街を盛り上げる次世代たち。 次世代のキーパーソンたちが考える“日本橋の未来”とは。『自分たちだけが流行ればいいという考えじゃ、うまくいかないしつまらない。』 LEARN 2020.10.22

老舗の名店が立ち並ぶ大銀座の中で、新世代の活躍だって見逃せない。古き良き街の魅力を理解しながら、新たな風を吹き込んでいる面々に話を聞いてみた。今回は、日本橋エリアのキーパーソンとして、〈K5〉館長の山下聡一廊さん、〈鰻 はし本〉の橋本正平さん、〈Neki〉西恭平さんの3人にお話を聞きました。街全体で大規模な「日本橋再生計画」が進められているこのエリア。重厚な建築物を生かして“残す”再開発の計画も見られ、中でも〈K5〉を中心とした兜町エリアは今話題のスポットとなっています。

〈鰻 はし本〉の店前にて。路地の中で、「う」の看板が目を引く。取材の前日には、〈K5〉のメンバーと西さんが鰻をいただいたのだそう。
〈鰻 はし本〉の店前にて。路地の中で、「う」の看板が目を引く。取材の前日には、〈K5〉のメンバーと西さんが鰻をいただいたのだそう。

日本橋エリアのキーパーソンとしてこの日集まってもらったのは、兜町に2月にオープンした複合施設〈K5〉館長の山下聡一廊さんと、創業70年以上という老舗〈鰻 はし本〉の橋本正平さん、兜町エリアにレストラン〈Neki〉を5月にオープンさせた西恭平さん。同じ日本橋エリアに店を構えている者同士というだけでなく、「ナチュラルワイン好き」という共通点もあり、夜な夜なワインを飲み交わしているのだとか。金融とビジネスの街として知られたこのエリアにここ最近新しいムードが生まれているのには、彼らの活躍が関係している。

山下聡一廊さん(以下、山下):ホテルやレストラン〈CAVEMAN〉、コーヒーショップ〈SWITCH COFFEE〉、ライブラリーバー〈青淵-Ao-〉、ビアホール〈B〉を有する複合施設の〈K5〉は、このエリアに複数の物件を所有する平和不動産株式会社が進める「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」の一環なんです。
西恭平さん(以下、西):僕は〈ease〉の大山恵介さんに誘われて物件を見に行きました。前職は渋谷の店だったので、次は違うエリアでやりたいなと思っていたところで、古き良き街並みも気に入って〈K5〉の計画も興味深かったので、この地で独立することを決意しました。

山下:もともと兜町には、仲間や仲間を介して繋がる人にテナントとして入ってきてもらい、一緒に盛り上げてほしいと思っていました。やっぱり自分たちだけが流行ればいいという考えじゃうまくいかないしつまらない。エリア全体を盛り上げていきたいですし、素敵なレストランやパティスリーは街には不可欠ですから。橋本さんも八重洲から〈CAVEMAN〉によく飲みに来てくれるようになって、鰻を使ったコラボレーションイベントもやらせてもらいましたね。
橋本正平さん(以下、橋本):ナチュラルワインが好きで通っていた〈ピヨッシュ〉で、〈CAVEMAN〉のシェフの黒田敦喜(あつき)さんと出会い、意気投合したのがイベントをやることになったきっかけですね。うちのお客さんや地元の人も参加してくれて、いい機会になったと思います。
山下:本当にそうなんです。僕たちは外から若いお客さんが来てくれていることももちろんありがたいのですが、地元に根付いていくことも大切だと思っています。〈青淵-Ao->に頻繁に訪れ、1時間だけ飲んでいくようなご年配の方もいて、うれしい限りです。

