイナーを起用したのは今回が初だそうで、その理由を「in BEPPU」総合プロデューサーの山出淳也さんはこう話す。
「マスクで顔を覆うことが日常となり、だんだん人の個性が失われつつある。廣川さんはデジタル技術と無縫製ニットの手法によって“第二の皮膚”を目指した『Skin Series』を生み出し、肌を覆う新たな衣服のあり方を模索し続けてきた方。閉塞感の漂う現代に、廣川さんとなら新しい何かができるのではと思いました」

そうやって始まった「廣川玉枝 in BEPPU」。話し合いを重ねるうち、廣川さんから出た言葉が”祭”だったそう。

振り返ってみれば、人類の歴史において、疫病や自然災害といった苦しい状況にある時こそ、土地の神様に祈りを捧げ、厄を祓う“祭”が行われてきた。世界中がコロナ禍に見舞われている今、人々に必要とされているのは“祭”である、と考えた廣川さん。

別府の地嶽に感銘を受けたことから、噴気が沸き立ち、大地のエネルギーを直接肌で感じられる鉄輪(かんなわ)温泉街をメイン会場として、ユニークな祭りを開催することに。

メイン会場となる「鉄輪むし湯」
メイン会場となる「鉄輪むし湯」

今回の祭りでは、山から海へ、海から山へと循環する温泉のように、山、町、海それぞれにまつわる3つの神事を実施。

芸術祭の始まりを告げる「山の神事」では、伽藍岳で、疫鬼を祓う「追儺(ついな)式神事奉納」を行い、国際的に活躍するダンサー・振付家の湯浅永麻さんが登場。

そして、山の神事を終えた後は、地獄からやってきた来訪神「まれびと」たちが街を練り歩く、「町の神事」へ。

火男火賣神社で舞を奉納し、稀人たちが町へ向かう。photo by  Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会
火男火賣神社で舞を奉納し、稀人たちが町へ向かう。photo by Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会

かつて共同洗濯場として利用されてきた「洗濯場跡」では、毎日10時〜19時の間(毎週火曜を除く)、映像作品を公開中。ちなみにこの「洗濯場跡」のすぐ近くにある「熱の湯(ねつのゆ)」は湯冷めしにくい上質な塩化物泉の温泉で、なんと入湯料が無料!(ただし、お賽銭が必要)。冷え切った体をぜひここで温めてほしい!

熱の湯近くの「洗濯場跡」。
熱の湯近くの「洗濯場跡」。
地元の人も通う温泉=ジモ泉(じもせん)として親しまれる「熱の湯」。
地元の人も通う温泉=ジモ泉(じもせん)として親しまれる「熱の湯」。

見た人に原始的な心の扉を開かせる、まれびと。

なんといっても注目したいのは、廣川さんがデザインした「まれびと」たち!火の神様「アマキ」、風の神様「ウルカ」、水の神様「トモエ」、土の神様「クロモ」、竈門の神様「火男」といった個性豊かな稀人たちは、廣川さんが、別府の自然のエネルギーをイメージして創作。色鮮やかな着物や袴、『Skin Series』を身に纏ったり、ワラのような素材でできた巨大な装束で体を覆っていたりと、とにかく奇怪な美しさに、ただただ圧倒される。

こんな奇抜でイケてる祭りがあるのか!と度肝を抜かれた私。伝統的な民族衣装や儀式用コスチュームを纏った姿を撮影する、世界的にも有名な写真家シャルル・フレジェがこの場にいたら嬉々として写真を撮りまくったのでは!?と想像してしまうほど。

太鼓の音や勇ましい掛け声が聞こえてきたら、「まれびと」たちが近づいてきた証拠!沿道にはその姿を一目見ようと多くの人で賑わっている。”異界の門”を開いて現れたとされる「まれびと」たちは突然踊り出したり、観衆に急接近したり。思うままに行動して、見る人たちを圧倒的なパワーで引き寄せる。

シャルル・フレジェ案件だと心底思った「地嶽祭 神事奉納」。photo by  Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会
シャルル・フレジェ案件だと心底思った「地嶽祭 神事奉納」。photo by Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会

そして、最終目的地である、鉄輪むし湯前広場へ。広場は『Skin Series』でできた魔除け提灯や暖簾が用いられ、まるで異空間に迷い込んだ気分に。

そこに現れた「まれびと」は、観衆とともに輪になって「渦踊り」をした後、大地を踏み鳴らす勇壮な舞を披露。疫鬼と場の穢れを祓い、新たな春を迎えるための儀式を行った。「渦踊り」は世界的に活躍するダンサー、振付師の湯浅永浅さんが創作したもので、子供から大人まで夢中になって「まれびと」たちの踊りを真似ていて、みんな楽しそう。「ああ、祭りってこうだよな」と忘れかけていた人々の賑わいや活気をひしひしと感じた。

「まれびと」たちが舞う!photo by  Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会
「まれびと」たちが舞う!photo by Takeshi Hirabayashi ©️混浴温泉世界実行委員会
我が家にも欲しい『Skin Series』を纏った魔除け提灯
我が家にも欲しい『Skin Series』を纏った魔除け提灯

迫力満点のインスタレーション!

