「Pさん、理想の洋食屋さんに連れていってください。」 【大銀座の洋食】昼も夜も楽しめる洋食店。日本橋〈レストラン桂〉 FOOD 2022.10.19

日本橋、日比谷から銀座へと続く「大銀座エリア」には、有名な洋食屋さんが数多くある。おいしい洋食をめざして「銀座の街」へと出向いても、一体どこに行けば「正解」が食べられるかが問題だ。そこで、豊富な料理取材経験をお持ちのPさんこと渡辺紀子さんの指南を仰ぐことに。「それでは」と連れていかれたのは、日本橋のど真ん中にある、小さな佇まいのお店だった。

洋食は日本人の叡智が生んだ、和魂洋才の賜物である。子どもから年配の方まで、ここまで幅広く親しまれる料理なんてそうはない。西洋の料理を巧みに取り入れ、言い方はヘンだけど、日本人の胃袋の琴線に触れる料理へと昇華した、その功績にただただ感謝である。先人の皆様、よくぞ、こんな素晴らしい料理を開発してくださったと、御礼を言いたい。では、至高の洋食ワールドへいざ。まずは、日本橋の店へご案内したい。再開発で見違えるほどスタイリッシュになった〈コレド室町2〉界隈。そこに、まるで取り残されたような昭和な一角がある。

古めかしいショーケースには、ちょっと埃っぽい豚肉生姜焼きやスパゲティなどの食品サンプルが並んでいて、店に入る前から洋食気分がぐっと上がる。白いビニールクロスのかかったテーブルには、シルバーの紙ナプキン立てがおかれていて、これぞ、ザ・洋食店! と、さらに気分が上がる。

ランチの一番人気はメンチカツなのだが、有頭海老フライ&豚ヒレ肉カツレツもいいよね、オムライスもいいかもと、いつも悩む。でも、結局メンチカツに落ち着くのである。メンチは円盤形。デミグラスソースがたっぷりかかっているのだが、ちょうどメンチの半分までかけるのが〈桂〉の美学。ナイフを入れるとジュワッと肉汁があふれ、ソースと混ぜながら食べると一口目からシアワセになる。ご飯と食べるとさらにおいしい。洋食ならではの醍醐味だ。

この店、創業は昭和38(1963)年。今は2代目の手塚清照さんが厨房を守り、ホールは〝おかあさん〞こと母・清美さん率いるテキパキおばさまチームが担当。昼どきは次から次に来る客を見事にさばく。

“おかあさん”こと、母の清美さんと清照さん。今年春、亡くなった先代のご主人は80歳を過ぎてもバリバリ現役だった。
“おかあさん”こと、母の清美さんと清照さん。今年春、亡くなった先代のご主人は80歳を過ぎてもバリバリ現役だった。

夜は昼の賑わいとは別の顔を持つ。奥のカウンターに、ウイスキーや焼酎のボトルがびっしり並んでいるのを不思議に思った方がいるかもしれないが、夕方からは近隣のサラリーマンたちの憩いの場、人気の洋食酒場になる。つまみもバッチリ用意されている。ポテサラはもちろん、ししゃもや焼き鳥、串焼き、レバニラ炒めなどなど飲めるメニューが揃っているのだ。それだけじゃない、グランドメニューから洋食も注文可なのが嬉しい。

〆は猫スパこと、醬油味の鰹節入りスパゲティをシェアする客が多いそう。「ご近所の〈にんべん〉の鰹節をたっぷりかけてるんだけど、常連の〈山本海苔店〉の副社長さんが、うちの海苔も使って、と。それで海苔も加えたの(笑)」と、おかあさん。こんな、のどかであったかい洋食店、どうぞ、このままずっと続きますように。おかあさん、また来ます。

こ、これが猫スパ950円。鰹節もたっぷりだけど、海苔もたっぷり。ミートソースもいいけど、お酒の後の日本人の胃袋には醬油味がふさわしい。
こ、これが猫スパ950円。鰹節もたっぷりだけど、海苔もたっぷり。ミートソースもいいけど、お酒の後の日本人の胃袋には醬油味がふさわしい。

〈レストラン桂〉

DMA-_2AC2730

住所:東京都中央区日本橋室町1-13-7
TEL:03-3241-4922
営業時間:11:00~14:00LO、17:00~20:30(ドリンク20:45)LO 
定休日:土夜、日祝休
席数:42席

Navigator…渡辺 “P”紀子

わたなべ・みちこ/愛媛県今治出身。 文化出版局を経て、フリーの料理記者に。料理本の企画・編集のほか 『CREA』『BRUTUS』『Hanako』でも執筆。

photo : Yoichi Nagano text : Michiko Watanabe

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