無題3 (1)
2022.07.13

自分に優しく、人に優しく。SDGsのニュールール。 多様性の都市・ベルリンから考える「個」と「街」のいい関係。

自分のことを大切にしている人や場面によく出会う街。さまざまな立場の人が生きやすい街。ドイツ・ベルリンへ2018年に移住し、日本とはしくみの違う社会の中で暮らす漫画家の香山哲さん。そのエッセイ漫画『ベルリンうわの空』をひもときながら、香山さんに聞いてみた。人にも街にも優しい社会はどうしたら生まれるのだろう。答えは日本に住むわたしたちにも響くはず!

「何もしないで居られる場所があるんです」

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僕がベルリンを好きな理由のひとつは、100円ほどの運賃や徒歩で行ける範囲に、何もしないで居られる場所が多いこと。広くて自然がたっぷりでお金を使わずに何時間でも過ごせる公園や、ただ居るだけが許される広場がある。街がギュウギュウにならず、心に余裕も生まれます。そこに集まるのは、子供や動物、車椅子の人、さまざまな文化圏から来た人。移民の多い街だけど、いろんな存在が交ざり合っているから「大多数の普通とその他」という空気が弱まるし、立場や事情によって感じ方が違うことを想像する力も働くのかも。カオスだけど世界が少し身近になる。その感覚が心地いいですね。

「イヤと言える自由が嬉しい」

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よく行くのはカフェ。「昔、日本に行ったよ」と話しかけられることもあるし、支払いの時、気分によって適当にチップを足す日もある。お互いに心の余裕を連鎖させているイメージです。「ここ、いいすか?」と聞かれるのも普通で、それは断れる自由があるからなんでしょう。イヤな時はイヤと言えるし、辛そうな人もイライラしてるお母さんも居ていいよという空気がある。尊重し合えるし我慢しなくていいのが嬉しい。

「いいね! の付かない時間が充実した日常をつくる」

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この街には、何でもない話や明確なゴールのない活動など、余白みたいなことも行いやすい空気がある。時間や心の余裕がないと、この人物が言うように、日々が労働と休息の2つで精いっぱいになってしまいがちなのかな。でも本当は、そのどちらでもない余白をもつことで、日常に豊かな複雑さが生まれ、労働や休息も充実するんですよね。この余白は「いいね!」が付く営みとは違うけれど、きっと人生を快適にします。

「絶対に誰かが助けてくれる、という社会への信頼があります」

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どこの国にも差別をする人や排外的な攻撃性をもつ人はいる。それでもベルリンでは、「みんなへの呼びかけ」がしやすくて、誰かが必ず助けてくれるという安心感があるんです。例えば、パンクっぽい人やメタルのTシャツを着てる人は、よく味方をしてくれる。パンクもメタルも背景にそれぞれの正義があり、彼らにとってはその音楽自体が生き方だから。あるいは、「こういう許せないことがあった」と貼り紙をすると、誰かが「君ひとりじゃないよ」と書き込んでくれたりもします。だからアクションを起こせるし、社会に対する絶対の信頼がもてるのかも。

「消費にならない時間をもてる。対価を求めない行動がとれる」

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街のスーパーによくあるのはリサイクルマシーン。実際はボタンが2つのタイプが多く、金券発行か寄付かを選べるんです。「誰かのためにちょっと」を日常的に選択できるってすごくいい。そもそもゴミがお金になるわけで、じゃあ寄付しようかなって思いませんか?日本でお金を払う時は何かの対価になることがほとんどですが、ベルリンではそうではない使い方、消費ではないお金の使い方が自然にできる気がします。

「合理性と優しさは両立できます」

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見ず知らずの他人同士の関わりが、「1か0」ではなく「0.1」だけ発生している場面によく出会う。道に不要なものを置いておくのもそう。「嫌じゃなかったらどうぞ。2 、3日経ったら捨てます」ぐらいの感じですが、このプロセスがあることでゴミは確実に減る。とても合理的な習慣です。と同時に、移民の人や孤立しがちな人も、「0.1」を集めれば病まずにすんだり快適に過ごせたりする。そういう優しさでもありますね。