ちなみに「鉄輪むし湯」は8畳ほどの石室の中に石菖(せきしょう)という薬草が敷き詰められた蒸し湯が楽しめる施設。浴衣を着て寝そべってじっくり汗をかく岩盤浴のような入浴スタイルで、内湯もあるので、蒸し湯でかいた汗はその場で流すことが可能。和のハーブのような石菖の香りが室内に満ちているので、リラックス効果も期待できそう。

そして、「鉄輪むし湯」館内では「禊祓(みそぎはらえ)」のインスタレーションを展開しているので、体をぽかぽかに温めた後はぜひ鑑賞を。

また、火男火賣神社と大谷公園の2会場では、廣川さんがデザインした「まれびと」の衣裳を展示していて、これがまた迫力満点!大谷公園は「鉄輪むし湯」の徒歩圏内。しかも公園のすぐ近くには無料の足岩盤浴が。こちらは熱された石にタオル等を敷いて、その上に足を置くとポカポカ温まる。体を濡らさず、着替える時間も不要なので、気軽にぜひ!

大谷公園に展示されている稀人たちの衣装
大谷公園に展示されている稀人たちの衣装
「大谷公園」の足岩盤浴。
「大谷公園」の足岩盤浴。

そして、芸術祭最終日の2月13日には上人ヶ浜で執り行われた「海」の神事が映像作品として公開される。海の神事では、忌火(いみび)を海へ送る「火祭(ほのおまつり)神事奉納」を行い、疫鬼や災厄の侵入を防ぎ、春到来を祝福するという意味を込めているそう。その映像作品は「洗濯場跡」とオンラインで視聴が可能。地獄と温泉の恵みに感謝を捧げ、豊かな未来を願う祭の模様をオンラインでチェックしたい!

梅田哲也「O滞」も復活公開!

そして「廣川玉枝 in BEPPU」と同時開催されているのが、2020年度に行われた『梅田哲也 イン 別府』で制作された作品『O滞(ぜろたい)』の劇場再公開。

『O滞」とは地図とラジオから流れる音声を手掛かりに数カ所を回遊する体験型の作品で、それと共に公開されたのが映像作品の『O滞』。この映像を鑑賞できるのは、1949年に創業した『別府ブルーバード劇場』で、この場所も映画の中に登場する重要な場所。しかも、作品の最後には自身も作品の一部になったような不思議な感覚を味わえるという試みも。

そして、この近くには1924年に地元の人たちの寄付で建てられたという洋館風のレトロ建築の「駅前高等温泉」がある。ぬる湯、あつ湯と2つお風呂でそれぞれ別の温度設定がされているそうで、「せっかくなら熱湯風呂に入りたい!」という方はあつ湯がおすすめ。

別府駅からも徒歩圏内の別府ブルーバード劇場。
別府駅からも徒歩圏内の別府ブルーバード劇場。
宿泊スペースもある「駅前高等温泉」
宿泊スペースもある「駅前高等温泉」

ちなみに体験型の『O滞』とは、普段は人が立ち入らないような場所、認識していないような場所を舞台に、訪れる者たちが捉える世界がここではないどこかへと接続されていくインスタレーション型のアート作品で、映像を見る前でも、見た後でもどちらでも楽しめる。

『O滞』にも登場する、1925年にオープンした大遊園地『鶴見園』の跡地にある廃墟と化したプール。
『O滞』にも登場する、1925年にオープンした大遊園地『鶴見園』の跡地にある廃墟と化したプール。

受付で地図とラジオを入手したら、地図に打たれたポイントを巡る。「丸井戸」「中浜筋」「別府スパビーチ」「いちのいで会館」「鶴見園」「塚原温泉 火口乃泉」「別府ロープウェイ」「明礬池」など、あらゆる場所の日常の風景が突然アートの作品の一部となって見えて(聴こえて)くる。

作品が鑑賞できる「塚原温泉 火口乃泉」や「明礬池」は温泉もあるので、鑑賞した後に立ち寄ってしっかり体を温めたい!

別府市街地から車で30分ほどの「塚原温泉 火口乃泉」
別府市街地から車で30分ほどの「塚原温泉 火口乃泉」
映画にも登場する別府スパビーチ。かつて、この地域の砂浜には温泉が湧いていたが、現在は埋め立てられて人口の砂浜になっている。
映画にも登場する別府スパビーチ。かつて、この地域の砂浜には温泉が湧いていたが、現在は埋め立てられて人口の砂浜になっている。

『廣川玉枝 in BEPPU』
■鉄輪むし湯、火男火賣神社、大谷公園、地獄蒸し工房 鉄輪、洗濯場跡およびオンライン
■~2月13日(日)
■毎週火曜休
■料金無料
■公式サイト https://inbeppu.com

梅田哲也『O滞』 2021-2022
■大分県別府市内各所、 別府ブルーバード会館3F フレックスホール(大分県別府市北浜1-2-12)
■~2月13日(日)
■毎週火曜休
■鑑賞無料・事前予約制
■公式サイト https://inbeppu.com.2020/

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道玄坂 まりこ / フリーライター

「雑誌Hanakoでイベント情報ページを担当。おもしろそうなことには積極的に首、足、手、その他なんでも突っ込んでいきたいアラサーライター。」

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