橋本:僕は、ナチュラルワインや音楽好きといった共通点を持った、バイブスの近い、同世代が集まっている今の兜町の状況を新鮮に感じているけれど、今後さらに老若男女が集える場所が増えるととてもいいですよね。〈K5〉を中心に、盆踊りとかやってくれたらいいのに。
山下:やりたいですね。今年は難しかったですが、今後はパブリックスペースもうまく使って、マルシェもやりたいと思っています。
西:マルシェ、いいですね。僕たちも参加したいです。橋本いいですね。日本橋は大きなビルが目立つけれど、その合間合間に絶妙なパブリックスペースがあってそこがいいチルスポットになっているんですよ。例えば福徳神社もそう。昼休みに会社員の人たちが休憩していたり、買い物の合間にひと息ついている人がいて、ああいう場所が残っていくといいなと思いますね。

山下:大きな再開発は進んでいますが、僕らも街の資源をいかに残して有効に使っていくかは意識しました。中に入っている店が新しくて尖ったムードでも、建物自体に歴史の重みがあるので、中と外で絶妙なバランスがとれているのだと思います。
橋本:鰻屋〈松よし〉の築1年の建物を生かした〈Omnipollos Tokyo〉、〈Human Nature+SR〉もすごくいいですよね。
西:うちのお客さんもハシゴしていく人が多いんですよ。若い人が多いけれど、街のムードを楽しんでくれているんじゃないかと思います。
山下:オープン直後にコロナウイルス問題に直面し危機も感じましたが、今は国内のお客さんが盛り上げてくれている。近郊で暮らす人々にも街の魅力を感じてもらえるいい機会になっているんじゃないかと思います。

今回登場したお店は…

1.〈K5〉
大正12年竣工の歴史的建造物を生かした複合施設。地下と1階に飲食店を構え、2階〜4階は、20客室を有する宿泊施設になっている。ストックホルムを拠点とするデザイナーチームがインテリアデザインを手がけた。
■東京都中央区日本橋兜町3-5
■03-5962-3485

2.〈鰻 はし本〉
信頼する鹿児島、静岡、岡山の「生産者の顔が見える鰻」にこだわり、全てを堪能できるコースも(前日正午までの要予約)。
■東京都中央区八重洲1-5-10
■03-3271-8888
■11:00〜14:30(土11:30〜15:00)、17:00〜22:00(完売次第終了)
■40席/禁煙

3.〈Neki〉
日本の四季の食材を使ったフレンチをカジュアルなスタイルで楽しめる。バーメニューの利用も可能。店内のBGMは西さん自身がレコードから選曲する。
■東京都中央区日本橋兜町8-1
■03-6231-1988
■11:00〜14:30、18:00〜22:00 日休
■27席/禁煙
※ドリンクのみのベンチ程度

4.〈ease〉
フランスや北参道の〈シンシア〉などで経験を積んだ大山恵介さんの店。ネキフランス語で“金融家”を意味する名前を持つ焼き菓子、フィナンシェは兜町土産に最適。
■東京都中央区日本橋兜町9-1
■03-6231-1681
■11:00〜19:00 不定休
■6席/禁煙

5.〈Omnipollos Tokyo〉
ポップなラベルが目を引く、北欧のクラフトビール店のアジア1号店。11種の直送タップビールがそろう。歴史ある木造家屋が生まれ変わった。
■東京都中央区日本橋兜町9-5
■15:00(土13:00)〜22:00(日祝〜21:00)月休
■20席/禁煙

Navigators…

FotoJet (1)

左・橋本正平(はしもと・しょうへい)/1979年、東京都生まれ。東京・八重洲の川魚料理〈鰻はし本〉の4代目店主。DJとしての顔も持つ音楽好き。『新しいバイブスに、刺激を受けていますよ』

中・ 山下聡一廊(やました・そういちろう)/1984年、神奈川県生まれ。ブランディングやケータリング業などを経て〈K5〉の立ち上げに携わり、館長に。『僕たちが望むのは街全体が盛り上がること』

右・ 西 恭平(にし・きょうへい)/1983年、京都府生まれ。フランス・アルザスで修業後、渋谷〈Bistro ROJIURA〉などを経て、〈Neki〉をオープン。『西側ともまた違う、東京の面白さを感じます』

(Hanako1189号掲載/photo:Naoto Date text & edit:Rio Hirai)

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