気持ちいい生活の、選びかた。 日本の農家を旅した青果店〈青果ミコト屋〉が、 アイスクリームを作った理由。 LEARN 2021.06.12

横浜市青葉区に、日本各地から野菜が集まる“港”がある。今年2月にオープンした〈青果ミコト屋〉の新しい拠点だ。野菜を無駄にしたくない彼らがたどり着いたものとは?

日本の農家さんと僕たちの思いを届けてくれるもの。

生産者と消費者の架け橋となるようお店に並ぶさまざまな野菜たちは見て、聞いて、知って、触れることでよりおいしく味わえる。
生産者と消費者の架け橋となるようお店に並ぶさまざまな野菜たちは見て、聞いて、知って、触れることでよりおいしく味わえる。

「十人十色というように、野菜にも個性がある。美しい野菜ももちろん魅力的だけど、見た目や形だけにとらわれず、多様な野菜がお店に並ぶのも僕はいいと思うんですよね」そう語ったのは、〈青果ミコト屋〉のオーナー・鈴木鉄平さん。“旅する八百屋”として、高校の同級生でもあり旅仲間だったバイヤーの山代徹さんとともに、キャンピングカーひとつで全国の農家に直接足を運びながら、これまで移動販売の青果店として活動をしてきた。

日本のフードロス問題の一因でもある、規格外野菜。流通・出荷・取引の簡素化を図るため日本の野菜は規格が厳しく“見た目の良いものが売れる”傾向が強く根底にあるのが現状だ。実際に数々の農家で市場に出回らず廃棄される野菜を目の当たりにした鈴木さんと山代さんは、直接契約することで捨てられるはずだった野菜を救い、愛情をかけて育てた農家の想いとその背景を全国各地に届けてきた。農家と消費者との架け橋となったのだ。

店の入り口をくぐると、たくさんのアイスクリームがズラリとお目見え。〈ミコト屋〉の新たな挑戦は、野菜をもっと知る・楽しむためのアイテム。
店の入り口をくぐると、たくさんのアイスクリームがズラリとお目見え。〈ミコト屋〉の新たな挑戦は、野菜をもっと知る・楽しむためのアイテム。

そんな彼らが今年の2月、二人の地元である横浜市青葉台に実店舗〈Micotoya House〉をオープンした。全国を飛び回っていた彼らが、一つの地に足元を固めたのはなぜだろう。「僕たちのような小さな商いで自由に表現できる時代になってきたなかで、日本各地を歩いていて、その仲間たちがローカルの人とつながっている姿を多く目にしました。僕たちもこんな風に、自分の故郷で気軽に立ち寄れる港のような場所を作りたい。そう思ったんです」

看板商品の、食材ロスを活かして作った自家製アイスクリーム。素材本来の色と個性的な味に子どもだけでなく大人も夢中に。
看板商品の、食材ロスを活かして作った自家製アイスクリーム。素材本来の色と個性的な味に子どもだけでなく大人も夢中に。

食べるものを無駄にしたくないという彼らの思いは、さらに一歩先の挑戦へ。売れ残りの野菜を活かし、自家製アイスクリームを作ったのだ。「ロスになるものをロスにならないものへ変えるにはどうしたらいいか…初めは漬物も考えましたが、もっと違う切り口でカジュアルに伝えたい。そこで辿り着いたのがアイスクリームだったんです」レシピ考案を重ね、これまで試作品は95種類以上。野菜に限らず再利用できる食材も周囲から集まるように。

「アイスをきっかけに来てくれる方も多いし、アイスを食べてその元になっている野菜を買って帰る方も。アイスが日本の農家さんを知るきっかけになってくれている。僕らと農家さんのメッセージを伝えてくれる、キング・オブ・ポップな存在です」

廃棄食材から生まれた魔法のアイスクリーム。

アイスの材料としては珍しい、玉ねぎや春菊といったラインナップに興味津々。ハーフサイズの小さいスクープアイスと、コイン形のコーンが付いた「リトルスリー」700円。写真は、いちごみるく・チョコチップ、月桂樹とオリーブオイル、クレソンの3種類。

私たちからはあまり見えないあのロス部分も再活用。

DSC08266

こちらは宮城県〈ファットリア アル フィオーレ〉のワイナリーから出た赤ワインの搾りかすを利用。ロスを作らない〈ミコト屋〉のアイス作りに周りも注目し、いまではコーヒーのエスプレッソのロス部分や、紅茶の出がらしなども「使えない?」と集まってくる。

野菜の背景をもっと知るために大切にしていること。

DSC08757

材料のほとんどは、売れ残った野菜や規格外野菜。ビーツ、河内晩柑(かわちばんかん)など普段あまり日の目を見ないような珍しい野菜や果物も、アイスクリームでは主役級に大変身する。青果店だからこそのセンスと技が活かされている。

