お気に入りのお酒を持参できる。 怖くないカウンター寿司入門!格別のヒカリモノを堪能できる〈鮨大前〉へ。 FOOD 2018.05.02

大人の社交場、有楽町高架下。ここに、知る人ぞ知る人気店〈鮨大前〉がある。なんでも“ヒカリモノ”に特化したお寿司屋さんなのだとか。「何から頼んでいいのかわからない」というお寿司初心者でも大丈夫。青魚のおいしいところを余すところなく楽しめる、おまかせコース全品を紹介します。

「鯖のおいしい店」が目印。
「鯖のおいしい店」が目印。

新橋から有楽町に続くガード下には、焼き鳥、もつ焼き、ビアホールなどさまざまな飲食店が並ぶ大衆酒場パラダイス。多くのサラリーマンでごった返すイメージが強いかもしれないが、実は女性からも高い支持を集める寿司屋がある。日比谷駅から徒歩3分ほどの場所にある〈鮨大前〉だ。ダンディーな銀髪の大将・大前守さんと、はじける笑顔が印象的な息子の欽尉さん、てきぱきと軽やかに動く娘の京子さん、三人の親子が切り盛りするアットホームな店である。

守さん、欽尉さんとの程よい距離感もいい、L字のカウンター。
守さん、欽尉さんとの程よい距離感もいい、L字のカウンター。

中はこぢんまりとしていてカウンター9席のみ。2000年に開店した当時は一般的な寿司屋のようにさまざまな魚を用意していたというが、「スペースが限られていて、大きな冷蔵庫が置けないので、ネタをしぼることにしたんです」と欽尉さん。そこで、焦点をあてたのがサバだった。日本では青森、宮城、千葉、静岡、瀬戸内、大分など一年を通し、各地で脂がのったおいしい鯖が獲れる。その時に食べられる一番おいしいサバを軸にして、コハダやアジ、サンマなど旬のヒカリモノも楽しめるコースを提供することにした。だが、ヒカリモノはほかの魚に比べて足が早いため、それを店のウリにするのは相当な覚悟がいる。「築地に近いので、新鮮なモノが手に入る。さらに、席数が限られているので大体の来客数を把握でき、量を見極めて仕入れることでロスをおさえられます。大きな寿司屋ではできないことをする”。逆転の発想です」と欽尉さん。

千切りにしたミョウガと相性抜群のシラウオの小鉢。
千切りにしたミョウガと相性抜群のシラウオの小鉢。

メニューはおかませコースのみ(7,000円〜)。ビールや日本酒などアルコールの提供はない。これも冷蔵庫が置けないからという理由なのだが、客が持参するのはOKで、しかも持ち込み料を取らない。着席すると同時に、持ち込んだビールをテーブルにおけばグラスが出てくるし、要冷蔵の日本酒や焼酎はボトルクーラーに入れて冷やしてくれる。まずは持参た飲み物で喉を潤したところで、お通しが出てくる。この日は、宮城県産シラウオの小鉢。透き通るように美しいシラウオはさっぱりとしていて、グラスを傾けるスピードがついつい速くなる。

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この日、持参したのは〈東京ミッドタウン日比谷〉にある〈住吉酒販〉で購入した日本酒「6513」。口当たりが軽やかでヒカリモノと相性がいい。

二種の鯖、マグロの頭肉、ホタテ、アマエビ、シマアジ。
二種の鯖、マグロの頭肉、ホタテ、アマエビ、シマアジ。

二品目は、お造り。〈鮨大前〉では、産地が違う二種類のサバを盛るのが特徴で、今日は千葉県外房産と、大分県豊後水道産の二つ。「外房のサバはわさび、柚子胡椒、醤油と合わせて。豊後のサバは脂がのっているので、ガリと合わせて食べてみてください」とおすすめの食べ方も合わせて紹介してくれる。

「初ガツオの塩タタキ」は生臭さがまったくない。
「初ガツオの塩タタキ」は生臭さがまったくない。

続いて、季節の一皿。この日は塩でたたいた初ガツオ、富山県産のホタルイカ、岩手三陸の生ワカメがセットになって登場した。「塩タタキのカツオは息子が考案したもので、自慢メニューの一つ。タタキ具合と塩加減が絶妙でお酒が進むんです」と大将。ちなみに、カウンターを切り盛りする守さん、欽尉さんの役割分担を聞いたところ、「僕が主に作って、大将がおしゃべり担当です」とのこと。

焼き物は、旨味が凝縮した子持ちのササガレイをセレクト。
焼き物は、旨味が凝縮した子持ちのササガレイをセレクト。

四品目は焼き物。イワシ、ハタハタ、ノドグロなど、その日にラインナップしている五種類の干物から客が好きなものを選べるようになっている。焼き物は姉の京子さんの担当で、カウンターの隣にあるコンパクトな厨房からいい香りをさせながら、熱々ほくほくの焼き魚が出てくる。

「東京で食べられるなんて!」と感動する人も多い胡麻鯖。
「東京で食べられるなんて!」と感動する人も多い胡麻鯖。

五品目は、福岡の郷土料理で有名な胡麻鯖。「九州の濃口醤油とねりごまを加えて和えています」と欽尉さん。

ピカピカに輝くヒカリモノの握り。
ピカピカに輝くヒカリモノの握り。

六品目は握り。こちらもその日の仕入れによって内容に変更があるが、新鮮なアジ、イワシ、サヨリ、コハダの四つのネタが麗しく並んで登場した。

頭ごと食べられるアマエビの味噌汁。
頭ごと食べられるアマエビの味噌汁。

〆は汁椀で、この日はアマエビの出汁でとった味噌汁が運ばれてきた。濃厚な出汁が五臓六腑に沁み渡る。全七品のおまかせコースは、少食な女性にとっては品数が多いと感じるかもしれないが、ペロリと食べられてしまうはず。それは、ネタが新鮮でおいしいというだけではなく、丁寧な仕事っぷりが理由なのかもしれない。「ヒカリモノは選別と仕込みが命」と守さんは言う。「マグロやトロのようにお金を払えばそれなりのものが手に入り、誰が握ってもおいしいというわけにはいかないんです」と。だから、確かな目利きときめ細かな仕込みがモノを言う。二人の職人の実直な姿勢が、一品ずつに反映されているのだ。

「喧嘩も多いけど、お客さんの前では仲良くやってます」と守さん、欽尉さん親子。
「喧嘩も多いけど、お客さんの前では仲良くやってます」と守さん、欽尉さん親子。

さらにここでは守さん、欽尉さん親子の軽妙な掛け合いもお客さんの楽しみの一つ。“カウンターでいただく寿司”と聞くと、緊張してしまいがちだが、気さくな家族経営の寿司屋は、張り詰めた空気がない。また、常連のお客さんもみな親切な人ばかりで、互いに持ち込んだお酒を勧めあったりして、和気藹々。気負わずにおいしい寿司を食べたくなったら、ガード下の暖簾をくぐってみよう。

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