「自分を大切にすることで、他人も大切にできるんだと思う」

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ベルリンには、自分を「幸せに生きていくべき大切な存在」だと考える人が多いと感じる。また、そう考える人が、周りを気にしすぎずに自分らしい過ごし方を貫ける街でもある。自分へのケアが充分にできて、「こういう自分でありたい」と思える姿で堂々と暮らすことができれば、困っている人の生活の充実も自然と願えるようになるし、公共を無視しない自分でいようという気持ちになれるんじゃないか。反対に、栄養や睡眠が不足していたり、理不尽な環境で不服を感じていたりすると、他人や社会に対しても「僕だって辛いんだからあなたも我慢してよ」というふうになるかもしれません。だから、何よりもまず自分を大切に!

「時間をかけて自分の内面に耳をすましてみる」

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欧州の学校では、○×で答える問いより自由回答の問いが多いかも。考える訓練が重視されていて、それは自分の生き方を設計することや、生きやすさにもつながっている気がします。僕が時々するのは自分へのインタビュー。自分を客観的に見て質問を考え、時間をかけて答えるんです。「この一週間で楽しかったこと3つは?」とか。自分の気持ちが見つかると、「65点だけどまあOK」みたいに思えて、夜もぐっすり。

「わたしを雑に扱う人を遠ざけよう」

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「花を買ったから誰かに分けてあげよう」というようなことに、移住後よく遭遇します。「精神状態を潤しておこう」とか「誰かから大切に思われていると感じることが、健康と同じくらい大事」という考えが、深く根付いているのかもしれない。だから例えば、小学校で「あの先生はわたしにだけひどいことを言う」と感じたら、周りに相談する。自尊心がそがれてしまう状況は避けるべきだと、子供ですら解っています。

「弱肉強食のルールを好まない人の生き方も守られている」

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公共の場には、「その社会がどういう感じを目指しているか」が表れやすい。地下鉄に乗ることで普段出会えないものに出会え、刺激を受けて少し違った人間に変化するのは、社会にとってもいいことだろうと思います。また、寒い日など地下鉄の駅で寝てもいいという緊急措置が取られる場合があるのですが、日本と違うのは、市がおおやけに「どうしても泊まるところがない人はここへ」とお知らせすること。社会不安を防ぎ、犯罪を超初期段階で止めておく手段でもあるけれど、弱肉強食のルールを好まない人の生き方が守られているともいえる。この街には、失敗しても守ってもらえる、立ち直れるという社会的合意があるんです。

「おてんとさまが見ている、という感覚を忘れずに」

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おてんとさまとは自分のこと。自分が見てるよ、その行動は自分に恥ずかしくない?というマインドをもつ人が多い。泥酔した人を見たのに何もしなかった自分より、この人に寄り添える自分でいられたことが大切。それは人徳があるとか器が大きいとかではなく、「筋を通せた」という感覚でしょう。自分の思う「まっとう」を貫きたいし、そのほうがいい人生になる。この街では多くの人がそれを実行しているんです。

-「わたし」と「あなた」。たくさんの関係が集積して、その街の個性になる。-

『ベルリンうわの空』

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移住先での体験や取材をベースにした創作漫画。2018~2021年のウェブ連載に描きおろしを加え、単行本として再構成。全3巻、各1,100円(ebookjapan/イースト・プレス)

Profile…香山 哲(かやま・てつ)

1982年兵庫県生まれ。ドイツ在住。新連載に向けた創作アイデアや過程を公開するエッセイ漫画『香山哲のプロジェクト発酵記』をebookjapanアプリで無料連載中。

(Hanako1210号掲載/text & edit : Masae Wako)

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