アイスクリームの要!さくさくコーンも自家製です。

ワッフルコーンメーカーで1時間に30枚、丁寧に焼き上げるのはグルテンフリーのヴィーガンコーン。交流のあるお米の生産者から届いた米粉に、精米の際に出る米ヌカ、きな粉を合わせた生地は香ばしく軽やかな食感。

北は北海道から、南は沖縄まで。個性的な野菜たち。

全国約150の契約農家のなかから旬の自然栽培の野菜を厳選し、並べていく。柔らかい日の光が注いだこの日は「北海道から届いた葉つきの人参がおすすめですよ」と山代さん。隣の棚には「ミコト屋ビバレッジ」と称し、規格外野菜や廃棄野菜を使ったドレッシングやジュースなどの加工品も販売。全国を旅するなかで見つけた逸品の食材も並ぶ。

私たちにできることを、さりげなく伝える。

プラスチックフリーの実現と野菜のロスを少なくするため、量り売りの販売を実施。野菜や果物の購入後は買い物袋を提供せず、購入した人の手で野菜を直接包み、持って帰るシステムに。入り口にはそれをお知らせするイラスト看板と作業台がある。

実際に育てて食べることも大切。農家さんの苦労も日々勉強中。

〈青果ミコト屋〉では、野菜の特徴を学ぶだけでなく、実際に育てることで農家さんの大変さを改めて知るために自分たちの畑を持っている。収穫された野菜やお店で売れ残った野菜は鈴木さん、山代さんはじめスタッフのまかない料理に。この日は長崎と熊本産のかぶとさやえんどうをソテー。スーパーではあまり見かけない「あまどころ」など山菜も調理。

国内の畑を見て、食べてわかったこと。

日本各地の農家さんとつながりを持つ、〈 青果ミコト屋 〉。仕入れるだけでなく、畑に出向き、手伝うことも。茅ヶ崎の〈 八一農園 〉さんもよく訪れる農園のひとつ。「 畑をぜひ見てほしい 」というお二人と一緒に出かけてみました。

〈青果ミコト屋〉が紡いだ想いは、少しずつ農家の人たちの支えとつながりの根を張り、広がりつつある。〈八一農園〉もその一つだ。動力機械を使わない不耕起栽培で、自然のまま育てる農業を始めて4年目になる。「私たちの農園はただ野菜を育てるだけではなく、この茅ヶ崎で土壌再生をして豊かな農園を増やしていきたいと思っています。種を蒔けば育つ土壌を、次の世代に渡していきたい…いまもそのプロセスの途中です」と語ったのは、生産者の衣きぬがわあきら川晃さん。

「自分の野菜を買ってくれることが、どれだけ環境へのサポートにつながっているか。その感謝を、野菜を通じて届けたいという晃さんに共感しているんです」と鈴木さんも言う。「自分たちの畑を実際に見て、食べることについて考えてもらえたら。農業は、次の世代につないでいくことが大事。そのために根を張ってきちんと向きあわないと。僕自身もいま、この活動を楽しんでやっているし、同じように楽しいと思ってくれる人をもっと増やしていきたいです」

〈八一農園(はちいちのうえん)〉
畑が本来持つ草花の根や土壌の微生物などの自然の働きを活かしながら、土を耕さず手作業で行う不耕起栽培を実践。一年を通して少量多品目で育てた野菜は、農園のある茅ヶ崎エリアを中心に直送される。

旬の季節野菜をそろえたセットの購入や、農園の見学はHP(https://81farm.organic/)より問い合わせ可。

〈Micotoya House(ミコトヤ ハウス)〉

DSC08476

〈青果ミコト屋〉がスタートし、10年を迎えた今年2月オープン。青果店と野菜の定期販売の出荷場、そしてアイスクリーム店を併設する。小高い丘に立つレンガ造りのビルが目印。東急田園都市線藤が丘駅から徒歩10分。
■神奈川県横浜市青葉区梅が丘7-8
■045-507-3504
■11:00~18:00 水木休
■Instagram:@micotoya

お話を伺ったのは…

DSC08468

山代 徹(左・やましろ・とおる)、鈴木鉄平(右・すずき・てっぺい)/実店舗をもたない“旅する八百屋”として、2010年から移動式の野菜販売を開始。今年2月に二人の地元、青葉区梅が丘に〈Micotoya House〉をオープン。現在も全国の農家へ足を運びながら、野菜とその生産者の想いを届けている。

(Hanako1197号掲載/photo : Kiyoko Eto text : Ami Hanashima edit : Kana Umehara)

Videos

Pick Up